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3 観察,実験,野外観察の指導に当たっては,特に事故防止に十分留意するとともに,使用薬品の管理及び廃棄についても適切な措置をとるよう配慮するものとする。

 理科の学習における観察,実験,野外観察などの活動は,科学的な知識を身に付けたり,科学的に探究する力を育てたりする上でも重要なものであり,また,観察,実験の技能は,実際にそれらの活動を行ってはじめて習得されるものである。

 さらに,生徒の興味・関心や科学的に探究しようとする態度といった情意面での望ましい発達を図るには,実物を直接目にして驚いたり,感動したり,疑問をもったりする観察,実験,野外観察が最適である。

 このような活動を安全で適切に行うためにも,事故の防止,薬品の管理や廃棄物の処理などについて十分配慮することが必要である。

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 事故を心配する余り,観察,実験を行わずに板書による図示や口頭による説明に置き換えるのではなく,観察,実験を安全に行わせることで,危険を認識し,回避する力を養うことが重要である。

 
 

 年間の指導計画の中に観察,実験,野外観察の目的や内容などを明確にしておくことは,校内の迅速な連携対応,事故防止のためにも不可欠である。

 また,計画を立てる際には,生徒のその段階における観察,実験の知識及び技能についての習熟度を掌握し,無理のないような観察,実験を選ぶことや,学習の目標や内容に照らして効果的で,安全性の高い観察,実験の方法を選ぶことが大切である。

 日頃から学級担任や養護教諭などと生徒情報の交換を密に行い,授業において配慮すべき生徒については,その実態を把握することが大切である。

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 一方,様々な注意をしていても事故が起きる場合もある。

 こうした際には,負傷者に対する応急処置や医師との連絡,他の生徒に対する指導など,全てを担当の教師一人で対応するのが難しいこともある。

 校内や野外観察などでの万一の事故や急病人に備えて,保健室,救急病院,関係諸機関,校長及び教職員などの連絡網と連絡の方法を,教職員が見やすい場所に掲示するなどして,全教職員に周知しておくことが必要である。

 事故発生の際には,保護者への連絡を忘れてはならない。

 観察,実験の安全を確保するために,予備実験は行っておくことが必要である。

 例えば,使用する薬品の濃度が高かったり量が多すぎたりすると,急に激しい反応が起こったり有毒な気体が多量に発生したりして事故につながる可能性が高くなるので,適切な実験の方法や条件を確認しておく。

 特に,グループで実験を行う場合は,全てのグループが同時に実験を行うことを想定し,その危険要素を検討しておく。

 薬品の扱いについては,その薬品の性質,特に爆発性,引火性,毒性などの危険の有無を調べた上で取り扱うことが大切である。

 観察,実験の器具については,整備点検を日頃から心掛けなければならない。

 これが十分でないと,観察,実験の際,無駄な時間を費やすだけでなく,怪我や事故につながりやすい。

 また,使用頻度の高いガラス器具などはひび割れが原因で思わぬ事故となることもあり,洗浄が不十分なガラス器具などは,残留している薬品によって予期せぬ反応が起こることなどもあるので事前の点検が大切である。

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 一方,
 生徒にも安全対策に目を向けさせる
 ことが大切である。

 観察,実験において
 事故を防止するためには,
 基本操作や正しい器具の使い方などに
 習熟させるとともに,
 誤った操作や使い方をしたときの
 危険性について
 認識させておくことが
 重要である。

 

 例えば,
 加熱器具について,
 それらの機能及び燃料などの特性を
 十分に理解した上で
 確実で合理的な加熱器具を選択し,
 その操作に習熟させる
 よう指導するとともに,

 事故例とその原因などを
 把握しておくこと
 が肝要である。

 

 観察,実験中には,
 ふざけて事故を起こすことのないよう
 教師の指示に従うこと,

 机上は整頓して操作を行うこと,

 危険な水溶液などは
 トレイの上で扱うこと,

 終了時には,
 使用した器具類に
 薬品が残っていないように
 きれいに洗い,
 元の場所へ返却し,
 最後に手を洗うこと,

 余った薬品を返却すること,

 また,
 試験管やビーカーを
 割ってしまったときには
 教師に報告し,
 ガラスの破片などを
 きれいに片付けること

 などの観察,実験の基本的な態度を
 身に付けさせることも
 必要である。

 日頃から理科室内を整理整頓しておくことが重要である。

 理科室では,生徒の使い易い場所に薬品や器具,機器などを配置しそれを周知しておくことも必要である。

 また,生徒の怪我に備えて救急箱を用意したり,防火対策として消火器や水を入れたバケツを用意したりしておくことが望ましい。

 さらに,換気にも注意を払うことが必要である。

 特に,アンモニア,硫化水素,塩素などの刺激臭をもつ気体や有毒な気体を発生させる実験では十分な換気をする必要がある。

 観察や実験のときの服装についての配慮も大切である。

 器具に袖口を引っかけて薬品を倒したり,衣服に火が着いて火傷をしたりする例もある。

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 これらの事故から身を守るために,余分な飾りがなく機能的な服装をさせること,また,なるべく露出部分が少なく,緊急の場合の脱衣が容易であり引火しにくい素材の服や靴を着用させることが望ましい。

