数学的な推論に関して,帰納,類推,演繹(えき)は小学校の時から自然な形で用いられている。
中学校数学科では,それぞれの必要性と意味について理解できるようにするとともに,必要な場面に応じて適切に用いることができるようにすることがその指導の重要なねらいである。
--------------------------------
中学校数学科の大きな特徴は,「B図形」の領域において,数学的な推論を図形の性質などの考察で活用することにある。
それは,図形に関する内容が数学的推論による考察とその過程の表現に適しており,その推論の過程が図で視覚的に捉えやすいことによる。
さらに,演繹(えき)には,図形の概念や性質が個々ばらばらにではなく,体系的に組み立て整理できるという利点もある。
特に,中学校は生徒の発達の段階からみても,演繹(えき)の必要性と意味及びその過程に興味・関心をもち,論理的に考察し表現する力も高まっていく時期である。
--------------------------------
論理的に考察し表現する力を育成するためには,数学的な推論の基礎となる定義の意味及び推論の進め方を理解できるようにする必要がある。
その際,推論を進めるに当たり何を根拠として用いてよいのか,どのように用いればよいのかなどについて指導することが重要である。
このことは,演繹(えき)に限ったことではなく,帰納や類推についても同様である。
--------------------------------
古くから数学における証明の営みは,ある事柄が正しいことを自分が納得し,他人に説得するという役割を担ってきた。
同様に,論理的に考察し表現する力を育成することにより,自分が納得できるとともに他人に説得できるようになると実感できるようにすることが重要である。
そのためには,生徒が見いだしたこと,確かめたこと,そして工夫したことなどを,数学的な表現を用いて論理的に説明し伝え合う活動を通して,論理的に考察し表現することのよさを実感できるようにすることが大切である。
この際,生徒なりの説明に耳を傾け,目的に応じて適切に推論ができているかに指導の力点を置き,その推論の過程を簡潔・明瞭に表現できるように,学年に応じて段階的に指導を計画する必要がある。
--------------------------------
具体的に,第1学年における作図や空間図形の指導では,単なる操作や作業だけに終始することなく,論理的に考察するとともに,考察したことを筋道立てて説明する機会を設けることが大切である。
また,第2学年における証明の指導では,必要以上に証明の書き方に拘(こだわ)ることをせず,証明を読むことを通じて証明の根拠の用い方を明らかにしつつ,表現に一定の幅をもたせ,生徒が自分なりに工夫して証明し,よりよいものへと互いに高めていくことが大切である。
これを踏まえ,第3学年の指導では,証明を書くことを含め,論理的な考察を簡潔・明瞭に表現できるように計画することが大切である。 |