cosnavi.jp

(4)地域の在り方

 空間的相互依存作用や地域などに着目して,課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

--------------------------------

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア) 地域の実態や課題解決のための取組を理解すること。

(イ) 地域的な課題の解決に向けて考察,構想したことを適切に説明,議論しまとめる手法について理解すること。

--------------------------------

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)地域の在り方を,地域の結び付きや地域の変容,持続可能性などに着目し,そこで見られる地理的な課題について多面的・多角的に考察,構想し,表現すること。

(内容の取扱い)

エ (4)については,次のとおり取り扱うものとする。

(ア) 取り上げる地域や課題については,各学校において具体的に地域の在り方を考察できるような,適切な規模の地域や適切な課題を取り上げること。

(イ) 学習の効果を高めることができる場合には,内容のCの(1)の学習や,Cの(3)の中の学校所在地を含む地域の学習と結び付けて扱うことができること。

(ウ) 考察,構想,表現する際には,学習対象の地域と類似の課題が見られる他の地域と比較したり,関連付けたりするなど,具体的に学習を進めること。

(エ) 観察や調査の結果をまとめる際には,地図や諸資料を有効に活用して事象を説明したり,自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの学習活動を充実させること。

 この中項目の主なねらいや着目する視点などについては次のとおりである。

 この中項目は,空間的相互依存作用,地域などに関わる視点に着目して,地域の在り方を地域的特色や地域の課題と関連付けて多面的・多角的に考察し,表現する力を育成することを主なねらいとしている。

 そうした学習の全体を通して,課題解決の取組や課題解決に向けて構想したことを適切に表現する手法を理解できるようにすることが求められている。

 また,世界と日本の様々な地域を学習した後に位置付けることで,既習の知識,概念や技能を生かすとともに,地域の課題を見いだし考察するなどの社会参画の視点を取り入れた探究的な地理的分野の学習の まとめとして行うことが必要である。

 そして主権者として,地域社会の形成に参画しその発展に努力しようとする態度を育むことが大切である。

 この中項目における空間的相互依存作用に関わる視点としては,例えば,地域の在り方を地域の内外の結び付きから捉えることなどが考えられる。

 また,地域に関わる視点としては,例えば,地域の在り方を地域がもつ課題や地域がたどってきた変容,地域の今後の持続可能性から捉えることなどが考えられる。

 この中項目で身に付けたい事項については,次のとおりである。

 この中項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,まず,ア(ア)
「地域の実態や課題解決のための取組
 を理解すること」
が挙げられる。

 このうち,
地域の実態や課題解決のための取組を理解することについては,
地域において
どのような地理的な事象が見られ,
どのような地理的な課題が生じているか,
また「地域の在り方」をめぐって
どのような課題解決のための
議論や取組が行われているか
などについて理解すること
を意味している。

 また,地域の実態や課題解決のための取組については,
その対象となる実態や取組を
選択する際に
多様な基準が考えられるが,

基本的には,
空間的相互依存作用や地域
などを視点とする
社会的事象の地理的な見方・考え方
で捉えることのできる,
可視的な事象が考えられる。

 例えば,自然環境の保全,人口の増減や移動,産業の転換や流通の変化,伝統文化の変容などの実態や,その解決に向けた取組などが考えられる。

 この中項目で身に付けたい
「知識」に関わる事項として,また,ア(イ)
「地域的な課題の解決に向けて
 考察,構想したことを
 適切に説明,議論しまとめる手法
 について理解すること」
も挙げられる。

 地域的な課題については,
ここで取り上げる課題が
「具体的に地域の在り方を考察できるような」(内容の取扱い)規模のもの
を想定していることを意味している。

 考察,構想したことを適切に説明,議論しまとめる手法については,
課題の要因について
文章や地図,統計,モデル図
などを用いて
他者に説明したり,
課題の解決策について
根拠に基づいて個人の意見を述べたり,
多様な意見を集団として集約したりする
といったことを意味している。

 この中項目で身に付けたい
「思考力,判断力,表現力等」に関わる事項として,イ(ア)
「地域の在り方を,
 地域の結び付きや
 地域の変容,持続可能性
 などに着目し,
 そこで見られる地理的な課題について
 多面的・多角的に
 考察,構想し,表現すること」
が挙げられる。

 このうち,地理的な課題については,
内容のCの「(1)地域調査の手法」
における「適切な主題」の解説
でも触れたように
地理的な事象に関わる課題
を意味しており,例えば,
交通・通信網といった社会資本の
整備やその活用に関わる
「地域の結び付き」や,
人口や産業の構造の変化がもたらす
「地域の変容」,
自然環境と人々の生活との関わり
が影響し合う「持続可能性」
などに着目して,
課題を設定し,考察することが考えられる。

 地理的な課題の解決については,
多様な方法が考えられるが,
この中項目では,
特に「持続可能性」に着目して
「構想」することが大切である。

 例えば,持続可能性を拒んでいる最も大きな要因に焦点化して,その要因を排除する課題解決の方策を提案するなど,課題の要因を取り除く手立てを提案する方法が考えられる。

 また,持続可能な社会づくりの点から見て優れていると思われる取組を調べ,それを参考に地域の実態に適合するように吟味して提案するなど,先進的な地域の取組に学ぶ方法も考えられる。

