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 我々は身の回りにある様々なものについて,材質,重さ,色などは除いて,「形」,「大きさ」,「位置関係」という観点から捉え考察することがよくある。

 このような立場でものを捉えたものが図形であり,それについて論理的に考察し表現できるようにすることが中学校数学科における指導の大切なねらいの一つである。

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 中学校数学科の図形指導の意義については,次の二つの面が考えられる。

・ 身の回りの事象を「形」,「大きさ」,「位置関係」という観点から考察することが多く,それには平面図形や空間図形についての基礎的な概念や性質についての理解を深め,それを活用して問題の発見や解決に取り組むことが必要とされること。

・ 図形の性質や関係を直観的に捉え,数学的な推論により論理的に考察し表現する力は,中学校数学科に限らず,いろいろな分野での学習や活動において重要な役割を果たすこと。

 
 
 中学校数学科においては,図形の概念,図形の性質や関係について理解するとともに,図に表現したり,正しく作図したりする技能を身に付けることについて,資質・能力として,主に次のア,イの育成を目指して指導が行われる。

 基本的な図形の概念,図形の性質や関係を理解することについて,具体的には,三角形,四角形,円などの平面図形の性質,図形の移動,合同や相似の概念,空間図形における直線や平面の位置関係及び柱体,錐(すい)体,球などの空間図形の概念とその性質などについて学習する。

 これらの内容は小学校算数科で部分的に扱われているのに対し,中学校では整理された形で系統的に取り扱う。

 図形について学習する際,図形を図に表すことが大切である。

 これには,作図で図形を図に表すことはもちろんのこと,図形の移動や空間図形の構成などの学習で必要となる図をかくことを含め,幅広いものが該当する。

 ここでは,目的に応じて図形を図に表すことに加え,図に表された図形が問題の条件に適するかどうかを振り返り,評価・改善できる力や,そのようにしようとする態度の育成をも重視している。

 例えば,空間図形を図に表すとき,空間図形をそのままの形で平面上に表すことはできないので,空間図形の調べたい特徴に応じて,見取図や展開図及び投影図を選び,適切にかくことが必要になる。

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 このような技能は,アで述べた図形の概念,図形の性質や関係の理解と一体になっているのであるが,他方,図に表したり,作図したりすることを通して図形の概念が一層確実に形成されていくと考えられる。

 したがって,アとイは別個のものではなく,互いに関連付けて学習の効果を高めるようにすることが必要である。

 
 
 論理的に考察し表現する力については,資質・能力として,主に次のア,イの育成を目指して指導が行われる。

 小学校算数科では,図形について主に直観的な取扱いをしており,それを通して,図形を直観的に捉える力はかなり高まってきているといえる。

 中学校数学科では,考察の対象とする図形を広げ,考察の方法についても深めていくことを目指している。

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 図形を直観的に捉えることは,図形の本質的な性質や関係を見抜くことであり,論理的に考察し表現する力に裏打ちされていることが必要であるとともに,論理的に考察し表現する力を先導する働きをすることもある。

 このような力が,中学校数学科における図形学習を通して更に高められるようにする。

 数学的な推論に関して,帰納,類推,演繹(えき)は小学校の時から自然な形で用いられている。

 中学校数学科では,それぞれの必要性と意味について理解できるようにするとともに,必要な場面に応じて適切に用いることができるようにすることがその指導の重要なねらいである。

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 中学校数学科の大きな特徴は,「B図形」の領域において,数学的な推論を図形の性質などの考察で活用することにある。

 それは,図形に関する内容が数学的推論による考察とその過程の表現に適しており,その推論の過程が図で視覚的に捉えやすいことによる。

 さらに,演繹(えき)には,図形の概念や性質が個々ばらばらにではなく,体系的に組み立て整理できるという利点もある。

 特に,中学校は生徒の発達の段階からみても,演繹(えき)の必要性と意味及びその過程に興味・関心をもち,論理的に考察し表現する力も高まっていく時期である。

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 論理的に考察し表現する力を育成するためには,数学的な推論の基礎となる定義の意味及び推論の進め方を理解できるようにする必要がある。

 その際,推論を進めるに当たり何を根拠として用いてよいのか,どのように用いればよいのかなどについて指導することが重要である。

 このことは,演繹(えき)に限ったことではなく,帰納や類推についても同様である。

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 古くから数学における証明の営みは,ある事柄が正しいことを自分が納得し,他人に説得するという役割を担ってきた。

 同様に,論理的に考察し表現する力を育成することにより,自分が納得できるとともに他人に説得できるようになると実感できるようにすることが重要である。

 そのためには,生徒が見いだしたこと,確かめたこと,そして工夫したことなどを,数学的な表現を用いて論理的に説明し伝え合う活動を通して,論理的に考察し表現することのよさを実感できるようにすることが大切である。

 この際,生徒なりの説明に耳を傾け,目的に応じて適切に推論ができているかに指導の力点を置き,その推論の過程を簡潔・明瞭に表現できるように,学年に応じて段階的に指導を計画する必要がある。

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 具体的に,第1学年における作図や空間図形の指導では,単なる操作や作業だけに終始することなく,論理的に考察するとともに,考察したことを筋道立てて説明する機会を設けることが大切である。

 また,第2学年における証明の指導では,必要以上に証明の書き方に拘(こだわ)ることをせず,証明を読むことを通じて証明の根拠の用い方を明らかにしつつ,表現に一定の幅をもたせ,生徒が自分なりに工夫して証明し,よりよいものへと互いに高めていくことが大切である。

 これを踏まえ,第3学年の指導では,証明を書くことを含め,論理的な考察を簡潔・明瞭に表現できるように計画することが大切である。

 
 
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