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3 学校や学級内の人間関係や環境を整えるとともに,職場体験活動やボランティア活動,自然体験活動,地域の行事への参加などの豊かな体験を充実すること。

 また,道徳教育の指導内容が,生徒の日常生活に生かされるようにすること。その際,いじめの防止や安全の確保等にも資することとなるよう留意すること。

 生徒の道徳性の多くの部分は,日々の人間関係の中で養われる。学校や学級における人的な環境は,主に教師と生徒及び生徒相互の関わりにおいて形成される。

 教師と生徒の人間関係においては,教師が生徒に対してもつ人間的関心と教育的愛情,生徒が教師の生き方に寄せる尊敬と相互の信頼が基盤となる。

 教師自身がよりよく生きようとする姿勢を示したり,教師が生徒と共に考え,悩み,感動を共有していくという姿勢を見せたりすることで信頼が強化される。

 そのためにも,教師と生徒が共に語り合える場を日頃から設定し,生徒を理解する有効な機会となるようにすることが大切である。

 生徒相互の人間関係を豊かにするには,相互の交流を深め,互いが伸び伸びと生活できる状況をつくることが大切である。

 生徒一人一人が,寛容の心をもち互いに認め合い,助け合い,学び合う場と機会を意図的に設け,様々な体験の共有や具体的な諸問題の解決を通して,互いに尊重し合い,協働的に学び合えるよう配慮しなければならない。

 教師は生徒の人間関係が常に変化していることに留意しつつ,座席換えやグループ編成の在り方などについても適切に見直しを図る必要がある。

 また,異学年間の交流や特別支援学級の生徒との交流などは,生徒相互の好ましい人間関係や道徳性を養う機会を増すことになる。

 生徒の道徳性を養う上で,人的な環境とともに物的な環境も大切である。

 具体的には,言語環境の充実,整理整頓され掃除の行き届いた校舎や教室の整備,生徒が親しみをもって接することのできる身近な動植物の飼育栽培,各種掲示物の工夫などは,生徒の道徳性を養う上で,大きな効果が期待できる。

 各学校や各学級においては,計画的に環境の充実・整備に取り組むとともに,日頃から生徒の道徳性を養うという視点で学校や教室の環境の整備に努めたい。

 また,学校や学級の環境の充実・整備を教職員だけが中心となって進めるだけでなく,生徒自らが自分たちの学級や学校の環境の充実・整備を積極的に行うことができるよう,特別活動等とも関連を図りながら指導することも大切である。

 
 

 勤労観・職業観を育むことができる職場体験活動や他の人々や社会のために役立ち自分自身を高めることができるボランティア活動,自然のすばらしさを味わい自然や動植物を愛護する心を育てることができる自然体験活動,地域の一員として社会参画の意欲を高めることができる地域の行事への参加など,様々な体験活動の充実が求められている。

 学校外の様々な人や事物に出会う体験活動は,生徒の世界を広げ,実生活や実社会の生きた文脈の中で様々な価値や自己の生き方について考えることができる貴重な経験となる。

 共に学ぶ楽しさや自己の成長に気付く喜びを実感させ,他者,社会,自然・環境との関わりの中で共に生きる自分への自信をもたせることが大切である。

 各学校においては,学校の教育活動全体において生徒や学校の実態を考慮し,豊かな体験の積み重ねを通して生徒の道徳性が養われるよう配慮することが大切である。

 その際には,生徒に体験活動を通して道徳教育に関わるどのような内容を指導するのか指導の意図を明確にしておくことが必要であり,実施計画にもこのことを明記することが求められる。

 さらに,地域の行事への参加も,幅広い年齢層の人々と接し,人々の生活,文化,伝統に親しみ,地域に対する愛着を高めるだけでなく,地域貢献などを通じて社会に参画する態度を育てるなど,生徒にとっては道徳性を養う豊かな体験となる。

 具体的には,学校行事や総合的な学習の時間などでの体験活動として,自治会や社会教育施設など地域の関係機関・団体等で行う地域振興の行事や奉仕活動,自然体験活動,防災訓練などに学校や学年として参加することなどが考えられる。

 その場合には,地域の行事の性格や内容を事前に把握し,学校の目標や年間の指導計画との関連を明確にしながら生徒の豊かな体験が充実するよう進めることが大切である。

 
 

