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 この大項目では,19世紀ごろから20世紀末ごろまでの我が国の歴史を扱い,18世紀ごろからの世界の動きとの関わりの中で理解できるようにすることを目的としている。

 そのため,従前の中項目「(5)近代の日本と世界」,「(6)現代の日本と世界」を,世界の動きとの関連を一層重視して我が国の近現代の特色を捉える観点から「C 近現代の日本と世界」という大項目として構成した。

 この中項目では,19世紀ごろから20世紀前半までの我が国の歴史を扱い,我が国の近代の特色を,18世紀ごろからの世界の動きとの関連を踏まえて課題を追究したり解決したりする活動を通して学習することをねらいとしている。

 この時期の我が国は,欧米諸国のアジアへの進出など複雑な国際情勢の中で開国し,急速な近代化を進めて近代国家の仕組みを整え,その後常にアジア諸国や欧米諸国と密接な関わりをもってきた。

 この中項目は,アに示した次の(ア)から(カ)までの事項によって構成した。以下は,この中項目全体の構造を説明するために,アの「知識及び技能」に関する(ア)から(カ)までの事項(事項名のみを記載)と,イの「思考力,判断力,表現力等」に関する項目との関係を示したものである。

(1)近代の日本と世界

 課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア) 欧米における近代社会の成立とアジア諸国の動き

(イ) 明治維新と近代国家の形成

(ウ) 議会政治の始まりと国際社会との関わり

(エ) 近代産業の発展と近代文化の形成

(オ) 第一次世界大戦前後の国際情勢と大衆の出現

(カ) 第二次世界大戦と人類への惨禍

 

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 工業化の進展と政治や社会の変化,明治政府の諸改革の目的,議会政治や外交の展開,近代化がもたらした文化への影響,経済の変化の政治への影響,戦争に向かう時期の社会や生活の変化,世界の動きと我が国との関連などに着目して,事象を相互に関連付けるなどして,アの(ア)から(カ)までについて近代の社会の変化の様子を多面的・多角的に考察し,表現すること。

(イ) 近代の日本と世界を大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現すること。

 アの(ア)から(カ)までの項目を学習するに当たっては,
生徒の学習への動機付けや見通しを促しつつ,イの(ア)の

「工業化の進展と政治や社会の変化」,
「明治政府の諸改革の目的」,
「議会政治や外交の展開」,
「近代化がもたらした文化への影響」,
「経済の変化の政治への影響」,
「戦争に向かう時期の社会や生活の変化」,
「世界の動きと我が国との関連」

などに着目して,

例えば,

「明治政府はどのような国づくりを目指したのだろうか」,
「日本における立憲制の成立は,当時の国際社会との関わりでどのような意義があったのだろうか」,
「なぜ,第一次世界大戦の反省は生かされなかったのだろうか」

などの課題(問い)を設定することで,
社会的事象の歴史的な見方・考え方を働かせて,
その課題について,
多面的・多角的に考察,表現できるようにすることが大切である。

 イの(イ)の大観して,時代の特色を多面的・多角的に考察し,表現することとは,「我が国の歴史の大きな流れ」を「各時代の特色を踏まえて理解する」という歴史的分野の学習の基本的なねらいを踏まえ,各中項目のまとめとして位置付けたものである。

 各時代の特色を大きく捉え,政治の展開,産業の発達,社会の様子,文化の特色など他の時代との共通点や相違点に着目して,学習した内容を比較したり関連付けたりするなどして,その結果を言葉や図などで表したり,互いに意見交換したりする活動を示している。

 このような活動によって,「思考力,判断力,表現力等」を養うとともに,各時代の特色を生徒が自分の言葉で表現できるような「確かな理解と定着を図る」(内容の取扱い(1)ウ)ことが求められる。

 
 
(ア) 欧米における近代社会の成立とアジア諸国の動き欧米諸国における産業革命や市民革命,アジア諸国の動きなどを基に,欧米諸国が近代社会を成立させてアジアへ進出したことを理解すること。

(内容の取扱い)

ア (1)のアの(ア)の「市民革命」については,政治体制の変化や人権思想の発達や広がり,現代の政治とのつながりなどと関連付けて,アメリカの独立,フランス革命などを扱うこと。

