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(2)日本の地域的特色と地域区分

 次の@からCまでの項目を取り上げ,分布や地域などに着目して,課題を追究したり解決したりする活動を通して,以下のア及びイの事項を身に付けることができるよう指導する。

@ 自然環境
A 人口
B 資源・エネルギーと産業
C 交通・通信

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア) 日本の地形や気候の特色,海洋に囲まれた日本の国土の特色,自然災害と防災への取組などを基に,日本の自然環境に関する特色を理解すること。

(イ) 少子高齢化の課題,国内の人口分布や過疎・過密問題などを基に,日本の人口に関する特色を理解すること。

(ウ) 日本の資源・エネルギー利用の現状,国内の産業の動向,環境やエネルギーに関する課題などを基に,日本の資源・エネルギーと産業に関する特色を理解すること。

(エ) 国内や日本と世界との交通・通信網の整備状況,これを活用した陸上,海上輸送などの物流や人の往来などを基に,国内各地の結び付きや日本と世界との結び付きの特色を理解すること。

(オ) @からCまでの項目に基づく地域区分を踏まえ,我が国の国土の特色を大観し理解すること。

(カ) 日本や国内地域に関する各種の主題図や資料を基に,地域区分をする技能を身に付けること。

 

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) @からCまでの項目について,それぞれの地域区分を,地域の共通点や差異,分布などに着目して,多面的・多角的に考察し,表現すること。

(イ) 日本の地域的特色を,@からCまでの項目に基づく地域区分などに着目して,それらを関連付けて多面的・多角的に考察し,表現すること。

(内容の取扱い)

イ (2)については,次のとおり取り扱うものとする。

(ア)@からCまでで示した日本の地域的特色については,系統的に理解を深めるための基本的な事柄で構成すること。

(イ)地域区分に際しては,日本の地域的特色を見いだしやすくなるようにそれぞれ適切な数で区分すること。

 この中項目の構成,主なねらいや着目する視点などについては次のとおりである。

 この中項目は,

従前の中項目の構成を踏まえたこと,

日本の地域的特色を
一面的ではなく多面的に理解するために
項目間の調和を図ったこと,

四つの項目で扱う地理的な事象は
我が国の国土の特色や
大まかな国内の地域差
を捉えやすいこと

などを踏まえて,

「@ 自然環境」,
「A 人口」,
「B 資源・エネルギーと産業」,
「C 交通・通信」

の四つの項目からなる小項目で構成している。

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 この中項目は,分布や地域などに関わる視点に着目して,我が国の国土の地域区分や区分された地域の地域的特色を多面的・多角的に考察し,表現する力を育成することを主なねらいとしている。

 そうした学習の全体を通して,我が国の国土の地域的特色と地域区分の方法や意義を理解できるようにすることが求められている。

 この中項目における分布に関わる視点としては,例えば,地域がもつ共通点や差異から傾向性を見いだし地域区分して捉えることなどが考えられる。

 また,地域に関わる視点としては,例えば,特定の地域的特色をもつ範囲を一つのまとまりとして,その範囲がもつ働きや他の範囲との関係などを捉えることなどが考えられる。

 この中項目のうち,「@ 自然環境」で身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この小項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,ア(ア)
「日本の地形や気候の特色,
 海洋に囲まれた日本の国土の特色,
 自然災害と防災への取組などを基に,
 日本の自然環境に関する特色を理解すること」
が挙げられる。

 このうち,
日本の地形や気候の特色については,
日本全体で見ると,
我が国は環太平洋造山帯に属して,
地震や火山の多い不安定な大地上に
位置していること,
我が国の多くの地域は温帯に属し,
降水量も多く,
森林,樹木が成長しやすい環境にあること,
といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

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 また,国内を大きく区分して見ると,
地形的には
フォッサ・マグナを境にして,
西南日本には東西の方向に,
東北日本には南北の方向に
背骨のように山脈が走り,
堆積(たいせき)平野の特色をもった
規模の小さな平野が
臨海部に点在していること,

海岸線では
砂浜海岸や岩石海岸などから構成され
多様な景観が見られること,

気候的には,
南と北,
太平洋側と日本海側,
内陸部と臨海部とで,
気温,降水量とその月別の変化などに
違いが見られ,
それらを基にして
各地の気候を比較すると
幾つかに気候区分できること,
といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

