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3 2の(1)から(3)までに掲げる事項の実現を図り,豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される生徒に,生きる力を育むことを目指すに当たっては,学校教育全体並びに各教科,道徳科,総合的な学習の時間及び特別活動(以下「各教科等」という。

 ただし,第2の3の(2)のア及びウにおいて,特別活動については学級活動(学校給食に係るものを除く。)に限る。)の指導を通してどのような資質・能力の育成を目指すのかを明確にしながら,教育活動の充実を図るものとする。

 その際,生徒の発達の段階や特性等を踏まえつつ,次に掲げることが偏りなく実現できるようにするものとする。

(1)知識及び技能が習得されるようにすること。

(2)思考力,判断力,表現力等を育成すること。

(3)学びに向かう力,人間性等を涵養すること。

 本項は,生徒に知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」を育むことを目指すに当たっては,各教科等の指導を通してどのような資質・能力の育成を目指すのかを明確にしながら教育活動の充実を図ること,その際には生徒の発達の段階や特性等を踏まえ,「知識及び技能」の習得と「思考力,判断力,表現力等」の育成,「学びに向かう力,人間性等」の涵(かん)養という,資質・能力の三つの柱の育成がバランスよく実現できるよう留意することを示している。

 今回の改訂は,「生きる力」の育成という教育の目標が各学校の特色を生かした教育課程の編成により具体化され,教育課程に基づく個々の教育活動が,生徒一人一人に,社会の変化に受け身で対応するのではなく,主体的に向き合って関わり合い,自らの可能性を発揮し多様な他者と協働しながら,よりよい社会と幸福な人生を切り拓(ひら)き,未来の創り手となるために必要な力を育むことに効果的につながっていくようにすることを目指している。

 そのためには,「何を学ぶか」という教育の内容を重視しつつ,生徒がその内容を既得の知識及び技能と関連付けながら深く理解し,他の学習や生活の場面でも活用できる生きて働く知識となることを含め,その内容を学ぶことで生徒が「何ができるようになるか」を併せて重視する必要があり,生徒に対してどのような資質・能力の育成を目指すのかを指導のねらいとして設定していくことがますます重要となる。

 このため,学習指導要領においては,各教科等の指導を通して育成する資質・能力を明確にすることの重要性を本項で示すとともに,第2章以降において各教科等の目標や内容を,資質・能力の観点から再整理して示している。

 これは各教科等の指導に当たって,指導のねらいを明確にするための手掛かりとして学習指導要領が活用されやすいようにしたものである。

 中央教育審議会答申において指摘されているように,国内外の分析によれば,資質・能力に共通する要素は,知識に関するもの,思考や判断,表現等に関わる力に関するもの,情意や態度等に関するものの三つに大きく分類できる。

 本項が示す資質・能力の三つの柱は,こうした分析を踏まえ,生きる力や各教科等の学習を通して育まれる資質・能力,学習の基盤となる資質・能力(第1章総則第2の2(1)),現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力(第1章総則第2の2(2))といった,あらゆる資質・能力に共通する要素を資質・能力の三つの柱として整理したものである。

 生徒に育成を目指す資質・能力を三つの柱で整理することは,これまで積み重ねられてきた一人一人の生徒に必要な力を育む学校教育の実践において,各教科等の指導を通して育成してきた資質・能力を再整理し,教育課程の全体として明らかにしたものである。

 そのことにより,経験年数の短い教師であっても,各教科等の指導を通して育成を目指す資質・能力を確実に捉えられるようにするとともに,教科等横断的な視点で教育課程を編成・実施できるようにすること,さらには,学校教育を通してどのような力を育むのかということを社会と共有することを目指すものである。

 これらの三つの柱は,学習の過程を通して相互に関係し合いながら育成されるものであることに留意が必要である。

 生徒は学ぶことに興味を向けて取り組んでいく中で,新しい知識や技能を得て,それらの知識や技能を活用して思考することを通して,知識や技能をより確かなものとして習得するとともに,思考力,判断力,表現力等を養い,新たな学びに向かったり,学びを人生や社会に生かそうとしたりする力を高めていくことができる。