 道徳教育で養う道徳性は,人間としての生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となるものである。

 日常生活の様々な場面で意図的,計画的に学習の機会を設け,生徒が多様な意見に学び合いながら,物事を多面的・多角的に考え,自らの判断により,適切な行為を選択し,実践するなど,道徳教育の指導内容が生徒の日常生活に生かされるようにすることが大切である。

 特に,いじめの防止や安全の確保といった課題についても,道徳教育や道徳科の特質を生かし,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことで,生徒がそれらの課題に主体的に関わることができるようにしていくことが大切である。

 いじめは,生徒の心身の健全な発達に重大な影響を及ぼし,ともすると不登校や自殺などを引き起こす背景ともなる深刻な問題である。

 子供から大人まで,社会全体でいじめの防止等に取り組んでいく必要がある。その対応として,いじめ防止対策推進法が公布され,平成25年9月から施行されている。

 各学校では,いじめ防止対策推進法に基づき,いじめ防止等のための対策に関する基本的な方針を定め,いじめの防止及び早期発見,早期対応に一丸となって取り組むことが求められている。

 教師は,いじめはどの子供にもどの学校にも起こり得るものであることを認識し,人間としての生き方について生徒と率直に語り合う場を通して生徒との信頼関係を深め,いじめの防止及び早期発見,早期対応に努めなければならない。

 いじめの防止等と道徳教育との関連を考えた場合,同法第15条の中に「児童等の豊かな情操と道徳心を培い,心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ,全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない」と示されている。

 すなわち,道徳教育においては,道徳科を要とし,教育活動全体を通して,生命を大切にする心や互いを認め合い,協力し,助け合うことのできる信頼感や友情を育むことをはじめとし,節度ある言動,思いやりの心,寛容な心などをしっかりと育てることが大切である。

 そして,こうして学んだことが,日常生活の中で,よりよい人間関係やいじめのない学級生活を実現するために自分たちにできることを相談し協力して実行したり,いじめに対してその間違いに気付き,友達と力を合わせ,教師や家族に相談しながら正していこうとしたりするなど,いじめの防止等に生徒が主体的に関わる態度へとつながっていくのである。

 とりわけ中学校では,生徒自身が主体的にいじめの問題の解決に向けて行動できるような集団を育てることが大切である。

 生徒の自尊感情や対人交流の能力,人間関係を形成していく能力,立場や意見の異なる他者を理解する能力などいじめを未然に防止するための資質・能力を育むとともに,様々な体験活動や協同して探究する学習活動を通して,学校・学級の諸問題を自主的・協働的に解決していくことができる集団づくりを進めることが求められる。

 なお,道徳教育の全体計画を立案するに当たっても,いじめの防止等に向けた道徳教育の進め方について具体的に示し,教職員の共通理解を図ることが大切である。

 その際,「生徒指導提要」(文部科学省)等を活用して,いじめをとらえる視点やいじめの構造などについて理解を深め,いじめの問題に取り組む基本姿勢を確認するとともに,開発的・予防的生徒指導を充実させていくことが求められる。

 生徒自身が日常生活全般における安全確保のために必要な事項を実践的に理解し,生命尊重を基盤として,生涯を通じて安全な生活を送る基礎を培うとともに,進んで安全で安心な社会づくりに参加し貢献できるような資質や能力を育てることは,次世代の安全文化の構築にとって重要なことである。

 道徳教育においては,自律的に判断することやよく考えて行動し,節度,節制に心掛けることの大切さ,生きている喜びや生命のかけがえのなさなど生命の尊さの自覚,力を合わせよりよい集団や社会の実現に努めようとする社会参画の精神などを深めることが,自他の安全に配慮して安全な行動をとったり,自ら危険な環境を改善したり,安全で安心な社会づくりに向けて学校,家庭及び地域社会の安全活動に進んで参加し,貢献したりするなど,生徒が安全の確保に積極的に関わる態度につながる。

 交通事故及び犯罪,自然災害から身を守ることや危機管理など安全に関する指導に当たっては,学校の安全教育の目標や全体計画,各教科等との関連などを考えながら進めることが大切である。

 
 
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