cosnavi.jp
 外国語活動では,次のように目標を設定した。

第1 目標

 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

 外国語活動の目標は,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を育成することである。

 このためには,次の(1)(2)(3)に示す「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」それぞれに関わる外国語特有の資質・能力を育成する必要があり,その際,外国語教育の特質に応じて,児童が物事を捉え,思考する「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」を働かせることが重要である。

--------------------------------

 「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」とは,

外国語によるコミュニケーションの中で,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのかという,物事を捉える視点や考え方であり,

「外国語で表現し伝え合うため,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築すること」である

と考えられる。

--------------------------------

 外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉えるとは,外国語で他者とコミュニケーションを行うには,社会や世界との関わりの中で事象を捉えたり,外国語やその背景にある文化を理解するなどして相手に十分配慮したりすることが重要であることを示している。

 また,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報を整理しながら考えなどを形成し,再構築することとは,多様な人々との対話の中で,目的や場面,状況等に応じて,既習のものも含めて習得した概念(知識)を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,課題を見いだして解決策を考えたり,身に付けた思考力を発揮させたりすることであり,外国語で表現し伝え合うためには,適切な言語材料を活用し,思考・判断して情報を整理するとともに,自分の考えなどを形成,再構築することが重要であることを示している。

--------------------------------

 外国語によるコミュニケーションの一連の過程を通して,このような「見方・考え方」を働かせながら,自分の思いや考えを表現することなどを通じて,児童の発達の段階に応じて「見方・考え方」を豊かにすることが重要である。

 この「見方・考え方」を確かで豊かなものとすることで,学ぶことの意味と自分の生活,人生や社会,世界の在り方を主体的に結び付ける学びが実現され,学校で学ぶ内容が,生きて働く力として育まれることになる。

 さらに,こうした学びの過程が外国語教育の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につながる。その鍵となるものが,教科等の特質に応じた「見方・考え方」である。

--------------------------------

 ところで,言語能力について,中央教育審議会答申では,「言葉は,学校という場において子供が行う学習活動を支える重要な役割を果たすものであり,全ての教科等における資質・能力の育成や学習の基盤となるものである。

 したがって,言語能力の向上は,学校における学びの質や,教育課程全体における資質・能力の育成の在り方に関わる課題」であるとし,その育成が求められている。

--------------------------------

 このことを踏まえれば,例えば,初めて外国語に触れる段階である小学校においては,母語を用いたコミュニケーションを図る際には意識されていなかった,相手の発する外国語を注意深く聞いて何とか相手の思いを理解しようとしたり,もっている知識などを総動員して他者に外国語で自分の思いを何とか伝えようとしたりする体験を通して,日本語を含む言語でコミュニケーションを図る難しさや大切さを改めて感じることが,言語によるコミュニケーション能力を身に付ける上で重要であり,言語への興味・関心を高めることにつながると考えられる。

--------------------------------

 したがって,小学校における外国語教育においては,先に述べた「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」のうち,外国語やその背景にある文化を,社会や世界,他者との関わりに着目して捉える点を重視すべきであると考えられる。

--------------------------------

 「外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して」とは,外国語活動の目標を実現するために必要な指導事項について述べたものであり,本解説第1部第2章第2節2(3)で詳細を解説する。

--------------------------------

 「コミュニケーションを図る素地となる資質・能力」が中学年の外国語活動の目標の中心となる部分である。

 これは,高学年の外国語科の目標である,「コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」及び中学校の外国語科の目標である,「簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力」につながるものである。

 「素地」としたのは,中学校の外国語科が「コミュニケーションを図る資質・能力」であることに対して,高学年の外国語科の目標がその「基礎となる資質・能力」であり,それに対しての「素地となる資質・能力」ということからである。

 総則にもあるとおり,小学校までの学習の成果が中学校教育に円滑に接続され,育成を目指す資質・能力を児童が確実に身に付けることができるよう工夫する必要がある。

 改訂前の高学年における外国語活動の目標においては,

@ 言語や文化に関する体験的な理解

A 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度

B 外国語への慣れ親しみ

の三つの事項を念頭に置いていたが,今回の改訂では,育成を目指す資質・能力の三つの柱である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」のそれぞれに関わる目標を,以下(1)(2)(3)のように明確に設定している。

 
 

(1) 外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め,日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。

