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 歴史的分野の目標は,社会科の目標構成と同様に,柱書として示された目標と,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の資質・能力の三つの柱に沿った,それぞれ(1)から(3)までの目標から成り立っている。

 そして,これら(1)から(3)までの目標を有機的に関連付けることで,柱書として示された目標が達成されるという構造になっている。

 社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。

 今回の改訂においては,全ての教科,科目,分野等を学ぶ本質的な意義を各教科等の特質に応じた「見方・考え方」として整理した。

 その過程において,中学校社会科歴史的分野で働かせる「見方・考え方」について,「社会的事象の歴史的な見方・考え方」として整理したところである。

 社会的事象の歴史的な見方・考え方については,今回の中央教育審議会答申を踏まえ,「社会的事象を,時期,推移などに着目して捉え,類似や差異などを明確にし,事象同士を因果関係などで関連付けること」とし,考察,構想する際の「視点や方法(考え方)」として整理した。

 時期,年代など時系列に関わる視点,展開,変化,継続など諸事象の推移に関わる視点,類似,差異,特色など諸事象の比較に関わる視点,背景,原因,結果,影響など事象相互のつながりに関わる視点などに着目して捉え,比較したり,関連させたりして社会的事象を捉えたりすることとして整理したものである。

 社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通してとは,歴史的分野の学習において主体的・対話的で深い学びを実現するために,分野の学習において課題(問い)を設定し,その課題(問い)の追究のための枠組みとなる多様な視点に着目させ,課題を追究したり解決したりする活動が展開されるように学習を設計することが不可欠であることを意味している。

 社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせについては,歴史的分野の学習の特質を示している。

 すなわち,時代の転換の様子や各時代の特色を考察したり,歴史に見られる諸課題について複数の立場や意見を踏まえて選択・判断したりするということであり,また,それを用いることによって生徒が獲得する知識の概念化を促し,理解を一層深めたり,課題を主体的に解決しようとする態度などにも作用したりするということである。

 広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指すについては,社会科及び各分野に共通する表現であり,第2章の第1節「教科の目標」で説明したとおりである。

 
 

(1) 我が国の歴史の大きな流れを,世界の歴史を背景に,各時代の特色を踏まえて理解するとともに,諸資料から歴史に関する様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。

 目標の(1)は,歴史的分野の学習を通じて育成される資質・能力のうち,「知識及び技能」に関わるねらいを示している。

 我が国の歴史の大きな流れを,世界の歴史を背景に,各時代の特色を踏まえて理解するとは,平成20年改訂の趣旨を引き継ぎ,歴史的分野の学習の中心が「我が国の歴史の大きな流れ」の理解であり,「各時代の特色」はそのために踏まえるべきものであるという位置付けを示したものである。

 我が国の歴史と関連する世界の歴史を背景に,政治の展開,産業の発達,社会の様子,文化の特色など他の時代との共通点や相違点に着目して各時代の特色を明らかにした上で,我が国の歴史を大きく捉えることができるようにすることが学習の中心であることは従前どおりである。

 諸資料から歴史に関する様々な情報を効果的に調べまとめる技能とは,手段を考えて課題の解決に向けて必要な社会的事象に関する情報を収集する技能,収集した情報を社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせて読み取る技能,読み取った情報を課題の解決に向けてまとめる技能を意味している(後掲の「(3)内容の取扱い」及び巻末の参考資料を参照)。

 歴史的分野の学習において,これらの情報は主に様々な資料を通して収集される。

 歴史的分野の学習で用いられる資料には,文献や絵図,地図,統計など歴史学習に関わる様々な性格の資料や,作業的で具体的な体験を伴う学習によって得られる幅広い資料が存在する。

 その中から,必要な資料を選択して有効に活用することで,社会的事象を一面的に捉えるのではなく,様々な角度から捉えることが可能となる。

 以上に述べた技能については,収集する手段や情報の内容,資料の特性等に応じてそれぞれに指導の留意点が存在すると考えられる。

 このため,小学校の社会科での学習を踏まえるとともに,高等学校の地理歴史科や公民科での学習を視野に,生徒が身に付けた技能を繰り返し活用して習熟を図るように指導することが大切である。

 
 