 「アジア諸国の動き」については,欧米諸国の進出に対するアジア諸国の対応と変容という観点から,代表的な事例を取り上げるようにすること。

 この事項のねらいは,欧米諸国が近代社会を成立させてアジアへ進出したことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「工業化の進展と政治や社会の変化」などに着目して課題(問い)を設定し,欧米諸国の市場や原料供給地を求めたアジアへの進出が,日本の政治や社会に与えた影響などを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「欧米諸国が近代社会を成立させてアジアへ進出したことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 産業革命については,イギリスなどを取り上げ,資本主義社会が成立したことや,労働問題・社会問題が発生したことに気付くことができるようにする。

 市民革命については,「政治体制の変化や人権思想の発達や広がり,現代の政治とのつながり」(内容の取扱い)などと関連付けて,「アメリカの独立,フランス革命などを扱うこと」(内容の取扱い)とし,政治的な対立と社会の混乱,そこで生じた犠牲などを経て近代民主政治への動きが生まれたことに気付くことができるようにする。

 アジア諸国の動きについては,「欧米諸国の進出に対するアジア諸国の対応と変容という観点」(内容の取扱い)から,中国の動きなどを取り上げる。

 
 

(イ) 明治維新と近代国家の形成

 開国とその影響,富国強兵・殖産興業政策,文明開化の風潮などを基に,明治維新によって近代国家の基礎が整えられて,人々の生活が大きく変化したことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(イ)の「開国とその影響」については,(1)のアの(ア)の欧米諸国のアジア進出と関連付けて取り扱うようにすること。

 「富国強兵・殖産興業政策」については,この政策の下に新政府が行った,廃藩置県,学制・兵制・税制の改革,身分制度の廃止,領土の画定などを取り扱うようにすること。

 その際,北方領土に触れるとともに,竹島,尖閣諸島の編入についても触れること。

 「明治維新」については,複雑な国際情勢の中で独立を保ち,近代国家を形成していった政府や人々の努力に気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,明治維新によって近代国家の基礎が整えられて,人々の生活が大きく変化したことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「明治政府の諸改革の目的」などに着目して課題(問い)を設定し,明治政府の諸改革が政治や文化や人々の生活に与えた影響を考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「明治維新によって近代国家の基礎が整えられて,人々の生活が大きく変化したことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 開国とその影響については,「(1)のアの(ア)の欧米諸国のアジア進出と関連付けて取り扱うように」(内容の取扱い)し,幕府が対外政策を転換して開国したことと,その政治的及び社会的な影響を踏まえ,それが明治維新の動きを生み出したことに気付くことができるようにする。

 富国強兵・殖産興業政策については,「廃藩置県,学制・兵制・税制の改革,身分制度の廃止,領土の画定」(内容の取扱い)などを取り扱い,学制など今日につながる諸制度がつくられたことや,身分制度の廃止にも関わらず現実には差別が残ったことに気付くことができるようにする。

 「領土の画定」では,ロシアとの領土の画定をはじめ,琉球(りゅうきゅう)の問題や北海道の開拓を扱う。

 その際,北方領土(歯舞(はぼまい)群島,色丹(しこたん)島,国後(くなしり)島,択捉(えとろふ)島)が一貫して我が国の領土として国境設定がなされたことについても触れるとともに,竹島,尖閣諸島については,我が国が国際法上正当な根拠に基づき正式に領土に編入した経緯にも触れ,これらの領土についての我が国の立場が歴史的にも国際法上も正当であることを理解できるようにする。

 また,中国や朝鮮との外交も扱うようにする。

 文明開化の風潮については,欧米諸国から取り入れた制度や文化の影響で,社会の様子や人々の生活が大きく変化したことに気付くことができるようにする。

 明治維新については,「複雑な国際情勢の中で独立を保ち,近代国家を形成していった政府や人々の努力」(内容の取扱い)に気付くことができるようにするとともに,近世の政治や社会との違いに着目して,近世から近代への転換の様子に気付くことができるようにする。

 
 