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 海洋に囲まれた日本の国土の特色については,
日本の国土は海に囲まれ
多くの島々から構成されていること,
近海は海底に大陸棚が広がり,
寒暖の海流が出会い
世界的な漁場となっていること,
といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

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 自然災害と防災への取組などを基に,日本の自然環境に関する特色を理解するについては,
我が国の地形や気候と関連する自然災害
と防災への取組を取り上げることで,
日本全体の視野から
日本の自然環境を大きく捉えること
を意味している。

 例えば,東日本大震災などの大規模な地震や毎年全国各地に被害をもたらす台風など,多様な自然災害の発生しやすい地域が多く,そのため早くから防災対策に努めてきたといった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 なお,自然災害については,防災対策にとどまらず,災害時の対応や復旧,復興を見据えた視点からの取扱いも大切である。

 その際,消防,警察,海上保安庁,自衛隊をはじめとする国や地方公共団体の諸機関や担当部局,地域の人々やボランティアなどが連携して,災害情報の提供,被災者への救援や救助,緊急避難場所の設営などを行い,地域の人々の生命や安全の確保のために活動していることなどにも触れることが必要である。

 この中項目のうち,「A 人口」で身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この小項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,ア(イ)
「少子高齢化の課題,
 国内の人口分布や過疎・過密問題
 などを基に,
 日本の人口に関する特色
 を理解すること」
が挙げられる。

 このうち,少子高齢化の課題については,我が国は世界に類を見ない速さで少子化,高齢化が進んだことに伴う課題に直面していることに特色が見られるといった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 その際,人口分布図や人口ピラミッドを読み取る作業を取り入れるといった活動が考えられる。

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 国内の人口分布や過疎・過密問題については,

我が国は人口が1億人を超える
数少ない国の一つで,
日本全体が人口集中地域になっている
ように見えるが,

国内の人口分布を見ると,
不均等な分布が見られ,
平野部への人口集中が目立つ一方で
山間部は人口の希薄な地域になっていること,

平野部には
大都市圏が発達して過密地域が,
山間部には
集落がまばらに点在しているような
過疎地域が見られること,
といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 この中項目のうち,「B 資源・エネルギーと産業」で身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この小項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,ア(ウ)
「日本の資源・エネルギー利用の現状,
 国内の産業の動向,
 環境やエネルギーに関する課題
 などを基に,
 日本の資源・エネルギーと産業
 に関する特色を理解すること」
が挙げられる。

 このうち,
日本の資源・エネルギー利用の現状については,
我が国はエネルギー資源や鉱産資源のほとんどに恵まれていないため,
消費する資源の大部分を海外からの輸入に依存していること
といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 国内の産業の動向については,日本全体で見ると,我が国は先進工業国と捉えられているが,国内を大きく区分して見ると,太平洋ベルトには,工業や流通,金融,情報などに関する産業の盛んな地域が見られ,日本海側や北海道などには農業や水産業,地場産業,観光産業の盛んな地域が見られる。

 さらに,同じ工業でも,臨海部には造船業などとともに輸入資源を原材料とする鉄鋼業や石油化学工業などの盛んな地域が見られ,都市部には印刷業などの盛んな地域が見られるなど,自然及び社会的条件によって産業の地域的分業が進み,交通機関の発達などによって各産業地域は変容していることといった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 環境やエネルギーに関する課題については,日本全体で見ると,我が国は資源やエネルギーの大量消費に伴う環境問題,エネルギー問題を抱えた国の一つであるが,その現れ方には地域差が見られること,風力発電や太陽光発電などの新しいエネルギーの開発に努力していること,といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 この中項目のうち,「C 交通・通信」で身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この小項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,ア(エ)
「国内や日本と世界との
 交通・通信網の整備状況,
 これを活用した
 陸上,海上輸送などの物流や人の往来
 などを基に,
 国内各地の結び付きや
 日本と世界との結び付き
 の特色を理解すること」
が挙げられる。

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 このうち,
国内や日本と世界との交通・通信網の整備状況については,
日本全体で見ると,
新幹線,高速道路,航路・航空路網,
情報通信ネットワーク
などの整備が進んでいること,