 前ボタンは必ず留め,長い髪は後ろで束ねて縛っておき,靴は足先が露出せず覆われているものを履くように指導するなどの配慮が必要である。

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 また,飛散した水溶液や破砕した岩石片などが目に入る可能性のある観察,実験では,常に保護眼鏡を着用させるようにする。

 教師は事故の対策を心得ておくことも大切である。

 過去に起こった事故や予想される事故を検討し応急処置について日頃から考えておくと事故に遭遇したときでも冷静沈着な行動がとれる。

 例えば,薬品が眼に入った場合は流水で洗眼をした後,直ちに医師の手当てを受けさせる。

 火傷をしたときは患部を直ちに冷水で水ぶくれが破けないように冷やし早急に専門の病院へ行かせる。

 また,生徒が怪我をした場合,応急処置をして医師の手当てを受けさせると同時に怪我をした生徒の保護者への連絡を忘れてはならない。

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 平素から校医などと十分に連絡をとり,緊急の時にどのように対処すればよいのかについて具体的に決めておくと,不慮の事故の場合でもより冷静に対処することができる。

 野外観察では,観察予定の場所が崖崩れや落石などの心配のない安全な場所であることを確認するとともに,斜面や水辺での転倒や転落,虫刺されや草木によるかぶれ,交通事故などに注意して安全な観察を行わせるように心掛ける。

 事前の実地踏査は,観察場所の安全性の確認や観察場所に至るルートの確認という点で重要である。

 とりわけ,河川などの状況は開発等の人為的な活動や風雨などの気象現象により大きく変わることもあるので注意する。

 加えて,観察当日の天気や気候にも注意して不慮の事故の発生を防ぐようにする。

 また,緊急事態の発生に備えて連絡先,避難場所,病院なども調べておくことが必要である。

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 野外観察のために河原や雑木林などを歩く場合,靴は滑らないものでしっかりとしたものがよい。

 服装は,虫刺されやかぶれ,紫外線などの危険から身を守るために,できるだけ露出部分の少ないものが適している。

 また,日ざしの強い季節には,帽子をかぶることなども必要である。

 岩石の採集で岩石ハンマーを扱う際には,手袋や保護眼鏡を着用させるようにする。

 
 

 薬品などの管理は,地震や火災,盗難などに備えて,また法令に従い,厳正になされるべきである。

 その際,関係諸機関とも連絡を密にして行われる必要がある。

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 薬品は,一般に直射日光を避け冷所に保管し,異物が混入しないように注意し,火気から遠ざけておく。

 また,例えば,強酸(塩酸など),強い酸化剤(過酸化水素水など),有機化合物(エタノールなど),発火性物質(硫黄など)などに大別して保管する。

 地震などにより転倒することがないよう薬品庫の内部に仕切りなどを設けるのも一つの方法である。

 爆発,火災,中毒などの恐れのある危険な薬品の保管場所や取扱いについては,消防法,火薬類取締法,高圧ガス保安法,毒物及び劇物取締法などの法律で定められている。

 薬品はこれらの法律に従って類別して薬品庫の中に入れ,紛失や盗難のないよう必ず施錠する。

 また,万が一危険な薬品の紛失や盗難があったときには直ちに各学校の管理責任者へ届け出る。

 薬品の購入は年間指導計画に従って最小限にとどめる。

 特に危険な薬品類は余分に購入しないよう留意する。

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 また,薬品在庫簿を備え,時期を決めて定期的に在庫量を調べることが必要である。

 在庫簿には,薬品の性質,特に爆発性,引火性,毒性などの危険の有無も一緒に記載しておく。

 
 

 有毒な薬品やこれらを含む廃棄物の処理は,大気汚染防止法,水質汚濁防止法,海洋汚染防止法,廃棄物の処理及び清掃に関する法律など,環境保全関係の法律に従って処理する必要がある。

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 中学校では,実験で使用する薬品の年間使用量は危険物取扱いに関する法令による規制の対象となるほど多くはない。

 しかし,廃棄物の処理は生徒に環境への影響や環境保全の大切さを考えさせるよい機会となる。

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 特に,薬品を廃棄する場合,例えば,酸やアルカリの廃液は中和してから多量の水で薄めながら流すなど適切な処理をする必要がある。

 一方,重金属イオンを含む廃液は流すことを禁じられているのでそのまま廃棄することはせず容器に集めるなど,適切な方法で回収保管し,最終処分は廃棄物処理業者に委託する。

 また,資源の有効利用や環境保全の観点から,観察,実験の終了後も不純物が混入していない薬品や未使用の薬品などは廃棄せず,利用できるように工夫する。

 さらに,マイクロスケールの実験など,使用する薬品の量をできる限り少なくした実験を行うことも考えられる。

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 危険防止の観点から,反応が完全に終わっていない混合物については,完全に反応させてから,十分に冷まして安全を確認してから処理することが必要である。

 
 
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