(ウ) 議会政治の始まりと国際社会との関わり

 自由民権運動,大日本帝国憲法の制定,日清・日露戦争,条約改正などを基に,立憲制の国家が成立して議会政治が始まるとともに,我が国の国際的な地位が向上したことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(ウ)の「日清・日露戦争」については,この頃の大陸との関係を踏まえて取り扱うようにすること。

 「条約改正」については,当時の国内の社会状況や国際情勢との関わりを踏まえて,欧米諸国と対等な外交関係を樹立する過程の中から代表的な事例を取り上げるようにすること。

 「立憲制の国家が成立して議会政治が始まる」については,その歴史上の意義や現代の政治とのつながりに気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,立憲制の国家が成立して議会政治が始まるとともに,我が国の国際的な地位が向上したことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「議会政治や外交の展開」などに着目して課題(問い)を設定し,世界との関係や,現代の政治とのつながりを考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「立憲制の国家が成立して議会政治が始まるとともに,我が国の国際的な地位が向上したことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 自由民権運動,大日本帝国憲法の制定については,自由民権運動の全国的な広まり,政党の結成,憲法の制定過程とその内容の特徴を扱うようにする。

 その際,大日本帝国憲法の制定によって当時アジアで唯一の立憲制の国家が成立したことを踏まえ,立憲制の国家が成立して議会政治が始まったことの「歴史上の意義や現代の政治とのつながり」(内容の取扱い)に気付くことができるようにする。

 日清・日露戦争については,「この頃の大陸との関係を踏まえて取り扱」(内容の取扱い)い,戦争に至るまでの我が国の動き,戦争のあらましと国内外の反応,韓国の植民地化などを扱うようにする。

 条約改正については,「当時の国内の社会状況や国際情勢との関わり」(内容の取扱い)などの背景を踏まえて,「欧米諸国と対等な外交関係を樹立する過程の中から代表的な事例を取り上げ」(内容の取扱い),長年にわたる外交上の課題として取り組まれたことに気付くことができるようにする。

 
 

(エ) 近代産業の発展と近代文化の形成

 我が国の産業革命,この時期の国民生活の変化,学問・教育・科学・芸術の発展などを基に,我が国で近代産業が発展し,近代文化が形成されたことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(エ)の「近代文化」については,伝統的な文化の上に欧米文化を受容して形成されたものであることに気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,我が国で近代産業が発展し,近代文化が形成されたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「近代化がもたらした文化への影響」などに着目して課題(問い)を設定し,産業の発展が国民生活や文化に与えた影響を考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「我が国で近代産業が発展し,近代文化が形成されたことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 我が国の産業革命については,事項(イ)の「富国強兵・殖産興業政策」の下で近代産業が進展したことと関連させて扱うようにする。

 例えば,製糸業,紡績業や鉄鋼業の発展などの例を取り上げ,我が国の近代産業は日清戦争前後から飛躍的に発展して資本主義経済の基礎が固まったことに気付くことができるようにする。

 また,都市や農山漁村の生活に大きな変化が生じたことに気付くことができるようにする。

 この時期の国民生活の変化については,鉄道網の広がりや工業の発達などによって人々の生活の変化が見られたこと,その一方で労働問題や社会問題が発生したことに気付くことができるようにする。

 その際,近代化遺産を取り上げるなど,身近な地域を例として変化の様子を具体的に捉えることができるような工夫が望まれる。

 学問・教育・科学・芸術の発展については,学問や科学の分野に国際的な業績が生まれるなど,その進歩が著しかったことに気付くことができるようにする。

 近代文化の学習に際しては,「伝統的な文化の上に欧米文化を受容して形成されたものであること」(内容の取扱い)に気付くことができるようにする。

 
 

(オ) 第一次世界大戦前後の国際情勢と大衆の出現

 第一次世界大戦の背景とその影響,民族運動の高まりと国際協調の動き,我が国の国民の政治的自覚の高まりと文化の大衆化などを基に,第一次世界大戦前後の国際情勢及び我が国の動きと,大戦後に国際平和への努力がなされたことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(オ)の「第一次世界大戦」については,世界に戦禍が広がった背景や,日本の参戦,ロシア革命なども取り上げて,世界の動きと我が国との関連を踏まえて取り扱うようにすること。