 (1)は,外国語活動における「何を理解しているか,何ができるか」という「知識及び技能」を体験的に身に付けることに関わる目標として掲げたものである。

--------------------------------

 前述のとおり,改訂前の高学年における外国語活動の目標は三つの事項を柱としていたが,今回の改訂では,音声中心で学んだことが,中学校の段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていないなどの課題を踏まえ,「日本語と外国語との音声の違い等に気付く」を「知識及び技能」に追加し,これをこれまでの活動と統合的に体験することで,段階的に高学年の外国語科や中・高等学校における外国語学習につながるようにした。

--------------------------------

 「言語や文化について体験的に理解を深め」るとは,

外国語活動において,児童のもつ柔軟な適応力を生かして,言葉への自覚を促し,幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うため,日本語や我が国の文化を含めた言語や文化に対する理解を深めることを指している。

 その際,知識のみによって理解を深めるのではなく,体験を通して理解を深めることとしている。体験的に理解を深めることで,言葉の大切さや豊かさ等に気付いたり,言語に対する興味・関心を高めたり,これらを尊重する態度を身に付けたりすることは,国語科の学習にも資するものと考えられる。

 また,これらのことは,後述する「学びに向かう力,人間性等」にもつながるものである。

--------------------------------

 「日本語と外国語との音声の違い等に気付く」とは,

日本語と外国語を比較することで,日本語と外国語との音声の違い等に気付かせることを指している。

 日本語の音声の特徴を意識させながら,外国語を用いたコミュニケーションを通して,日本語の使用だけでは気付くことが難しい日本語の音声の特徴や言葉の仕組みへの気付きを促すことにより,日本語についての理解を深めることができる。

 さらに,このことは言葉の豊かさに気付かせ,外国語学習への意欲の向上や,高学年の外国語科で育成を目指す資質・能力の向上にも資すると考えられる。

--------------------------------

 「外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむ」とは,

高学年以降の外国語学習における聞く力や話す力につながるものとして,児童の柔軟な適応力を生かして,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむことを示している。

--------------------------------

 そして,これらのことを「外国語を通して」行うことを明記している。

 これは,言語や文化について体験的に理解を深めたり,日本語と外国語との音声の違い等に気付いたりするには,様々な方法が考えられるが,外国語活動は,「外国語を通して」という特有の方法によって,この目標の実現を図ろうとするものであることを明確にしたものである。

--------------------------------

 このような「知識及び技能」の育成は,言語活動の充実につながる。

 子供たちは,言葉の大切さや豊かさに気付くからこそ,学んだ言葉を使って人とコミュニケーションを図ろうとし,また,日本語と外国語との音声の違い等に気付くからこそ,日本語とは違う外国語のリズムや発音などをより楽しみながら活動することになる。

 更に外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しんでいるからこそ,自信をもって言語活動に臨めるのである。

 
 

(2) 身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。

(2)は,外国語活動における「理解していること・できることをどう使うか」という「思考力,判断力,表現力等」の育成に関わる目標として掲げたものである。

--------------------------------

 「身近で簡単な事柄」とは,

高学年の外国語科と同様,児童がよく知っている人や物,事柄のうち簡単な語彙や基本的な表現で表すことができるものを指している。

 例えば,学校の友達や教師,家族などコミュニケーションを図っている相手,身の回りの物や自分が大切にしている物,学校や家庭での出来事や日常生活で起こることなどが考えられる。

 また,中学校の外国語科では,「日常的な話題や社会的な話題」としており,これらは生徒の日々の生活に関わる話題や社会で起こっている出来事や問題に関わる話題のことを指している。

 中学年の外国語活動で身近で簡単な事柄について音声で十分にコミュニケーションを図っておくことが,高学年以降の外国語学習の動機付けとなり,更に話題を広げてコミュニケーションを図ることにつながっていく。

--------------------------------

 また,中学年の外国語活動では,伝え合う力の素地を「外国語で聞いたり話したりして」と,「聞くこと」,「話すこと[やり取り]」及び「話すこと[発表]」の三つの領域を通して養うこととしている。

 一方,高学年の外国語科では,「聞くこと」,「読むこと」,「話すこと[やり取り]」,「話すこと[発表]」,「書くこと」の五つの領域を通して養うこととしている。

 これは,児童が中学年で初めて外国語に触れることに配慮したものである。

 また,中学校の外国語科では,「外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり,これらを活用して表現したり伝え合ったりする」としており,複数の領域を統合した言語活動を通して養われることとなる。