(2) 歴史に関わる事象の意味や意義,伝統と文化の特色などを,時期や年代,推移,比較,相互の関連や現在とのつながりなどに着目して多面的・多角的に考察したり,歴史に見られる課題を把握し複数の立場や意見を踏まえて公正に選択・判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。

 目標の(2)は,歴史的分野の学習を通じて育成される資質・能力のうち,「思考力,判断力,表現力等」に関わるねらいを示している。

 ここでは,歴史的分野において養われる思考力,判断力を,社会的事象の歴史的な見方・考え方を用いて,歴史に関わる事象の意味や意義,伝統と文化の特色や,事象相互の関連を多面的・多角的に考察する力,歴史に見られる課題を把握して,学習したことを基に複数の立場や意見を踏まえて選択・判断できる力と捉えることが示されている。

 前述のとおり,社会的事象の歴史的な見方・考え方は,歴史学習において考察したり,選択・判断したりする際の「視点や方法(考え方)」として用いられるものであると考えられる。

 時期や年代,推移,比較,相互の関連や現在とのつながりなどとは,社会的事象の歴史的な見方・考え方に沿った視点の例を示している。

 これらの視点に着目した課題(問い)に導かれて,課題を追究したり解決したりする活動が展開されることとなる。

 その際,例えば,
「いつ(どこで,誰によって)おこったか」,
「前の時代とどのように変わったか」,
「どのような時代だったのか」,
「なぜ,おこった(何のために行われた)か」,
「どのような影響を及ぼしたか」,
「なぜそのような判断をしたと考えられるか」,
「歴史を振り返り,よりよい未来の創造のために,どのようなことが必要とされるのか」
などの見方・考え方に沿った視点
を生かした,
考察や構想に向かう「問い」が考えられる。

 多面的・多角的に考察…する力については,歴史的分野の学習対象である社会的事象そのものが多様な側面をもつとともに,様々な角度からや,いろいろな立場に立って追究することが可能である。

 そのためには,目標(1)で示した,資料を適切に収集,選択,活用し,資料に基づいて考察,構想することも大切である。

 そのことが歴史における課題について「公正に選択・判断…する力」を養う基本となっている。

 思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力については,歴史的分野における表現力に関わるものである。

 歴史的分野における「表現力」とは,主旨が明確になるように内容構成を考え,歴史に関わる事象についての意味や意義について,自分の考えを論理的に説明する力,他者の主張を踏まえたり取り入れたりして,歴史に関わる事象についての自分の考えを再構成しながら議論する力のことであると考えられる。

 こうした表現力を養うためには,学習内容や活動に応じた振り返りの場面を設定し,生徒の表現を促すようにすることなどが重要である。

 
 

(3) 歴史に関わる諸事象について,よりよい社会の実現を視野にそこで見られる課題を主体的に追究,解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵(かん)養される我が国の歴史に対する愛情,国民としての自覚,国家及び社会並びに文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を尊重しようとすることの大切さについての自覚などを深め,国際協調の精神を養う。

 目標の(3)は,歴史的分野の学習を通じて育成される資質・能力のうち,「学びに向かう力,人間性等」に関わるねらいを示している。

 よりよい社会の実現を視野にそこで見られる課題を主体的に追究,解決しようとする態度を養うについては,教科目標に「社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養う」と示されたことを受けて,歴史に関わる諸事象について,生徒自らが関心をもって学習に取り組むことができるようにするとともに,学習を通して更に関心を高めるよう指導を工夫することを示している。

 多面的・多角的な考察や深い理解とは,社会科の学習における考察や理解の特質を示している。

 そして,そうした学習を通して涵(かん)養される我が国の歴史に対する愛情,国民としての自覚,国家及び社会並びに文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を尊重しようとすることの大切さについての自覚などを深め,「学びに向かう力,人間性等」を養うことを示している。

 我が国の歴史に対する愛情,国民としての自覚,国家及び社会並びに文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を尊重しようとすることの大切さについての自覚などを深め,国際協調の精神を養うとは,
従前の目標の(1),(2)及び(3)を踏襲し,歴史的分野の学習を通じて,教育基本法(教育の目標)第二条五に示される「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」の精神を実現することを意味している。

 
 
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