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 先に示した中央教育審議会答申の内容を踏まえながら,学習指導要領の改訂を行った。

 今回の改訂の要点は次のようなものである。

 
 

 理科で育成を目指す資質・能力を育成する観点から,自然の事物・現象に進んで関わり,見通しをもって観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈するなどの科学的に探究する学習を充実した。

 また,理科を学ぶことの意義や有用性の実感及び理科への関心を高める観点から,日常生活や社会との関連を重視した。

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 それらを踏まえ,以下の@からBについて改善を行った。

 目標については,育成を目指す資質・能力を三つの柱「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」に沿って整理し改善を図っている。

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 内容については,育成を目指す資質・能力のうち「知識及び技能」をアとして,「思考力,判断力,表現力等」をイとして示し,両者を相互に関連させながら育成できるよう改善を図っている。

 なお,「学びに向かう力,人間性等」については,第1分野,第2分野の「目標」にそれぞれ示している。

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 また,従来,理科においては「科学的な見方や考え方」の育成を目標として位置付け,資質・能力を包括するものとして示してきた。

 今回の改訂では,「見方・考え方」は資質・能力を育成する過程で働く,物事を捉える視点や考え方として全教科等を通して整理されたことを踏まえて示すようにする。

 自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の理解,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する技能などを無理なく身に付けていくためには,学習内容の系統性を考慮するとともに,資質・能力の育成を図る学習活動が効果的に行われるようにすることが大切である。

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 この観点から学習内容を見直し,一部を他の学年等へ移行したり,整理統合したりして,学習内容の改善を図っている。

 生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を図り,中学校の3年間を通じて理科で育成を目指す資質・能力の育成を図るため,アにはどのように知識及び技能を身に付けるかを含めて示し,イには重視する学習の過程も含めて示している。

 
 

 目標の示し方については,中学校理科全体のねらいを述べた教科の目標と,これを受けて第1分野,第2分野の目標を,育成を目指す資質・能力である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」に分けて具体的に記述している。

 教科の目標は,中央教育審議会答申や小学校から高等学校までの理科の目標の一貫性を考慮して示している。

 

 中学校では,

「自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」

とあるように,生徒が自然の事物・現象に進んで関わり,問題を見いだし見通しをもって観察,実験を行うなど,自ら学ぶ意欲を重視した表現としている。

 

 また,従前の「探究する能力の基礎」を「科学的に探究するために必要な資質・能力」とし,科学的に探究する活動をより一層重視し,高等学校理科との円滑な接続を図っている。

 分野の目標は,両分野とも(1)から(3)までの三つの柱から成り立っている。

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 (1)については,自然の事物・現象についての観察,実験などを行い,それらに関する知識や,科学的に探究するために必要な観察,実験の技能を身に付けることを述べている。
(図2:16,17ページ,図3:18,19ページ)

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 (2)については,自然の事物・現象に関わり,それらの中に問題を見いだし見通しをもって観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し表現するなど,科学的に探究する活動を通して,科学的な思考力,判断力,表現力等を育成することを述べている。
(図4:20ページ)

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 (3)については,自然の事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする態度や生命の尊重,自然環境の保全に寄与する態度を育て,更には自然を総合的に見ることができるようにすることの重要性を述べている。
(図4:20ページ)

 
 

 理科における「見方(様々な事象等を捉える各教科等ならではの視点)」については,理科を構成する領域ごとの特徴を見いだすことが可能であり,

 「エネルギー」を柱とする領域では,自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉えることが,

 「粒子」を柱とする領域では,自然の事物・現象を主として質的・実体的な視点で捉えることが,

 「生命」を柱とする領域では,生命に関する自然の事物・現象を主として共通性・多様性の視点で捉えることが,

 「地球」を柱とする領域では,地球や宇宙に関する自然の事物・現象を主として時間的・空間的な視点で捉えることが,

 それぞれの領域における特徴的な視点として整理することができる。

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 ただし,これらの特徴的な視点はそれぞれの領域固有のものではなく,その強弱はあるものの他の領域において用いられる視点でもあり,また,これら以外の視点もあることについて留意することが必要である。

 また,探究の過程において,これらの視点を必要に応じて組み合わせて用いることも大切である。

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 理科における「考え方」については,図1(9ページ)で示した探究の過程を通した学習活動の中で,例えば,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えることとして整理することができる。

