cosnavi.jp

 この中項目では,16世紀から19世紀前半までの歴史を扱い,我が国の近世の特色を,世界の動きとの関連を踏まえて課題を追究したり解決したりする活動を通して学習することをねらいとしている。

 この時期の我が国は,織田・豊臣の統一事業及び江戸幕府による諸政策を通して生まれた安定した社会が,その後長く続いた。

 外国との関わりでは,ヨーロッパ文化の伝来や東南アジア各地への日本人の渡航など対外関係が活発な時期から,外国との交渉が限定された時期へと移っていった。

 その中で産業や交通が著しく発達し,町人文化や各地方の生活文化が形成されるとともに,社会の変動の中で幕府の政治が行き詰まっていった。

 この中項目は,アに示した次の(ア)から(エ)までの事項によって構成した。

 以下は,この中項目全体の構造を説明するために,アの「知識及び技能」に関する(ア)から(エ)までの事項(事項名のみを記載)と,イの「思考力,判断力,表現力等」に関する項目との関係を示したものである。

(3)近世の日本

 課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア) 世界の動きと統一事業

(イ) 江戸幕府の成立と対外関係

(ウ) 産業の発達と町人文化

(エ) 幕府の政治の展開

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 交易の広がりとその影響,統一政権の諸政策の目的,産業の発達と文化の担い手の変化,社会の変化と幕府の政策の変化などに着目して,事象を相互に関連付けるなどして,アの(ア)から(エ)までについて近世の社会の変化の様子を多面的・多角的に考察し,表現すること。

(イ) 近世の日本を大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現すること。

 アの(ア)から(エ)までの事項を学習するに当たっては,
生徒の学習への動機付けや見通しを促しつつ,
イの(ア)の
「交易の広がりとその影響」,
「統一政権の諸政策の目的」,
「産業の発達と文化の担い手の変化」,
「社会の変化と幕府の政策の変化」
などに着目して,

例えば,

「安土桃山時代の文化は,それ以前の文化とどのような違いがあるのだろうか,またその違いはどのような政治や社会の動きから生まれたのだろうか」,
「ヨーロッパ人はなぜアジアに来たのだろうか」,
「なぜ町人が文化の担い手となったのだろうか」,
「なぜ幕府の政治は改革が必要となったのだろうか」

などの課題(問い)を設定することで,
社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせて,
その課題について,
多面的・多角的に考察,表現できるようにすることが大切である。

 イの(イ)の大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現することとは,
「我が国の歴史の大きな流れ」を「各時代の特色を踏まえて理解する」という歴史的分野の学習の基本的なねらいを踏まえ,各中項目のまとめとして位置付けたものである。

 各時代の特色を大きく捉え,政治の展開,産業の発達,社会の様子,文化の特色など他の時代との共通点や相違点に着目して,学習した内容を比較したり関連付けたりするなどして,その結果を言葉や図などで表したり,互いに意見交換したりする活動を示している。

 このような活動によって,「思考力,判断力,表現力等」を養うとともに,各時代の特色を生徒が自分の言葉で表現できるような「確かな理解と定着を図る」(内容の取扱い(1)ウ)ことが求められる。

 
 

(ア) 世界の動きと統一事業

 ヨーロッパ人来航の背景とその影響,織田・豊臣による統一事業とその当時の対外関係,武将や豪商などの生活文化の展開などを基に,近世社会の基礎がつくられたことを理解すること。

(内容の取扱い)

ウ (3)のアの(ア)の「ヨーロッパ人来航の背景」については,新航路の開拓を中心に取り扱い,その背景となるアジアの交易の状況やムスリム商人などの役割と世界の結び付きに気付かせること。

 また,宗教改革についても触れること。

 「織田・豊臣による統一事業」については,検地・刀狩などの政策を取り扱うようにすること。

 この事項のねらいは,日本の近世社会の基礎がつくられたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(3)のイの(ア)に示された「交易の広がりとその影響」などに着目して課題(問い)を設定し,豊かな交易が行われていたアジアにヨーロッパ諸国が進出する中で,世界の交易の空間的な広がりが生み出され,それを背景として日本とヨーロッパ諸国の接触がおこったことや,日本の政治や文化に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 また,例えば,「統一政権の諸政策の目的」などに着目して課題(問い)を設定し,中世社会から近世社会への変化が生み出され,日本の政治や文化に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「近世社会の基礎がつくられたこと」を理解することができるという,この事項のねらいを実現することが大切である。

