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(2) 図形の合同について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

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ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア) 平面図形の合同の意味及び三角形の合同条件について理解すること。

(イ) 証明の必要性と意味及びその方法について理解すること。

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イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 三角形の合同条件などを基にして三角形や平行四辺形の基本的な性質を論理的に確かめたり,証明を読んで新たな性質を見いだしたりすること。

(イ) 三角形や平行四辺形の基本的な性質などを具体的な場面で活用すること。

〔用語・記号〕

  定義 証明 逆 反例 ≡

[内容の取扱い]

(1) 内容の「B図形」の(2)のイの(ア)に関連して,正方形,ひし形及び長方形が平行四辺形の特別な形であることを取り扱うものとする。

 (1)では,平面図形の角に関する性質を,平行線の性質を使って導き,根拠を基にして筋道立てて考え説明することを経験した。

 ここでは,更に三角形の合同条件を使って,図形の性質を演繹(えき)的に確かめ,論理的に考察し表現する力を養うことをねらいとしている。

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 小学校算数科において,第3学年では二等辺三角形の性質について,また,第4学年では平行四辺形の性質について,それぞれ図形の角や辺に着目し,実験,実測,観察などによって調べてきている。

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 中学校第2学年では,数学的に推論することによって,図形の性質を調べることができるようにする。

 さらに,調べる過程やその結果について説明し伝え合う活動を通して,適切に表現できるようにする。

 
 

 二つの図形は,次のそれぞれの場合に合同である。

@ 一方の図形を移動して他方の図形に重ねることができる。

A 二つの図形の対応する線分と対応する角がすべて等しい。

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 @は,第1学年で学習した図形の移動という操作に基づいて,図形の合同を動的に定義するものである。

 一方,Aは線分で囲まれた図形の合同の静的な定義である。

 第2学年ではこれらの定義によって,合同な図形の性質と三角形の合同条件などを基に,図形の性質を演繹(えき)的に確かめ,論理的に考察し表現する力を養うことをねらいとしている。

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 ここでは,三角形の合同条件も平行線の性質と同様に演繹(えき)的に導くものとせず,三角形の決定条件を基に,直観的,実験的に認める。

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 二つの三角形は,次のそれぞれの場合に合同となる。

・ 対応する3組の辺がそれぞれ等しい

・ 対応する2組の辺がそれぞれ等しく,その間の角が等しい

・ 対応する1組の辺が等しく,その両端の角がそれぞれ等しい

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 二つの三角形では対応する3組の辺と対応する3組の角があり,これら6組のうち,対応する3組の辺,対応する2組の辺とその間の角,対応する1組の辺とその両端の角のいずれかについて等しいかどうかを調べれば,二つの三角形が合同であるかどうかを判定することができることを理解できるようにすることが大切である。

 そして,これらを証明の根拠として用いることが重要である。

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 三角形の合同条件は,角を移す作図,角を二等分する作図などの正しいことの証明にも使われるが,三角形の合同条件を適用する範囲は極めて広い。

 その適用の度合いには,1組の図形が合同であることを示すものから,補助線をひくなどして,複数の図形の組が合同であることの証明を重ねて結論を導く問題に適用するものまで,その程度の差は大きい。

 したがって,指導に当たっては,生徒の理解の程度や発達の段階に応じた適切な取扱いが必要である。

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 なお,二つの三角形が直角三角形である場合には,次の条件を用いて二つの三角形が合同であることを示すこともできる。

・ 斜辺と一つの鋭角がそれぞれ等しい

・ 斜辺と他の1辺がそれぞれ等しい

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 直角三角形の合同条件は,三角形の内角の和が180゚であること,二等辺三角形の底角は等しいこと,そして三角形の合同条件から演繹(えき)的に導くことができる。

 
 

 数学的な推論の必要性と意味及びその方法を理解し,これを用いる学習は,図形の領域だけで行われるものではなく,他の領域でも必要に応じて行われるものである。

 しかしながら,特に図形の領域では,具体的な図形を通して推論の過程等を視覚的に捉えやすいことなどから,この領域が,数学的な推論の必要性と意味を理解し,その適用場面を設定するのに適している。

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 数学的な推論には,帰納,類推,演繹(えき)の三つの方法がある。

 帰納と類推は,小学校算数科でも多くの場面で用いられてきている。

 これらは,幾つかの場合についての観察や操作,実験などの活動を通して,それらを含んだより一般的な結果を導き出す際に用いられる。

 また,演繹(えき)も小学校算数科において用いられている。

 帰納や類推は,新たな事柄を発見するために大切である。

 演繹(えき)は,その発見された事柄が常に成り立つことを説明するために大切である。

 こうした三つの推論の役割を理解し,必要な場面に応じてそれらの推論の方法を適切に選択して活用できるようにする必要がある。

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 帰納や類推は,個々の具体的な図形を調べたり処理したりして,それに基づき図形の性質や関係を推測する際に大切な働きをする。

