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 この大項目では,19世紀前半までの歴史を扱い,文明の多様性を理解し,我が国の歴史について,近世までの各時代の特色を,主としてアジアを中心とした世界との関わりの中で理解することを目的としている。

 そのため,
「(1)古代までの日本」,
「(2)中世の日本」,
「(3)近世の日本」
の三つの中項目で構成されている。

 この中項目では,人類のおこりや文明の発生から12世紀ごろまでの歴史を扱い,我が国の古代までの特色を,世界の動きとの関連を踏まえて課題を追究したり解決したりする活動を通して学習することをねらいとしている。

 この時期の我が国では,農耕・牧畜が始まって文明がおこり国家が形成されていったという世界の動きの中で,特に東アジアと深い関わりをもちながら,狩猟・採集を行っていた人々が栽培を取り入れ,やがて大陸から本格的な農耕を急速に取り入れた後,農耕の広まりによる生活の変化,国家の形成と発展,天皇・貴族による政治の展開,文化の発展などの動きが見られた。

 ここでは,従前の大項目(2)の三つの中項目を,時間や空間の相違を明確に示す観点から,以下の(ア)から(エ)までの四つの事項として構成した。

 以下は,この中項目全体の構造を説明するために,アの「知識及び技能」に関する(ア)から(エ)までの事項(事項名のみを記載)と,イの「思考力,判断力,表現力等」に関する項目との関係を示したものである。

(1)古代までの日本課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア)世界の古代文明や宗教のおこり

(イ)日本列島における国家形成

(ウ)律令(りつりょう)国家の形成

(エ)古代の文化と東アジアとの関わり

 

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 古代文明や宗教が起こった場所や環境,農耕の広まりや生産技術の発展,東アジアとの接触や交流と政治や文化の変化などに着目して,事象を相互に関連付けるなどして,アの(ア)から(エ)までについて古代の社会の変化の様子を多面的・多角的に考察し,表現すること。

(イ) 古代までの日本を大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現すること。

 アの(ア)から(エ)までの事項を学習するに当たっては,
生徒の学習への動機付けや見通しを促しつつ,
イの(ア)の
「古代文明や宗教が起こった場所や環境」,
「農耕の広まりや生産技術の発展」,
「東アジアとの接触や交流と政治や文化の変化」
などに着目して,例えば,

「本格的な稲作の広まりによって社会はどのように変化したのだろうか」,
「中国をはじめとする東アジアとの交流は,日本の文化にどのような影響を与えたのだろうか」
などの課題(問い)を設定することで,
社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせて,
その課題について,
多面的・多角的に考察,表現できるようにすることが大切である。

 イの(イ)の大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現することとは,「我が国の歴史の大きな流れ」を「各時代の特色を踏まえて理解する」という歴史的分野の学習の基本的なねらいを踏まえ,各中項目のまとめとして位置付けたものである。

 各時代の特色を大きく捉え,政治の展開,産業の発達,社会の様子,文化の特色など他の時代との共通点や相違点に着目して,学習した内容を比較したり関連付けたりするなどして,その結果を言葉や図などで表したり,互いに意見交換したりする活動を示している。

 このような活動によって,「思考力,判断力,表現力等」を養うとともに,各時代の特色を生徒が自分の言葉で表現できるような「確かな理解と定着を図る」(内容の取扱い(1)ウ)ことが求められる。

 
 

(ア) 世界の古代文明や宗教のおこり

 世界の古代文明や宗教のおこりを基に,世界の各地で文明が築かれたことを理解すること。

(内容の取扱い)

ア (1)のアの(ア)の「世界の古代文明」については,人類の出現にも触れ,中国の文明をはじめとして諸文明の特徴を取り扱い,生活技術の発達,文字の使用,国家のおこりと発展などの共通する特徴に気付かせるようにすること。

 また,ギリシャ・ローマの文明について,政治制度など民主政治の来歴の観点から取り扱うこと。

 「宗教のおこり」については,仏教,キリスト教,イスラム教などを取り上げ,古代の文明とともに大きく捉えさせるようにすること。

 この事項のねらいは,世界各地で文明が築かれたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)の「古代文明や宗教が起こった場所や環境」などに着目して課題(問い)を設定し,文明や宗教の特徴を比較して考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「世界の各地で文明が築かれたことを理解する」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 世界の古代文明や宗教のおこりについては,「人類の出現にも触れ」(内容の取扱い),我が国と最も関わりの深い「中国の文明をはじめとして」(内容の取扱い),諸文明の特徴を取り扱う。

 その際,類似性など観点を定めて「生産技術の発達,文字の使用,国家のおこりと発展」(内容の取扱い)など,また,例えば,都市や巨大建造物,身分の分化などの共通する特徴などに気付くことができるようにする。

 ギリシャ・ローマの文明については,事象を精選し,民主政や共和政など政治制度を中心に扱うようにする。

 その際,当時の政治制度について,現代につながる面と現代の民主主義とは異なる面の両面を踏まえて理解できるようにするなど主権者の育成の観点にも留意する。

 
 