 なお,この「考え方」は,物事をどのように考えていくのかということであり,資質・能力としての思考力や態度とは異なることに留意が必要である。

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 以上を踏まえ,中学校における「理科の見方・考え方」については,「自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること」と整理することができる。

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 例えば,比較することで問題を見いだしたり,既習の内容などと関係付けて根拠を示すことで課題の解決につなげたり,原因と結果の関係といった観点から探究の過程を振り返ったりすることなどが考えられる。

 そして,このような探究の過程全体を生徒が主体的に遂行できるようにすることを目指すとともに,生徒が常に知的好奇心をもって身の回りの自然の事物・現象に関わるようになることや,その中で得た気付きから課題を設定することができるようになることを重視すべきである。

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 理科の学習においては,「理科の見方・考え方」を働かせながら,知識及び技能を習得したり,思考,判断,表現したりしていくものであると同時に,学習を通して,「理科の見方・考え方」が豊かで確かなものとなっていくと考えられる。

 なお,「見方・考え方」は,まず「見方」があって,次に「考え方」があるといった順序性のあるものではない。

 
 

 今回の改訂においても,従前と同様に「エネルギー」,「粒子」,「生命」,「地球」などの科学の基本的な概念等を柱として構成し,科学に関する基本的概念の一層の定着を図ることができるようにしている。

 その際,小学校,中学校,高等学校の一貫性に十分配慮するとともに,育成を目指す資質・能力,内容の系統性の確保,国際的な教育の流れなどにも配慮して内容の改善及び充実を図った。

 なお,小学校及び中学校の7年間を通じた「エネルギー」,「粒子」,「生命」,「地球」を柱とした内容の構成を,図2,図3(16〜19ページ)に示す。

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 今回の改訂で,内容の系統性の確保とともに,育成を目指す資質・能力とのつながりを意識した構成,配列となるように,改善・充実した主な内容,移行した主な内容は,以下のとおりである。

[第1分野]

・ 第3学年に加えて,第2学年においても,放射線に関する内容を扱うこと

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[第2分野]

・ 全学年で自然災害に関する内容を扱うこと

・ 第1学年において,生物の分類の仕方に関する内容を扱うこと

 (1)及び(2)は第1学年,(3)及び(4)は第2学年,(5)から(7)までは第3学年で取り扱うものとする。

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[第1分野]

・ 電気による発熱
 (小学校第6学年から(3)へ)

・ 圧力
 ((1)から(5)へ,(1)から第2分野(4)へ)

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[第2分野]

・ 葉・茎・根のつくりと働き
 ((1)から(3)へ)

・ 動物の体の共通点と相違点
 ((3)から(1)へ)

・ 生物の種類の多様性と進化
 ((3)から(5)へ)

・ 自然の恵みと火山災害・地震災害
 ((7)から(2)へ)

・ 自然の恵みと気象災害
 ((7)から(4)へ)

 今回の改訂では,3年間を通じて計画的に,科学的に探究するために必要な資質・能力を育成するために,各学年で主に重視する探究の学習過程の例を以下のように整理した。

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・ 第1学年:自然の事物・現象に進んで関わり,その中から問題を見いだす

・ 第2学年:解決する方法を立案し,その結果を分析して解釈する

・ 第3学年:探究の過程を振り返る

 授業時間数については,第1学年は105時間,第2学年は140時間,第3学年は140時間であり,従前と同じである。

 今回の改訂でも授業時間数を維持することによって,科学に関する基本的概念の一層の定着を図るとともに,観察,実験の結果を分析して解釈するなどの科学的に探究する学習活動を重視することによって,思考力,判断力,表現力等の育成を図るようにした。

 さらに,日常生活や社会との関連を重視し,科学的な体験,自然体験の充実を図るようにした。

 
 

 指導計画の作成と内容の取扱いについては,従前のものを維持するとともに,理科の見方・考え方を働かせ,問題を見いだし,見通しをもって観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈するなどの科学的に探究する学習活動を重視し,その方向性を強化した。

 また,以下に示したものを今回の改訂で新たに加えた。

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ア 単元など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を図るようにすること。その際,理科の学習過程の特質を踏まえ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動が充実するようにすること。

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イ 日常生活や他教科等との関連を図ること。

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ウ 障害のある生徒などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。

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エ 言語活動が充実するようにすること。

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オ 指導に当たっては,生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるよう工夫すること。

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カ 観察,実験,野外観察などの体験的な学習活動の充実に配慮すること。

 また,環境整備に十分配慮すること。

 
 
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