海外との空や海の交通網そして通信網が集中する拠点の一つに数えられること,

といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

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 これを活用した陸上,海上輸送などの物流や人の往来については,

海外との物流の手段としては
船舶(外航船)が,
人の往来の手段としては
航空機が多用されるなど,
主に輸送対象によって
輸送手段の違いが見られること,

国内の輸送手段としては
物流では自動車とともに船舶(内航船)が,
人の往来では
自動車や鉄道,航空機,
船舶(離島においては旅客船)
といった
多様な交通機関が利用されるなど,

輸送対象の違いとともに
輸送距離,輸送時間,地域性などによって
輸送手段の違いが見られること,

といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

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 国内各地の結び付きや日本と世界との結び付きの特色については,

日本全体で見ると,
国内各地の時間的な距離が短縮されていること,

物資の国際間の移動が活発であることから世界各地と強く結び付いていること,

しかし,そうした結び付きをよく見ると,
様々な面で強く結び付いている地域や,
特定のことで結び付いている地域,
相対的に見てまだ結び付きの弱い地域
が見られること,

交通・通信の整備が進むことで
各地域間の結び付きが変化していること,

地方都市間では
時間的な距離が短縮されていないところもあること,

といった程度の内容を取り扱うことを意味している。

 
 

 この中項目のうち,中項目を通して身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この中項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,ア(オ)
「@からCまでの項目に基づく地域区分
 を踏まえ,
 我が国の国土の特色を
 大観し理解すること」
が挙げられる。

 このうち,@からCまでの項目に基づく地域区分については,@からCまでの各項目について,分布図を作成するなどして日本全体の大まかな地域的特色を捉え,それに基づいて日本を幾つかに地域区分することで,それぞれ特色ある地域から日本が構成されていることを大観し理解できるようにすることを意味している。

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 この中項目で身に付けたい
「技能」に関わる事項として,ア(カ)
「日本や国内地域に関する
 各種の主題図や資料を基に,
 地域区分をする技能を身に付けること」
が挙げられる。

 このうち,地域区分をする技能については,各種の主題図や資料に基づき,地域区分する技能を身に付け,用いることができるようにすることを意味している。

 なお,地域区分については,
この中項目では,例えば,

西日本と東日本というように
日本を二分して捉えたり,

西南日本(西日本)と
中部日本(中央日本)と
東北日本(東日本,北日本)
というように区分して捉えたり,

これまで経験的に
地理学習でよく使われてきた
九州,中国・四国,近畿,中部,関東,東北,北海道の七地方
に区分して捉えたり
することなどを意味している。

 また,例えば,
中部地方を
北陸地方,中央高地,東海地方に
分けるように,
七地方区分の各地方を
幾つかに分ける区分
も考えられる。

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 さらに,気候区分のように地域の等質性に着目して地域区分したものや,商圏,都市圏などのように機能的に結び付く範囲によって地域区分したものなど,行政区分に基づかない地域区分もあることを意味している。

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 この中項目で身に付けたい
「思考力,判断力,表現力等」に関わる事項として,まず,イ(ア)
「@からCまでの項目について,
 それぞれの地域区分を,
 地域の共通点や差異,分布
 などに着目して,
 多面的・多角的に考察し,表現すること」
が挙げられる。

 このうち,
地域の共通点や差異については,
ある指標を基に
他と異なる共通した性質をもつ
等質地域としての空間的なまとまり
を見いだすこと
を意味している。

 ここでは,
作成された地域区分と
他の項目から作成された地域区分
を比較し,
共通点や差異,分布の傾向性に着目して,
多面的・多角的に考察し,
その結果を表現できるようにすること
が大切であり,

この分布の傾向性については,
地理的な事象の分布の粗密
を調べることで,
中心と周辺からなる
機能地域としての圏構造
を見いだすことが考えられる。

 

 地域の特色は,
他地域と比較したり
関連付けたりすることによって
より一層明らかになってくる。

 しかし,一方で
比較の仕方や関連付け方によっては,
ある面だけを強調したりして
誤解を助長する恐れもある。

 したがって,
地域を比較し関連付ける際には,
地域の規模に対応させたり,
より視野を広げてみたり,
過去と現在といった
時間的経過などを考慮したりして,
適切かつ多面的・多角的に取り扱う
よう工夫する必要がある。