(イ) 日本列島における国家形成

 日本列島における農耕の広まりと生活の変化や当時の人々の信仰,大和朝廷(大和政権)による統一の様子と東アジアとの関わりなどを基に,東アジアの文明の影響を受けながら我が国で国家が形成されていったことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(イ)の「日本列島における国家形成」については,狩猟・採集を行っていた人々の生活が農耕の広まりとともに変化していったことに気付かせるようにすること。

 また,考古学などの成果を活用するとともに,古事記,日本書紀,風土記などにまとめられた神話・伝承などの学習を通して,当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意すること。

 「大和朝廷(大和政権)による統一の様子と東アジアとの関わり」については,古墳の広まりにも触れるとともに,大陸から移住してきた人々の我が国の社会や文化に果たした役割にも気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,東アジアの文明の影響を受けながら我が国で国家が形成されていったことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「農耕の広まりや生産技術の発展」などに着目して課題(問い)を設定し,農耕の広まりが生活や社会に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「東アジアの文明の影響を受けながら我が国で国家が形成されていったことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 日本列島における農耕の広まりと生活の変化や当時の人々の信仰については,日本の豊かな自然環境の中における生活が,「農耕の広まりとともに変化していったこと」(内容の取扱い)や,自然崇拝や農耕儀礼などに基づく信仰が後の時代にもつながっていることに気付くことができるようにする。

 その際,新たな遺跡の発掘の成果や具体的な遺物の発見による「考古学などの成果を活用」(内容の取扱い)するとともに,「古事記,日本書紀,風土記などにまとめられた神話・伝承など」(内容の取扱い)の学習を通して,当時の人々の信仰やものの見方に気付くことができるようにする。

 また,「考古学などの成果」(内容の取扱い)については,それらを報じた新聞記事や地域の遺跡,博物館の活用を図るような学習も考えられる。

 大和朝廷(大和政権)による統一の様子と東アジアとの関わりについては,古墳の大きさやその分布を基に,小学校での学習を踏まえてその勢力の広がりを大きく捉えることができるようにする。

 その際,「朝廷」が政治の組織を意味することや,「大陸から移住してきた人々の我が国の社会や文化に果たした役割」(内容の取扱い)にも気付くことができるようにする。

 
 

(ウ) 律令(りつりょう)国家の形成

 律令(りつりょう)国家の確立に至るまでの過程,摂関政治などを基に,東アジアの文物や制度を積極的に取り入れながら国家の仕組みが整えられ,その後,天皇や貴族による政治が展開したことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(ウ)の「律令(りつりょう)国家の確立に至るまでの過程」については,聖徳太子の政治,大化の改新から律令(りつりょう)国家の確立に至るまでの過程を,小学校での学習内容を活用して大きく捉えさせるようにすること。

 なお,「聖徳太子の政治」を取り上げる際には,聖徳太子が古事記や日本書紀においては「厩戸皇子(うまやどのおうじ)」などと表記され,後に「聖徳太子」と称されるようになったことに触れること。

 この事項のねらいは,東アジアの文物や制度を積極的に取り入れながら国家の仕組みが整えられ,その後,天皇や貴族による政治が展開したことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「東アジアとの接触や交流と政治…の変化」などに着目して課題(問い)を設定し,東アジアの動きが政治に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「東アジアの文物や制度を積極的に取り入れながら国家の仕組みが整えられ,その後,天皇や貴族による政治が展開したことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 律令(りつりょう)国家の確立に至るまでの過程については,「聖徳太子の政治,大化の改新」(内容の取扱い)などについて,単なる小学校での学習内容の繰り返しにならないよう留意し,その成果を有効に活用しながら,我が国が律令(りつりょう)国家として形づくられていったことを大きく捉えることができるようにする。

 「聖徳太子の政治」を扱う際には,古事記や日本書紀などに「厩戸皇子(うまやどのおうじ)」など複数の呼称が示されていたり当時の政治や文化についての記述が示されていたりすることに触れるようにする。

 また,後に「聖徳太子」と称されるようになったことにも触れるようにする。「大化の改新」を扱う際には,このころ初めて大化という元号が使われたことにも触れるようにする。

 
 
(エ) 古代の文化と東アジアとの関わり仏教の伝来とその影響,仮名文字の成立などを基に,国際的な要素をもった文化が栄え,それらを基礎としながら文化の国風化が進んだことを理解すること。

 この事項のねらいは,国際的な要素をもった文化が栄え,それらを基礎としながら文化の国風化が進んだことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「東アジアとの接触や交流と…文化の変化」に着目して課題(問い)を設定し,東アジアの動きが文化に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「国際的な要素をもった文化が栄え,それらを基礎としながら文化の国風化が進んだことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 仏教の伝来とその影響については,大陸からもたらされた仏教が我が国の文化の様々な面に影響を及ぼしたことに気付くことができるようにする。

 仮名文字の成立については,日本独自の仮名文字が発明され,それを使った文学作品が書かれたことなどに気付くことができるようにする。

 
 
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