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 社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。

 教科目標のこの部分は,中学校社会科で育成を目指す目標のうち柱書として示された箇所であり,以降示された,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」という,育成を目指す資質・能力の三つの柱に沿った目標とともに,従前の目標の趣旨を継承するものとなっている。

 この柱書は,前段と後段の二段階で構成されている。

 前段は「社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して」という部分で,中学校社会科を含む社会科,地理歴史科,公民科の特質に応じた学び方を示している。

 社会的な見方・考え方については,第1章の2において示したとおり,社会科,地理歴史科,公民科の特質に応じた見方・考え方の総称であり,社会的事象等の意味や意義,特色や相互の関連を考察したり,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて構想したりする際の「視点や方法(考え方)」であると考えられる。

 そして,社会的な見方・考え方を働かせるとは,そうした「視点や方法(考え方)」を用いて課題を追究したり解決したりする学び方を表すとともに,これを用いることにより児童生徒の「社会的な見方・考え方」が鍛えられていくことを併せて表現している。

 こうした「社会的な見方・考え方を働かせ」ることは,社会科,地理歴史科,公民科としての本質的な学びを促し,深い学びを実現するための思考力,判断力の育成はもとより,生きて働く知識の習得に不可欠であること,主体的に学習に取り組む態度にも作用することなどを踏まえると,資質・能力全体に関わるものであると考えられるため,柱書に位置付けられている。

また,中学校社会科における「社会的な見方・考え方」は,地理的分野における「社会的事象の地理的な見方・考え方」,歴史的分野における「社会的事象の歴史的な見方・考え方」,その上に立つ公民的分野における「現代社会の見方・考え方」を総称しての呼称であり,第1章の2において示したとおりである。

 次に,課題を追究したり解決したりする活動については,単元など内容や時間のまとまりを見通して学習課題を設定し,諸資料や調査活動などを通して調べたり,思考・判断・表現したりしながら,社会的事象の特色や意味などを理解したり社会への関心を高めたりする学習などを指している。

 こうした学習は,従前から「適切な課題を設けて行う学習」として,その充実が求められており,「課題を追究したり解決したりする活動」はそれと趣旨を同じくするものである。

 そこでは,主体的・対話的で深い学びが実現されるよう,生徒が社会的事象等から学習課題を見いだし,課題解決の見通しをもって他者と協働的に追究し,追究結果をまとめ,自分の学びを振り返ったり新たな問いを見いだしたりする方向で充実を図っていくことが大切である。

 三つの柱に沿った資質・能力を育成するためには,生徒が課題を追究したり解決したりする活動の一層の充実が求められる。

 それらはいずれも「知識及び技能」を習得・活用して思考・判断・表現しながら課題を解決する一連の学習過程において効果的に育成されると考えられるからである。

 そのため「課題を追究したり解決したりする活動を通して」という文言が目標に位置付けられている。

 次に,後段は

「広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す」

という部分で,

「広い視野に立ち」という部分を除けば,
小学校及び中学校の社会科の共通のねらいであり,

小学校及び中学校における社会科の指導を通して,
その実現を目指す究極的なねらいを示している。

 広い視野に立ちについては,従前を引き継ぎ,社会科の学習が目指している多面的・多角的に事象を捉え,考察することに関わる意味と,国際的な視野という空間的な広がりに関わる意味の二つが含まれている。

 小学校社会科から中学校社会科へと接続していく過程で,中学校社会科は分野別の構造になっており,社会的事象を多面的・多角的に考察することや複数の立場や意見を踏まえて構想(選択・判断)することなどが求められている。

 また,学習対象も小学校以上に世界へと広がりを見せる。こうした点を踏まえて,中学校社会科においては,その特質である各分野ならではの視野,国内外の社会的事象等を取り扱う地球的な視野をもつことが期待されている。

 グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指すの部分は,目標の(1)から(3)までにそれぞれ示された資質・能力を育成することが,「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者」に必要とされる「公民としての資質・能力の基礎」を育成することにつながることを示している。

 なお,ここでいう「公民としての資質・能力の基礎」とは,小・中学校社会科の目標に一貫した表現であり,社会科の究極のねらいを示している。

 このうちの「公民としての資質・能力」が,平成21年改訂の高等学校学習指導要領公民科の目標に示されている「平和で民主的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う」ことの趣旨を一層明確にするとともに,人,商品,資本,情報,技術などが国境を越えて自由に移動したり,組織や企業など国家以外の様々な集合体の役割が増大したりしてグローバル化が一層進むことが予測されるこれからの社会において,教育基本法,学校教育法の規定を踏まえ,国家及び社会の形成者として必要な資質・能力を育成することの大切さへの意識をもつことを期待してこのような表現へと整理したものである。

 また,これまで「小学校学習指導要領解説 社会編」で「公民的資質」として説明してきた,

「平和で民主的な国家及び社会の形成者としての自覚をもち,自他の人格を互いに尊重し合うこと,社会的義務や責任を果たそうとすること,社会生活の様々な場面で多面的に考えたり,公正に判断したりすること」