 さらに,持続可能な社会をつくるために,従来とは異なる考え方を追究し,地域の在り方を提案するなど,先例に捉われず,新しい理念を打ち立てる方法も考えられる。

 
 

(内容の取扱い)

エ (4)については,次のとおり取り扱うものとする。

(ア) 取り上げる地域や課題については,各学校において具体的に地域の在り方を考察できるような,適切な規模の地域や適切な課題を取り上げること。

(イ) 学習の効果を高めることができる場合には,内容のCの(1)の学習や,Cの(3)の中の学校所在地を含む地域の学習と結び付けて扱うことができること。

(ウ) 考察,構想,表現する際には,学習対象の地域と類似の課題が見られる他の地域と比較したり,関連付けたりするなど,具体的に学習を進めること。

(エ) 観察や調査の結果をまとめる際には,地図や諸資料を有効に活用して事象を説明したり,自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの学習活動を充実させること。

 「内容の取扱い」などに示された留意事項については,次のとおりである。

 (ア)における取り上げる地域や課題(内容の取扱い)については,
学校所在地を対象として
市町村規模の身近な地域や
そこで見られる課題
を取り上げることの他に,

日本各地で広く見られる,
地域への影響力が大きく,
生徒と社会が関心を寄せる
適切な課題を設定すること,
また,
その課題を捉えることができる
適切な規模の地域を選ぶこと
を優先させ,
所在や規模の異なる他地域を取り上げることも考えられる。

-------------------------------

 (イ)における学習の効果を高めることができる場合には,
内容のCの(1)の学習や,
Cの(3)の中の学校所在地を含む地域の学習
と結び付けて扱うことができる
(内容の取扱い)については,
内容の取扱い(5)ア(ア)で既述のとおり,
他の項目の学習と結び付けて行うことが
可能であることを意味している。

-------------------------------

 (ウ)における学習対象の地域と類似の課題が見られる他の地域と比較したり,関連付けたりする(内容の取扱い)については,
地域の課題を考察させるに当っては,

類似の課題に直面している地域や
先進的な取組が見られる地域を
比較,関連付けながら,
地域の課題の特色や要因などを
考察することが考えられる。

-------------------------------

 (エ)における自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの学習活動を充実させる(内容の取扱い)については,
調査結果をまとめたり
発表したりする際には,

調査結果だけでなく,
調査結果を基に各自が解釈をすること
を重視する観点から,

結果を根拠に合理的な解釈になるよう
意見交換しながら,
多面的・多角的に追究したことが分かるようなまとめ方や表現の方法を工夫することが大切である。

 また,発表や論述する場合において,調査結果から読み取れた事実なのか,それに基づいた自分の解釈なのかが明確に区別できるように表現する必要がある。

 また,地域の在り方を構想するに当っては,資料から分かったことを活用して個人で意見を述べたり,集団で合意を形成したりする活動を行うことが大切である。

 また,学習の成果を社会に発信したり,当事者に働きかけたりする活動を,他の教科や総合的な学習の時間,特別活動などと連携して設定するなどしてその充実を図ることも考えられる。

 
 
 調査結果をまとめたり発表したりするに当たっては,調査方法や内容の概要を相手に的確に伝えるために,次に示すように,基本的な記述の構成や仕方があることを理解することが大切である。

1)調査の動機:

 なぜ,この主題を選んだのか,どんなことに興味や関心,疑問をもったのかを記述

2)調査の目的:

 この調査で何を知りたいのか,分かりたいのかを記述

3)調査の方法:

 いつ,どこで,どんな方法で何を調べていくのかを記述

4)調査の内容と結果の考察:

 調べて分かったことを調査前の予想と比べたり自分の解釈を加えたりして論述するとともに,地図や図表,写真などを入れて具体的に記述

5)感想や今後の課題:

 調べて分かったことに対して,どんなことを感じたかを記述するとともに,もっと深めてみたい内容を記述

6)参考資料など:

 調査に用いたり,参考にしたりした書籍名などを記述

 
 

 この中項目で実施が想定される学習展開例は次のとおりである。

 なお,これらは,あくまでも例示であり,各学校において例示と異なる学習活動を展開することができるのは,当然である。

 例えば,課題例として,橋で結ばれた「ある島(以下,単に「島」という。)」の活性策を取り上げた場合,次のような学習展開が考えられる。

 導入では,全国各地で広く課題となっている現象を取り上げて,それを個々の地域に即して見いだすことが求められる。

 例えば,
二年間の地理的分野の学習を踏まえて,
「日本各地ではどのような課題が見られたか」,
「その課題は,私たちの住む地域では,どのような現象として表れているか」
などと問い,
地域の課題の
一般的共通性と地方的特殊性
に気付くことなどが求められる。