 なお,資質や能力という言葉は,教育課程に関する法令にも規定があるところであり,例えば,教育基本法第5条第2項においては,義務教育の目的として「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うこと」を規定している。

 この「資質」については,教育を通して先天的な資質を更に向上させることと,一定の資質を後天的に身に付けさせるという両方の観点をもつものとされていることから,教育を通して育まれるもののどれが資質でどれが能力かを分けて捉えることは困難である。

 これまでも学習指導要領やその解説においては,資質と能力を一体的に扱うことが多かったところでもあり,今回の改訂においては,資質と能力を一体的に捉え「資質・能力」と表記することとしている。

 また,確かな学力については,第1章総則第1の2(1)においてそれを支える重要な要素が明記されているが,豊かな心の涵(かん)養や健やかな体の育成も,それを支えているのは「知識及び技能」の習得と「思考力,判断力,表現力等」の育成,「学びに向かう力,人間性等」の涵(かん)養という,資質・能力の三つの柱である。

 すなわち,資質・能力の三つの柱は,学校教育法第30条第2項や第1章総則第1の2(1)に示された要素と大きく共通するとともに,確かな学力に限らず,知・徳・体にわたる「生きる力」全体を捉えて,共通する重要な要素を示したものである。

 
 

 資質・能力の育成は,生徒が「何を理解しているか,何ができるか」に関わる知識及び技能の質や量に支えられており,知識や技能なしに,思考や判断,表現等を深めることや,社会や世界と自己との多様な関わり方を見いだしていくことは難しい。

 一方で,社会や世界との関わりの中で学ぶことへの興味を高めたり,思考や判断,表現等を伴う学習活動を行ったりすることなしに,生徒が新たな知識や技能を得ようとしたり,知識や技能を確かなものとして習得したりしていくことも難しい。

 こうした知識及び技能と他の二つの柱との相互の関係を見通しながら,発達の段階に応じて,生徒が基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得できるようにしていくことが重要である。

 知識については,生徒が学習の過程を通して個別の知識を学びながら,そうした新たな知識が既得の知識及び技能と関連付けられ,各教科等で扱う主要な概念を深く理解し,他の学習や生活の場面でも活用できるような確かな知識として習得されるようにしていくことが重要となる。

 また,芸術系教科における知識は,一人一人が感性などを働かせて様々なことを感じ取りながら考え,自分なりに理解し,表現したり鑑賞したりする喜びにつながっていくものであることが重要である。

 教科の特質に応じた学習過程を通して,知識が個別の感じ方や考え方等に応じ,生きて働く概念として習得されることや,新たな学習過程を経験することを通して更新されていくことが重要となる。

 このように,知識の理解の質を高めることが今回の改訂においては重視されており,各教科等の指導に当たっては,学習に必要となる個別の知識については,教師が生徒の学びへの興味を高めつつしっかりと教授するとともに,深い理解を伴う知識の習得につなげていくため,生徒がもつ知識を活用して思考することにより,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,知識を他の学習や生活の場面で活用できるようにしたりするための学習が必要となる。

 こうした学習の過程はこれまでも重視され,習得・活用・探究という学びの過程の充実に向けた取組が進められている。

 今回の改訂においては,各教科等の特質を踏まえ,優れた実践に共通して見られる要素が第1章総則第3の1(1)の「主体的・対話的で深い学び」として示されている。

 技能についても同様に,一定の手順や段階を追っていく過程を通して個別の技能を身に付けながら,そうした新たな技能が既得の技能等と関連付けられ,他の学習や生活の場面でも活用できるように習熟・熟達した技能として習得されるようにしていくことが重要となるため,知識と同様に「主体的・対話的で深い学び」が必要となる。

 今回の改訂においては,こうした知識及び技能に関する考え方は,確かな学力のみならず「生きる力」全体を支えるものであることから,各教科等において育成することを目指す「知識及び技能」とは何かが,発達の段階に応じて学習指導要領において明確にされたところである。

 
 