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 この中項目で身に付けたい
「思考力,判断力,表現力等」に関わる事項として,また,イ(イ)
「日本の地域的特色を,
 @からCまでの項目に基づく地域区分
 などに着目して,
 それらを関連付けて
 多面的・多角的に考察し,表現すること」
も挙げられる。

 このことは,
@からCまでの項目に関する
学習によって作成された
複数の分布図や地域区分を
重ね合わせて関連付け,
複数の項目による新たな地域区分を行い,
そこで見いだされた地域の意味を
多面的・多角的に考察し,
地域的特色を表現できるようにする
ことを意味している。

 
 

(内容の取扱い)

イ (2)については,次のとおり取り扱うものとする。

(ア)@からCまでで示した日本の地域的特色については,系統的に理解を深めるための基本的な事柄で構成すること。

(イ)地域区分に際しては,日本の地域的特色を見いだしやすくなるようにそれぞれ適切な数で区分すること。

 「内容の取扱い」などに示された留意事項については,次のとおりである。

 (ア)における@からCまでで示した
日本の地域的特色については,
系統的に理解を深めるための
基本的な事柄で構成する
(内容の取扱い)
については,
@からCまでの小項目では,
項目中に示された具体的な地域的特色
を扱うにとどめ,
細部にわたる事柄を扱わずに,
地図帳を十分に活用しながら
日本全体としての地域的特色を理解する
ことが大切である。

 なお,この後の内容のCの「(3)日本の諸地域」では,日本の様々な地域を取り上げて学習するため,ここでは事例地域を通した具体的な取扱いはしないことに留意する必要がある。

 (イ)における日本の地域的特色を見いだしやすくなるようにそれぞれ適切な数で区分する(内容の取扱い)については,
地理的分野の学習において
日本を一つの地域とみなすこともできるが,
自然環境や人口,産業などの観点から
設定された具体的な指標を基に,
日本を幾つかの地域に分けることによって,
日本の地域的特色を
より一層明確に理解すること
が大切である。

 その際,指標は一つでなく,複数の指標で区分することもでき,どのような指標で地域を区分するのかは,どのような地域の特徴を見いだしたいのかによる。

 そのため,地域は固定されたものではなく,何を指標としてどのような特徴を示したいのかによってその空間的範囲が異なることや,時間の経過による指標の変化によっても区分されるその範囲が異なってくることに留意する必要がある。

 ここでは,
日本の地域的特色をより一層明確に理解するために,
日本が様々な特色ある地域の集合体であるという視点に立って
@からCまでの学習を通して
地域区分を行い,
その上で日本全体としての特色を見いだすことが大切で,

実際に地域区分を行うことで,
日本の地域的特色が見いだしやすくなる
といった,
「地域区分」の意味や意義を
理解できるようにすること
が大切である。

 なお,地球の表面は,そのくくり方によって,様々に区分,分類され,規模や性格の異なる多様な地域として捉えられる。

 便宜的にその範囲を区切って設定した地域を「形式地域」といい,実質的にまとまりのある意味をもった地域を「実質地域」という。

 実質地域には,例えば,水田単作地域,酪農地域のように同じような特色をもった等質地域と,通勤圏,商圏のようにある地域を中心にその影響の及ぶ範囲をまとめた機能地域といった,大小様々なまとまりのある地域に分けることができる。

 さらに,指標の取り方によっては,台地と低地,あるいは気候帯や植生帯といった自然地域と,農業地域や工業地域といった人文地域というように,共通の特色をもった大小様々な地域に分けることもできる。

 また,大小様々な地域は,たくさんの小地域が集まって市町村規模の地域をつくり,市町村が集まって都道府県といった規模の地域をつくる。

 さらに,たくさんの都道府県が集まって日本という国家規模の地域をつくり,たくさんの国々が州といった規模の地域を構成するというように,大小様々な地域が部分と全体とを構成する関係で重層的になっている。

 したがって,各地域の区分に当たっては,そうした枠組み,規模を踏まえて適切に取り扱うよう工夫することが大切である。

 
 
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