--------------------------------

 ここでは,
空間的相互依存作用や地域
に着目した結果,

全国的な傾向として
交通網の整備と過疎の実態が指摘され,
近隣の都市と橋で結ばれた,
人口が減少傾向にある「島」

が対象地域に選ばれ,
その「島」の活性化策が
学習活動の主題として提起された
という設定で進めることとする。

--------------------------------

 主題を設定した後は,
「地域の在り方」を考える
という学習の目的を明確にするために,
「問い」の形で学習課題を共有する
必要がある。

例えば,
学習課題@
「『島』は橋で結ばれて便利になったのに,なぜ人口が減少しているのだろう
(要因の考察)」,

学習課題A
「どうすれば『島』を活性化できるだろう
(解決策の構想)」

などが考えられる。

 学習課題の追究に当たっては,教師の側から対象地域に関する情報を積極的に提示することも考えられる。

 例えば,
架橋の前後で比べた
「島」の人口や小売店数の変化,
観光客の数や農作物の出荷量
などのデータを示し,
「この地域では,どのような課題が生じているだろうか」,
「将来この地域は,どうなることが予測されるだろうか」
を問うことなどである。

 生徒にとって,教師が用意した資料や自分で収集した資料を手掛かりにして,これらの問いをめぐって議論し,課題の重要性を実感するとともに,先に設定した二つの学習課題を改めて確認することが大切である。

 この後の授業展開は,学級全体によるものやグループ別によるものなど多様な展開をとり得るが,前者をとる場合は教師が主導する学習として展開し,後者をとる場合は,学習課題を小課題に細分化した上で,生徒主体の学習として展開することが考えられる。

 学習課題@の「『島』は橋で結ばれて便利になったのに,なぜ人口が減少しているのだろう」の追究に当っては,類似の課題が見られる国内外の他地域との比較,関連付けを通して考えることが大切になる。

-------------------------------

 例えば,
同じく人口が減少している事例として,

高速道路で結ばれて都市への移動が便利になった中山間地域の事例,

新幹線で結ばれて中心都市への移動が便利になった地方都市の事例,

海底トンネルで結ばれて大都市圏への移動が容易になった農村地域の事例

などと比較・関連付けることが考えられ,

グループ別の学習の場合,
各事例の調査をグループに割り振ることもできる。

-------------------------------

 これらの事例を比較,関連付けることで,

交通に関わる社会資本の整備に伴う地域間の結び付きの強化が,地方の人口流出をもたらす要因ともなっていること,

また,それは産業の衰退や学校・病院などの減少と生活の不便さをもたらす一方で,新たな開発や産業振興の機会を生み出す要因ともなっていること

などについて考察することも大切である。

 学習課題A「どうすれば『島』を活性化できるだろう」の追究に当たっても,類似の課題に直面しつつ,それを先進的に克服してきたモデル地域との比較,関連付けを通して考えることが大切である。

 例えば,同じような状況下で地域の活性化を図っている事例として,

都市部に通勤・通学可能な自然豊かな住宅地を整備することで,移住者の獲得を図っている事例,

獲れたての海産物や水産加工品を現地販売することで,都市から観光客を集めている事例,

若い企業家や芸術家を誘致して,情報や文化の発信地になっている事例

などと比較,関連付けることが考えられ,
これについてもグループ別の学習の場合,
各事例の調査をグループに割り振ることができる。

-------------------------------

 これらの地域を比較,考察し,
解決策を考えることで,

交通に関わる社会資本の整備
に伴う地域間の結び付きの強化は,
必ずしもマイナスに作用する(地方の衰退)だけでなく,
プラスにも作用し得る(地方の活性化)こと
に気付かせることや,

解決に向けた多様な選択肢を知ることで,
課題解決に向けた見通しを得ること

も大切である。

 V,Wの学習成果を踏まえて生徒が意見交換を行い,「島」の活性化策を提言する段階である。

 提言づくりに当っては,
対象地域の位置や規模,あるいは周辺地域との結び付きや人口,産業などに注目し,V,Wで調べた事例やモデルがそのまま生かせる場合と,生かせない場合があることに留意する必要がある。

 活性化策は,
グループを単位にして
多様な提言を集めることも考えられるし,
合意形成のプロセスを経て
学級として一つの提言に集約することも考えられ,
生徒や学校の実態に応じて,
柔軟に対応する必要がある。

-------------------------------

 なお,生徒の成果物は,

@プレゼンテーションソフトに加工して文化祭などで発表する,

A図表入りの報告書にまとめて学校のホームページに公開する,

B持続可能な社会の在り方を募集したコンテストなどに応募する,

Cビデオレターに編集して対象地域の調査協力者等に送付するなど,

社会への多様な還元の仕方が考えられる。

ここでの指導では,
導入の時点から成果物の最終的な取扱いを生徒に予告し,
学習の意味や意義の周知とともに
生徒自身の当事者性を十分に引き出しておくことが大切である。

 
 
→ 中学校社会編 目次
→ 小学校社会編 目次
→ 中学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