 「我が国の国民の政治的自覚の高まり」については,大正デモクラシーの時期の政党政治の発達,民主主義的な思想の普及,社会運動の展開を取り扱うようにすること。

 この事項のねらいは,第一次世界大戦前後の国際情勢及び我が国の動きと,大戦後に国際平和への努力がなされたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「世界の動きと我が国との関連」などに着目して課題(問い)を設定し,戦争による世界と我が国の社会の変化や影響を考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「第一次世界大戦前後の国際情勢及び我が国の動きと,大戦後に国際平和への努力がなされたことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 第一次世界大戦の背景とその影響については,ヨーロッパ諸国間の対立や民族問題などを背景として第一次世界大戦が起こったことに気付くことができるようにするとともに,「日本の参戦,ロシア革命なども取り上げて,世界の動きと我が国との関連を踏まえて取り扱う」(内容の取扱い)ようにし,大戦がその後の国際情勢及び我が国に大きな影響を及ぼしたことに気付くことができるようにする。

 民族運動の高まりと国際協調の動きについては,中国や朝鮮における民族運動の高まり,国際連盟の設立や軍縮条約の締結などを扱うようにする。

 我が国の国民の政治的自覚の高まりについては,「大正デモクラシーの時期の政党政治の発達,民主主義的な思想の普及,社会運動の展開を取り扱う」(内容の取扱い)ようにし,本格的な政党内閣による政党政治が展開したこと,普通選挙制が実現したこと,米騒動をはじめ,労働運動,農民運動,社会主義運動などの社会運動が幅広く行われるようになったこと,女性の社会的進出が進んだことに気付くことができるようにする。

 文化の大衆化については,大都市の発達や都市に住む人々の生活様式や意識の変化,新聞・雑誌などの普及やラジオ放送の開始などを扱うようにする。

 
 

(カ) 第二次世界大戦と人類への惨禍

 経済の世界的な混乱と社会問題の発生,昭和初期から第二次世界大戦の終結までの我が国の政治・外交の動き,中国などアジア諸国との関係,欧米諸国の動き,戦時下の国民の生活などを基に,軍部の台頭から戦争までの経過と,大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解すること。

(内容の取扱い)

 (1)のアの(カ)については,国際協調と国際平和の実現に努めることが大切であることに気付かせるようにすること。

 この事項のねらいは,軍部の台頭から戦争までの経過と,大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを,次のような学習を基に理解できるようにすることである。

 学習に際しては,例えば,この中項目(1)のイの(ア)に示された「経済の変化の政治への影響」,「戦争に向かう時期の社会や生活の変化」,「世界の動きと我が国との関連」などに着目して課題(問い)を設定し,二度目の世界大戦が起こった理由やその戦争の影響を世界的な視野で考察できるようにすることなどが考えられる。

 これらの考察の結果を表現する活動などを工夫して,「軍部の台頭から戦争までの経過と,大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解できるようにする」という,この事項のねらいを実現することが大切である。

 経済の世界的な混乱と社会問題の発生については,世界恐慌に対する各国の対策と対立の深刻化,我が国における経済の混乱と社会不安の広がりを扱うようにする。

 昭和初期から第二次世界大戦の終結までの我が国の政治・外交の動き,中国などアジア諸国との関係,欧米諸国の動きについては,我が国の政党政治が行き詰まりをみせ,軍部が台頭して大陸での勢力を拡張したこと,中国との戦争が長期化したこと,国際連盟を脱退した日本がやがてドイツ,イタリアと三国同盟を結び,アメリカ合衆国,イギリス,そして終戦直前に参戦したソビエト連邦などとの大戦になったことを扱うようにする。

 戦時下の国民の生活については,身近な地域の事例を取り上げるなどして,戦時体制下で国民の生活がどう変わったかについて着目するとともに,平和な生活を築くことの大切さに気付くことができるようにする。

 この事項の学習に際しては,世界の動きと我が国との関連に着目して取り扱うようにする。また,我が国が多くの国々,とりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害を与えたこと,各地への空襲,沖縄戦,広島・長崎への原子爆弾の投下など,我が国の国民が大きな戦禍を被ったことなどから,大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解できるようにして「国際協調と国際平和の実現に努めることが大切であること」(内容の取扱い)に気付くことができるようにする。

 
 
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