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(1) データの分布について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

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ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア) ヒストグラムや相対度数などの必要性と意味を理解すること。

(イ) コンピュータなどの情報手段を用いるなどしてデータを表やグラフに整理すること。

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イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 目的に応じてデータを収集して分析し,そのデータの分布の傾向を読み取り,批判的に考察し判断すること。

〔用語・記号〕  範囲 累積度数

 小学校算数科では,統計的な問題解決の方法を知るとともに,棒グラフ,折れ線グラフ,円グラフ及び帯グラフを学習し,度数分布を表やグラフに表したり,データの平均や散らばりを調べるなどの活動を通して,統計的に考察したり表現したりしてきている。

 また,第5学年では測定値の平均について学習し,第6学年では,平均値,中央値,最頻値などの代表値を用いたりドットプロットなどを用いたりして統計的に考察したり表現したりすることを学習している。

 ここで,平均値はデータの個々の値を合計し,データの個数で割った値,中央値はデータを大きさの順に並べたときの中央の値,最頻値はデータの中で最も多く現れている値のことである。

 また,ドットプロットとは数直線上の該当する箇所にデータを配置し,同じ値のデータがある際には積み上げて表したものである。

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 中学校数学科において第1学年では,これらの学習の上に立って,データを収集,整理する場合には,目的に応じた適切で能率的なデータの集め方や,合理的な処理の仕方が重要であることを理解できるようにする。

 さらに,ヒストグラムや相対度数などについて理解し,それらを用いてデータの傾向を捉え説明することを通して,データの傾向を読み取り,批判的に考察し判断することができるようにする。

 
 

 日常生活や社会においては,データに基づいて判断しなければならないことが少なくない。

 目的に応じて収集したデータについては,大きく分けて,人口統計における都道府県名のように質的な特徴に着目した質的データと,過去1か月間の正午の気温のように量的な特徴に着目した量的データとがある。

 いずれのデータについても,適切な判断を下すためには,目的に応じて統計的な表現や処理を行い,それを基にしてデータの傾向を読み取る必要がある。

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 データを整理する方法としては,質的データでは一次元の表や棒グラフ,帯グラフなどがあり,量的データではドットプロットや度数分布表,ヒストグラムなどがある。

 小学校算数科では,第6学年で,ヒストグラムを柱状グラフとして学習しており,中学校第1学年で,その理解を深めていく。

 ヒストグラムを用いることで,量的なデータの分布の様子を捉えることができる。

 データを幾つかの階級に分け,ある階級に属する度数を明らかにすることで,全体の形,左右の広がりの範囲,山の頂上の位置,対称性,極端にかけ離れた値(外れ値)の有無など,直観的に捉えやすくなる。

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 ヒストグラムからデータの分布の傾向を読み取る場合,階級の幅の設定の仕方に注意する必要がある。

 例えば,図1はある中学校の第1学年の生徒100人のハンドボール投げの記録である。

 このデータから,階級の幅を3mに設定したヒストグラムと,2mに設定したヒストグラムを作成すると,それぞれ図2と図3のようになる。

 図2のヒストグラムからは,データの分布の様子は一つの山の形に見えるが,図3では二つの山の形に見える。

 したがって,ヒストグラムから「ハンドボールを何mくらい投げた人が多いのか」を読み取りたい場合,図2と図3のどちらのヒストグラムを基にするかで,生徒の判断は異なる可能性がある。

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 このように,同じデータについても階級の幅が異なるとヒストグラムから読み取ることができる傾向が異なる場合がある。

 したがって,ヒストグラムからデータの傾向を読み取る場合,その目的に応じてデータの分布の傾向を的確に読み取ることができるように,階級の幅の異なる複数のヒストグラムをつくり検討することが必要である。

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 ところで,データの傾向を読み取る場合,度数分布表やヒストグラムだけではなく,目的に応じて代表値などを用いることも大切である。

 小学校算数科では,第6学年で,代表値について学習している。

 代表値には,分布の特徴をある視点に立って一つの数値で表す点に特徴があり,平均値,中央値(メジアン),最頻値(モード)が用いられることが多い。

 一つの数値で表すことで,データの特徴を簡潔に表すことができ,複数の集団のデータを比較することも容易になる。

 しかし,その反面,分布の形や極端にかけ離れた値の有無などの情報は失われてしまうので,データの分布全体を確認した上で代表値を用いるようにすることが大切である。

 また,極端にかけ離れた値があると,平均値は中央値に比べて,その値に強く影響を受けることに留意する必要がある。

 さらに,連続的なデータを取り扱う場合,同じ値をとる測定値はあまり見られないため,小学校第6学年で学習した最頻値が有効でないことがある。

 その際には,ヒストグラム等に整理し,度数が最大の階級の真ん中の値を最頻値として用いるとよい。

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 代表値以外で,データの分布の特徴を一つの数値で表すものとして範囲がある。