 ヨーロッパ人来航の背景とその影響については,「新航路の開拓を中心に取り扱い,その背景となるアジアの交易の状況やムスリム商人などの役割と世界の結び付きに気付かせること。

 また,宗教改革についても触れる」(内容の取扱い)こととし,中継貿易などでの中世以来のムスリム商人の活動などによる世界の結び付きに気付くことができるようにするとともに,ポルトガルやスペインによる新航路の開拓や宗教改革によるキリスト教世界の動きに伴って,鉄砲やキリスト教が伝来して南蛮貿易が盛んになり,日本の社会に影響を及ぼしたことを扱うようにする。

 織田・豊臣による統一事業とその当時の対外関係については,織田信長が行った仏教勢力への圧迫や関所の撤廃,豊臣秀吉が行った「検地・刀狩などの政策」(内容の取扱い)によって,中世に大きな力をもった勢力が力を失ったことや,中世までとは異なる社会が生まれていったことなどの大きな変化に気付くことができるようにする。

 また,当時の対外関係として,東南アジアなどとの積極的な貿易,キリスト教への対応,朝鮮への出兵などを取り上げる。

 武将や豪商などの生活文化の展開については,南蛮文化が取り入れられる一方,生活に根ざした文化が広がり,武将や豪商の気風や経済力を背景とした豪壮・華麗な文化が生み出されたことに気付くことができるようにする。

 
 

(イ) 江戸幕府の成立と対外関係

 江戸幕府の成立と大名統制,身分制と農村の様子,鎖国などの幕府の対外政策と対外関係などを基に,幕府と藩による支配が確立したことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (3)のアの(イ)の「鎖国などの幕府の対外政策と対外関係」については,オランダ,中国との交易のほか,朝鮮との交流や琉球(りゅうきゅう)の役割,北方との交易をしていたアイヌについて取り扱うようにすること。

 その際,アイヌの文化についても触れること。

 「幕府と藩による支配」については,その支配の下に大きな戦乱のない時期を迎えたことなどに気付かせること。

 この事項のねらいは,幕府と藩による支配が確立したことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(3)のイの(ア)に示された「統一政権の諸政策の目的」などに着目して課題(問い)を設定し,江戸幕府により全国を支配する仕組みが作られ,都市や農村における生活が変化したことや,安定した社会が構築されたことなどを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「幕府と藩による支配が確立したことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 江戸幕府の成立と大名統制については,幕府が大名を統制するとともに,その領内の政治の責任を大名に負わせたことに気付くことができるようにする。

 また,「その支配の下に大きな戦乱のない時期を迎えた」(内容の取扱い)ことなど,中世の武家政治との違いという観点から,中世から近世への転換の様子に気付くことができるようにする。

 身分制と農村の様子については,それぞれの身分の中で人々が職分を果たしたこと,人口の多数を占めた農民が村を生活の基盤として農作業などで助け合いながら暮らしていたこと,農村が幕府や藩の経済を支えていたことに気付くことができるようにする。

 鎖国などの幕府の対外政策については,17世紀初めの活発な貿易に触れるとともに,海外渡航を禁止したり,貿易船を制限したりするなど,のちに鎖国と呼ばれた幕府の政策に,キリスト教の禁止,外交関係と海外情報の統制,大名の統制などの面があったことに気付くことができるようにする。

 対外関係については,長崎での「オランダ,中国との交易」(内容の取扱い),対馬を通しての「朝鮮との交流」(内容の取扱い),中国との関わりにおける「琉球(りゅうきゅう)の役割」(内容の取扱い),蝦夷地(えぞち)においてアイヌの人々が,海産物など「北方との交易をしていた」(内容の取扱い)などについても扱い,統制の中にも交易や交流が見られたことに気付くことができるようする。

 また,「アイヌの文化」(内容の取扱い)については,「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議(平成20年6月6日衆議院・参議院本会議)」,「アイヌ文化の復興等を促進するための民族共生象徴空間の整備及び管理運営に関する基本方針について(平成26年6月13日閣議決定(平成29年6月27日一部変更))」を踏まえ,先住民族として言語や宗教などで独自性を有するアイヌの人々の文化についても触れるようにする。