--------------------------------

 外国語教育においては,このようなコミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,情報や考えなどを,外国語で聞いたり読んだりして的確に理解したり,外国語を話したり書いたりして適切に表現し伝え合ったりする力を育成するため,資質・能力の三つの柱を踏まえた一連の学習過程の改善・充実を図る必要がある。

 ここでは,中学年の発達の段階を踏まえ,身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を明示した。

 
 

(3) 外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

 (3)は,外国語活動における「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか」という「学びに向かう力,人間性等」の涵(かん)養に関わる目標として掲げたものである。

--------------------------------

 中央教育審議会答申では,この「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』の涵(かん)養」を重視し,(1)の「知識及び技能」や(2)の「思考力,判断力,表現力等」の資質・能力をどのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素とされている。

--------------------------------

 外国語教育における「学びに向かう力,人間性等」は,児童が言語活動に主体的に取り組むことが外国語によるコミュニケーションを図る素地となる資質・能力を身に付ける上で不可欠であるため,極めて重要な観点である。

 「知識及び技能」を実際のコミュニケーションの場面において活用し,考えを形成・深化させ,話して表現することを繰り返すことで,児童に自信が生まれ,主体的に学習に取り組む態度が一層向上するため,「知識及び技能」及び「思考力,判断力,表現力等」と「学びに向かう力,人間性等」は不可分に結び付いている。

 児童が興味をもって取り組むことができる言語活動を易しいものから段階的に取り入れたり,自己表現活動の工夫をしたりするなど,様々な手立てを通じて児童の主体的に学習に取り組む態度の育成を目指した指導をすることが大切である。

--------------------------------

 ところで,高学年の外国語科では,「外国語の背景にある文化に対する理解を深め」としているのに対して,中学年の外国語活動では,「言語やその背景にある文化に対する理解を深め」としたのは,学習対象である外国語などの固有の言語だけでなく,日本語も含めた言語の普遍性について体験的に気付くことが重要であることからである。

 母語以外の言語を学び,母語と外国語を比べることで,言語には普遍性と固有性があることに気付き,そうすることで母語の性質や価値,外国語の性質や価値をよりよく理解できるようになる。

 つまり,母語を,外国語を通して相対化することができるということである。

 このことは,児童の母語の力をより確かなものにすることにつながる。

 中学年の外国語活動においてそのようにして体験的に気付くことが,高学年以降の外国語学習への意欲につながると考えられる。

--------------------------------

 また,「相手に配慮しながら」としたのは,言語は通常,人との関わりの中で用いられるため,他者を尊重し,聞き手・読み手・話し手・書き手に配慮しながらコミュニケーションを図ることが求められることからである。

 例えば,聞き手の理解の状況を確認しながら話しているか,相手の発話に反応しながら聞き続けようとする態度を示しているかなどの相手への配慮が求められることになる。

 高学年の外国語科では,「他者に配慮しながら」としているのに対して,中学年の外国語活動では,「相手に配慮しながら」としたのは,初めて外国語に触れることや,中学年の児童の発達の段階から常にコミュニケーションの対象となるのは,目の前にいる相手と限定したことからである。

--------------------------------

 「主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度」とは,

単に授業等において積極的に外国語を使ってコミュニケーションを図ろうとする態度のみならず,学校教育外においても,生涯にわたって継続して外国語習得に取り組もうとするといった態度を養うことを目標としている。

 これは,学校教育法において,学力の重要な要素として「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう」,「主体的に学習に取り組む態度」を養うことを掲げていることを踏まえたものである。

--------------------------------

 このことを踏まえ,学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間性等」は,(1)「知識及び技能」及び(2)「思考力,判断力,表現力等」の資質・能力を一体的に育成する過程を通して育成する必要がある。

--------------------------------

 なお,(3)の「言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」際には,(1)と同様,これら全てを「外国語を通して」行うことを明記している。

 これは,言語や文化について体験的に理解を深めたり,コミュニケーションを図ろうとする態度を育成したりするには,様々な方法が考えられるが,外国語活動においては,「外国語を通して」という特有の方法によることを表したものである。

 
 
→ 小学校外国語活動編
目次
→ 小学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