 範囲とは,データの最大値と最小値との差であり,データの散らばりの程度を表す値である。

 平均値が等しい二つの集団のデータでも範囲が等しいとは限らない。

 また,範囲は極端にかけ離れた値が一つでもあるときは,その影響を受けるので,取扱いや解釈の仕方には十分注意する必要がある。

 指導においては,中学校第2学年で学ぶ四分位範囲の基礎になることにも留意する。

 
 

 大きさの異なる二つ以上の集団のデータの傾向を比較する場合,度数分布表の各階級の度数で単純に比べることはできない。

 このような場合,相対度数を用いると,各階級の度数について,総度数に対する割合が明らかになるので,大きさの異なる集団の階級ごとの比較がしやすくなる。

 相対度数は,全体(総度数)に対する部分(各階級の度数)の割合を示す値で,各階級の頻度とみなされる。

 このことは,確率の学習の基礎になることにも留意して指導することが大切である。 

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 また,特定の階級の度数に着目するだけではなく,小さい方からある階級までの度数の総和を見ることも大切である。

 例えば,ある病院の患者一人一人の待ち時間についてのデータを整理した度数分布表(表1)から,待ち時間がどれくらいかを知りたい場合,「何分間未満の人数が多い」という観点から調べていくことが考えられる。

 その際,最小の階級から各階級までの度数の総和を表した,累積度数を用いるとよい。

 同様に,各階級までの相対度数の総和を求めると累積相対度数が得られ,ある階級以下(以上)の全体に対する割合を知ることができる。

 

 
 

 目的に応じてデータを収集し,ヒストグラムや相対度数などを用いて,そのデータの分布の傾向を読み取り,批判的に考察し判断することができるようにする。

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 指導に当たっては,日常生活を題材とした問題などを取り上げ,それを解決するために計画を立て,必要なデータを収集し,コンピュータなどを利用してヒストグラムなどを作成したり相対度数などを求めたりしてデータの傾向を捉え,その結果を基に批判的に考察し判断するという一連の活動を経験できるようにすることが重要である。

 例えば,クラス対抗の大縄跳び大会で,あるクラスの選手が1列に並んで跳ぶのと,2列に並んで跳ぶのとでは,どちらがより多くの回数を連続で跳ぶと見込めるかについて考察することを考える。

 この過程で,2種類の並び方で跳んだ回数の記録を用いて度数分布表やヒストグラムを作成したり,相対度数などを求めたりして分布の状況などを調べることが考えられる。

 このことを基にして,「どちらの並び方の方が多く跳べているといえるのか」について批判的に考察し判断する。

 ここで,批判的に考察することとは,物事を単に否定することではなく,多面的に吟味し,よりよい解決や結論を見いだすことである。

 具体的には,データに基づいて問題を解決する過程において,データの収集の仕方は適切か,どの代表値が根拠としてふさわしいか,分布の形に着目しているか,傾向を読み取りやすいグラフで表せているか,グラフの目盛りなどを加工して過度に誇張していないか,分析した結果から得られる結論が妥当かなどについて検討することである。

 このような検討の過程において,よりよい解決や結論を見いだそうとする態度を養うことが大切である。

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 なお,小学校算数科では,第5,6学年で,データに基づいて判断する統計的な問題解決の方法を知り,その方法を用いて考察することを学習している。

 ここで,統計的な問題解決とは,次のような過程を含む一連のサイクルを意味する。

・ 身の回りの事象について,興味・関心や問題意識に基づき統計的に解決可能な問題を設定する。

・ どのようなデータを,どのように集めるかについて計画を立てる。

・ データを集めて分類整理する。

・ 目的に応じて,観点を決めてグラフや表や図などに表し,特徴や傾向をつかむ。

・ 問題に対する結論をまとめるとともに,さらなる問題を見いだす。

 
 

 ヒストグラムや相対度数などの必要性と意味を理解することの指導においては,手作業でこれらを作成したり求めたりすることが重要な意味をもつことに留意する。

 一方で,手作業でデータを処理することが難しい場合もある。

 例えば,大量のデータを整理する場合や大きな数,端数のある数を扱う場合,あるデータから多様なヒストグラムをつくる場合などである。

 このような場合には,コンピュータなどを利用して作業の効率化を図ることが大切である。

 それにより,処理した結果を基にデータの傾向を読み取ったり考察し判断したりすることに重点を置いて指導できるようにする。

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 また,情報通信ネットワーク等を活用してデータを収集する場合は,二次的なデータが多くなると考えられるので,誰がどのようにして調べた結果であるのかなど,その信頼性についても批判的に考察する必要がある。

 
 
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