などの態度や能力や,

「高等学校学習指導要領解説 公民編」で「公民としての資質」として説明してきた,

「現代の社会について探究しようとする意欲や態度,平和で民主的な国家・社会の有為な形成者として,社会についての広く深い理解力と健全な批判力とによって政治的教養を高めるとともに物心両面にわたる豊かな社会生活を築こうとする自主的な精神,真理と平和を希求する人間としての在り方生き方についての自覚,個人の尊厳を重んじ各人の個性を尊重しつつ自己の人格の完成に向かおうとする実践的意欲」

を基盤とし,

「これらの上に立って,広く,自らの個性を伸長,発揮しつつ文化と福祉の向上,発展に貢献する能力と,平和で民主的な社会の実現,推進に向けて主体的に参加,協力する態度」

などは,

「平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な資質・能力」であると考えられることから,今後も「公民としての資質・能力」に引き継がれるものである。

 
 

(1) 我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等に関して理解するとともに,調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。

 我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等については,
中学校社会科で扱う学習対象を示し,

それらに関して理解するとは,
単に知識を身に付けることではなく,
基礎的・基本的な知識を確実に習得しながら,既得の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより,学習内容の深い理解と,個別の知識の定着を図るとともに,社会における様々な場面で活用できる,概念などに関する知識として獲得していくことをも示している。

 調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるについては,
調査活動や諸資料の活用など手段を考えて課題の解決に必要な社会的事象に関する情報を収集する技能,収集した情報を社会的な見方・考え方を働かせて読み取る技能,読み取った情報を課題解決に向けてまとめる技能を身に付けることを意味している。

 これらの技能は,単元など内容や時間のまとまりごとに全てを身に付けようとするものではなく,資料の特性等とともに情報を収集する手段やその内容に応じて様々な技能や留意すべき点が存在すると考えられる。

 そのため,小学校の社会科での学習を踏まえるとともに,高等学校の地理歴史科,公民科での学習を視野に,中学校社会科の学習において生徒が身に付けることが目指される技能を繰り返し活用し,その習熟を図るように指導することが大切である(巻末の参考資料を参照)。

 
 

(2) 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察したり,社会に見られる課題の解決に向けて選択・判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。

 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察…する力については,
社会的事象個々の仕組みや働きを把握することにとどまらず,その果たしている役割や事象相互の結び付きなども視野に,様々な側面,角度から捉えることのできる力を示している。

 このうちの「多面的・多角的に考察」するとは,学習対象としている社会的事象自体が様々な側面をもつ「多面性」と,社会的事象を様々な角度から捉える「多角性」とを踏まえて考察することを意味している。

 社会に見られる課題の解決に向けて選択・判断…する力については,
現実社会において生徒を取り巻く多種多様な課題に対して,

「それをどのように捉えるのか」,
「それとどのように関わるのか」,
「それにどのように働きかけるのか」

といったことを問う中で,
それらの課題の解決に向けて
自分の意見や考えをまとめることのできる力を意味している。

 このことに関連して,中学校社会科においては,学習指導要領の内容において「選択・判断」とともに「構想」の表記を用いている箇所があることに留意する必要がある。

 これは,平成24年12月に文部科学省に設置され,平成26年3月に論点整理を取りまとめた

「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」

における検討の方向性を踏まえるとともに,今回の中央教育審議会答申の第1部の第2章「2030年の社会と子供たちの未来」において,

「(前略)このような時代だからこそ,子供たちは,変化を前向きに受け止め,私たちの社会や人生,生活を,人間ならではの感性を働かせてより豊かなものにしたり,現在では思いもつかない新しい未来の姿を構想し実現したりしていくことができる」

と示されたことなどを受けて,

社会科,地理歴史科,公民科においては,中央教育審議会答申の第2部の第2章「各教科・科目等の内容の見直し」の2「社会,地理歴史,公民」において,

「『社会的な見方・考え方』は,課題を追究したり解決したりする活動において,社会的事象等の意味や意義,特色や相互の関連を考察したり,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて構想したりする際の視点や方法であると考えられる」

と示されたことを踏まえている。

 このような中央教育審議会答申の記載を踏まえ,中学校学習指導要領社会科においては,各分野にわたりその内容において「…について多面的・多角的に考察,構想し,表現すること」などと示している。

 思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力については,
考察,構想(選択・判断)したことを,資料等を適切に用いて論理的に示したり,その示されたことを根拠に自分の意見や考え方を伝え合い,自分や他者の意見や考え方を発展させたり,合意形成に向かおうとしたりする力であると捉えられる。
 
 

(3) 社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵(かん)養される我が国の国土や歴史に対する愛情,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める。

 社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度については,
社会的事象について主体的に調べ分かろうとして学習上の課題を意欲的に解決しようとする態度や,よりよい社会の実現に向けて,多面的・多角的に考察,構想(選択・判断)したことを社会生活に生かそうとする態度などを意味している。

 我が国の国土や歴史に対する愛情,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚については,
いずれも我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等についての多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵(かん)養されるものであり,既述の資質・能力を含む三つの柱に沿った資質・能力の全てが相互に結び付き,養われることが期待される。

 
 
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