中央教育審議会答申において,「見方・考え方」が,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方として整理されたことを踏まえると,「数学的な見方・考え方」は,数学の学習において,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考をしていくのかという,物事の特徴や本質を捉える視点や,思考の進め方や方向性を意味することと考えられる。
また,答申において,
「既に身に付けた資質・能力の三つの柱によって支えられた「見方・考え方」が,習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを通じて,資質・能力が更に伸ばされたり,新たな資質・能力が育まれたりし,それによって「見方・考え方」が更に豊かなものになる,という相互の関係にある」
と示されたことを踏まえ,「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の三つの柱である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」の全てに働かせるものと考えられる。
さらに,「数学的な見方・考え方」は,数学の学習の中で働かせるだけではなく,大人になって生活していくに当たっても重要な働きをするものと考えられる。
数学の学びの中で鍛えられた見方・考え方を働かせながら,世の中の様々な物事を理解し思考し,よりよい社会や自らの人生を創り出していくことが期待される。
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「数学的な見方・考え方」のうち,「数学的な見方」は,「事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」であると考えられる。
また,「数学的な考え方」は,「目的に応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,論理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら,統合的・発展的に考えること」であると考えられる。
以上のことから,「数学的な見方・考え方」は,「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考えること」として整理することができる。
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「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力を支え,方向付けるものであり,数学の学習が創造的に行われるために欠かせないものである。
また,生徒一人一人が目的意識をもって問題を発見したり解決したりする際に積極的に働かせていくものである。
そのために,今回の改訂では,統合的・発展的に考えることを重視している。
なお,発展的に考えるとは,数学を既成のものとみなしたり,固定的で確定的なものとみなしたりせず,新たな概念,原理・法則などを創造しようとすることである。
例えば,0と正の数だけでは,0より小さい数量を適切に表現することはできない。
また,0と正の数の範囲で加法はいつでもできるが,減法はいつでもできるとは限らない。
こうした問題を解決するために数の範囲を拡(ひろ)げることが発展的に考えることになる。
また,数の範囲を正の数と負の数にまで拡張することに対応して,四則計算の意味も,関連して広げて考えるようにすることも必要になる。
既習のものと新しく生み出したものとを包括的に扱えるように意味を規定したり,処理の仕方をまとめたりすることが統合的に考えることになる。
数学の学習では,このように創造的な発展を図るとともに,創造したものをより高い,あるいは,より広い観点から統合してみられるようにすることが大切である。
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数学的な見方・考え方を働かせることについては,例えば,関数領域において,「一つの数量を調べようとするとき,それと関係が深い他の数量を見いだし,それらの数量との間に成り立つ関係を明らかにし,その関係を利用する」ことが考えられる。
このような見方・考え方を働かせた活動を通して,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」が育成される。
関数領域において数学的な見方・考え方を働かせる際には,未知の事象を考察するために新しい概念をつくることがあり,「知識及び技能」と関わっている。
また,事象を理想化したり単純化したりするなどして,数量と別の数量との間に既知の関数関係が成り立つと仮定して問題を解決するなど「思考力,判断力,表現力等」が必要となる。
さらに,日常の事象や社会の事象に関心をもち,事象の中に隠れた法則を見いだしたり,日常生活や社会に生かそうとしたりする科学的な態度が必要とされ,「学びに向かう力,人間性等」と深く関わっている。
また,数学的な見方・考え方は,関数領域のみならず,数と式や,図形など他の領域においても広く働かせることができるものである。
このように,「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の育成に関して,数学の様々な領域において広く働かせるものであることに留意する必要がある。
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以上のように,数学的な見方・考え方を働かせた学習活動は,数学的に考える資質・能力を育成する多様な機会を与えるとともに,数学や他教科の学習,日常や社会において問題を論理的に解決していく場面などでも広く生かされるものである。
例えば,広く社会に目を向けると,自然現象のみならず,成分の含有量により年代測定をする考古学,糖分量により癌(がん)を発見する核医学,為替レートで経済状況を予測する経済学など,様々な分野で生かされている。
このように,「数学的な見方・考え方」は,身近な生活のみならず,社会における賢明な意思決定や判断を行っていく上で必要な資質・能力を身に付ける際に有効に働くものである。
素数が活用された暗号化技術がクレジットカードやインターネット通販など日常生活のみならずグローバル社会における情報セキュリティを確保するための基盤となっているなど,初等的な数学的な見方・考え方であってもグローバルな社会において重大な役割を果たしている。
したがって,数学の学習において数学的な見方・考え方を働かせる機会を意図的に設定することが重要であり,数学や他教科の学習を通して,数学的な見方・考え方も更に豊かなものになると考えられる。 |