 
 

(ウ) 産業の発達と町人文化

 産業や交通の発達,教育の普及と文化の広がりなどを基に,町人文化が都市を中心に形成されたことや,各地方の生活文化が生まれたことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (3)のアの(ウ)の「産業や交通の発達」については,身近な地域の特徴を生かすようにすること。

 「各地方の生活文化」については,身近な地域の事例を取り上げるように配慮し,藩校や寺子屋などによる「教育の普及」や社会的な「文化の広がり」と関連させて,現在との結び付きに気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,町人文化が都市を中心に形成されたことや,各地方の生活文化が生まれたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(3)のイの(ア)に示された「産業の発達と文化の担い手の変化」などに着目して課題(問い)を設定し,都市を中心とした経済が形成されていく中で,日本の文化の空間的な広がりが生み出され,それを背景として各地方の生活文化が生まれたことや,生産技術の向上や交通の整備と町人文化の特徴などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「町人文化が都市を中心に形成されたことや,各地方の生活文化が生まれたことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 産業や交通の発達については,例えば,農林水産業の発達,手工業や商業の発達,河川・海上交通や街道の発達などの中から,地域の特色を生かした事例を選んで内容を構成するなど,「身近な地域の特徴を生かす」(内容の取扱い)ことに留意する。

 教育の普及と文化の広がりについては,「藩校や寺子屋など」(内容の取扱い)の普及に着目して人々の教育への関心の高まりに気付くことができるようにするとともに,学問・芸術・芸能などの地域的な広まりに着目して,文化の社会的な基盤が拡大したことなどを理解できるようにすることを意味している。

 近世の文化の学習に際しては,大阪・京都・江戸などの都市を舞台に,経済力を高めた町人を担い手とする文化が形成されたことや,衣食住,年中行事,祭礼などの「各地方の生活文化」が生まれたことを,「身近な地域の事例を取り上げるように配慮」(内容の取扱い)して理解できるようにするとともに,近代の日本の基盤が形成されたことなど,それと「現在との結び付き」(内容の取扱い)に気付くことができるようにする。

 その際,「代表的な事例を取り上げてその特色を考察させる」(内容の取扱い(1)エ)ことが大切である。

 この事項の学習に際しては,内容のAの「(2)身近な地域の歴史」と結び付けて行うことも考えられる。

 
 
(エ) 幕府の政治の展開社会の変動や欧米諸国の接近,幕府の政治改革,新しい学問・思想の動きなどを基に,幕府の政治が次第に行き詰まりをみせたことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (3)のアの(エ)の「幕府の政治改革」については,百姓一揆(いっき)などに結び付く農村の変化や商業の発達などへの対応という観点から,代表的な事例を取り上げるようにすること。

 この事項のねらいは,幕府の政治が次第に行き詰まりをみせたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(3)のイの(ア)に示された「社会の変化と幕府の政策の変化」などに着目して課題(問い)を設定し,貨幣経済が農村に広がる中で経済的な格差が生み出され,それを背景として百姓一揆(いっき)がおこったことや,社会や経済の変化への対応としての諸改革の展開などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「幕府の政治が次第に行き詰まりをみせたことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 社会の変動や欧米諸国の接近については,貨幣経済の農村への広がりや自然災害などによる都市や農村の変化などを踏まえ,近世社会の基礎が動揺していったことに気付くことができるようにするとともに,江戸時代後半の外国船の接近や,それに対応した幕府による北方の調査や打払令などを扱うようにする。

 欧米諸国の接近の事情については,内容のCの「(1)近代の日本と世界」のアの(ア)で扱う。

 幕府の政治改革については,「百姓一揆(いっき)などに結び付く農村の変化や商業の発達などへの対応という観点から,代表的な事例を取り上げる」(内容の取扱い)ようにする。

 その際,財政の悪化などの背景や,改革の結果などに触れる。

 新しい学問・思想の動きについては,この時期に起こってきた蘭学(らんがく)や国学などの中に新しい時代を切り開く動きが見られたことに気付くことができるようにする。

 
 
→ 中学校社会編 目次
→ 小学校社会編 目次
→ 中学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