 生徒が「理解していることやできることをどう使うか」に関わる「思考力,判断力,表現力等」は,社会や生活の中で直面するような未知の状況の中でも,その状況と自分との関わりを見つめて具体的に何をなすべきかを整理したり,その過程で既得の知識や技能をどのように活用し,必要となる新しい知識や技能をどのように得ればよいのかを考えたりするなどの力であり,変化が激しく予測困難な時代に向けてますますその重要性は高まっている。

 また,@において述べたように,「思考力,判断力,表現力等」を発揮することを通して,深い理解を伴う知識が習得され,それにより更に思考力,判断力,表現力等も高まるという相互の関係にあるものである。

 学校教育法第30条第2項において,「思考力,判断力,表現力等」とは,「知識及び技能」を活用して課題を解決するために必要な力と規定されている。

 この「知識及び技能を活用して課題を解決する」という過程については,中央教育審議会答申が指摘するように,大きく分類して次の三つがあると考えられる。

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・ 物事の中から問題を見いだし,その問題を定義し解決の方向性を決定し,解決方法を探して計画を立て,結果を予測しながら実行し,振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程

・ 精査した情報を基に自分の考えを形成し,文章や発話によって表現したり,目的や場面,状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い,多様な考えを理解したり,集団としての考えを形成したりしていく過程

・ 思いや考えを基に構想し,意味や価値を創造していく過程

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 各教科等において求められる「思考力・判断力・表現力等」を育成していく上では,こうした学習過程の違いに留意することが重要である。

 このことは,第1章総則第2の2(1)に示す言語能力,情報活用能力及び問題発見・解決能力,第1章総則第2の2(2)に示す現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成を図る上でも同様である。

 
 

 生徒が「どのように社会や世界と関わり,よりよい人生を送るか」に関わる「学びに向かう力,人間性等」は,他の二つの柱をどのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素である。

 生徒の情意や態度等に関わるものであることから,他の二つの柱以上に,生徒や学校,地域の実態を踏まえて指導のねらいを設定していくことが重要となる。

 我が国の学校教育の特徴として,各教科等の指導を含めて学校の教育活動の全体を通して情意や態度等に関わる資質・能力を育んできたことを挙げることができる。

 例えば,国語を尊重する態度(国語科),科学的に探究しようとする態度(理科),音楽を愛好する心情(音楽科)など,各教科等においてどういった態度を育むかということを意図して指導が行われ,それぞれ豊かな実践が重ねられている。

 生徒一人一人がよりよい社会や幸福な人生を切り拓いていくためには,主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統制する力,よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等が必要となる。

 これらは,自分の思考や行動を客観的に把握し認識する,いわゆる「メタ認知」に関わる力を含むものである。

 こうした力は,社会や生活の中で生徒が様々な困難に直面する可能性を低くしたり,直面した困難への対処方法を見いだしたりできるようにすることにつながる重要な力である。

 また,多様性を尊重する態度や互いのよさを生かして協働する力,持続可能な社会づくりに向けた態度,リーダーシップやチームワーク,感性,優しさや思いやりなどの人間性等に関するものも幅広く含まれる。

 こうした情意や態度等を育んでいくためには,前述のような我が国の学校教育の豊かな実践を活かし,体験活動を含めて,社会や世界との関わりの中で,学んだことの意義を実感できるような学習活動を充実させていくことが重要となる。

 教育課程の編成及び実施に当たっては,第1章総則第4に示す生徒の発達の支援に関する事項も踏まえながら,学習の場でもあり生活の場でもある学校において,生徒一人一人がその可能性を発揮することができるよう,教育活動の充実を図っていくことが必要である。

 なお,学校教育法第30条第2項に規定される「主体的に学習に取り組む態度」や,第1章総則第1の2(1)が示す「多様な人々と協働」することなどは,「学びに向かう力,人間性等」に含まれる。

 資質・能力の三つの柱は,確かな学力のみならず,知・徳・体にわたる生きる力全体を捉えて整理していることから,より幅広い内容を示すものとなっているところである。

 このように,今回の改訂は,日常の指導における創意工夫のために「何のために学ぶのか」という学習の意義を,我が国の学校教育の様々な実践の蓄積を踏まえて,学習指導要領において育成を目指す資質・能力として明示している。

 
 
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