 しかし,その推測が常に成り立つことは演繹(えき)によって示される必要がある。

 また,推測は常に成り立つとは限らないので,その場合には反例を用いるなどして推測が常に成り立つとは限らないことを示したり,推測を修正したりする学習に取り組む機会を設けることに配慮する。

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 演繹(えき)的に推論するためには,証明の根拠を明確にしておかなければならない。

 「B 図形」の領域で証明の根拠としては,対頂角の性質,平行線の性質,三角形の合同条件などがあり,それらを基にして演繹(えき)的に推論し,図形の性質などについて論理的に考察し表現する学習が中学校第2学年から本格的に始められる。

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 ただし,論理的に考察し表現していくことは,第2学年になって初めて学習するものではない。

 既に第1学年において,平面図形の作図の場面や空間図形の構成等の場面でも,それまでに学習してきた事柄に基づいて筋道立てて説明してきている。

 つまり,第1学年においても部分的,局所的には演繹(えき)的に推論することを経験している。

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 第2学年においては,数学的な推論の過程を簡潔・明瞭に表現する力を養うことが指導の大切なねらいである。

 しかし,これは一挙に達成できるものではない。そこで,はじめは,根拠を明らかにして説明し伝え合う活動を通して,数学的な推論の過程を他者に分かりやすく表現することを大切にする。

 
 

 命題は「仮定」と「結論」からなる。

 そこで,数学的な推論を行う前に命題の「仮定」と「結論」をはっきりさせる。

 その上で,常に成り立つことが認められている事柄を証明の根拠にして,「仮定」から「結論」を導くこと,それが証明である。

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 証明の必要性を理解するためには,観察や操作,実験などの活動によって帰納的に導かれたものと演繹(えき)的に導かれたものとの違いを理解することも大切である。

 幾つかの図形から帰納的に見いだした事柄が成り立つかどうかを同じ条件を満たす他の図形で調べることで,その事柄の妥当性を高めることができる。

 しかし,同じ条件を満たす全ての図形についてその事柄が成り立つかどうかを調べつくすことはできない。

 そこで,演繹(えき)的な推論による証明が必要であることを理解できるようにする。

 その際,

 「証明は,
  命題が常に成り立つことを
  明らかにする方法であること」や,

 「証明をするためにかかれた図は,
  全ての代表として示されている図
  であること」

 を理解できるようにする。

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 また,証明では,証明の根拠を明らかにすることが必要である。

 証明の根拠には,前述したように,対頂角の性質,平行線についての性質と条件,合同な図形についての性質と三角形の合同条件などがある。

 第3学年になると,これらの事柄に相似な図形についての性質と三角形の相似条件などが加わる。

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 証明をする際には,証明の方針を立てることが大切である。

 証明の方針を立てるには,例えば,結論を導くために必要な事柄を結論から逆向きに考えたり,仮定や仮定から導かれる事柄を明らかにしたりする。

 その上で,それらを結び付けるには,あと何がいえればよいかと探ることが必要である。

 このような活動は,いつもその順に進むわけではなく,試行錯誤をしながら方針は次第に明確になっていくものである。

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 証明の方法について理解するためには,証明の方針を立て,それに基づいて証明をすることが大切である。

 その際,「したがって」,「よって」などの言葉や用語,記号を適切に用いて自分なりに表現することから始め,よりよい証明に改善していくとよい。

 具体的には,何をどこに補えばよいか,それはなぜか,どのような順番で整理すると分かりやすくなるかなどの観点で証明を読み,よりよいものにしていくことが大切である。

 さらに,図形のある性質について,推論の過程が異なる二つの証明を読んでその相違点を見つけたり,推論の過程に誤りのある証明を読んでそれを指摘し改めたりするなど,証明を評価・改善する活動を適宜取り入れることも考えられる。

 なお,証明を書くことについては,必要以上に証明の書き方に拘(こだわ)ることをせず,第3学年までを見通し,次第に簡潔・明瞭なものとなるように,段階的に指導していくように配慮する。

 
 

 命題には常に成り立つ場合と,常に成り立つとは限らない場合がある。

 常に成り立つことを示すには,命題を証明すればよい。

 これに対し,命題が常に成り立つとは限らないことを示すには,反例を一つあげればよい。

 反例は,命題の仮定を満たしているが,結論を満たしていない例である。

 証明の指導においては,命題が常に成り立つことを示すばかりでなく,常に成り立つとは限らないことも示すことができるようにすることが必要である。

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 例えば,
 命題
 「四角形の一組の対辺が平行で,
 もう一組の対辺の長さが等しいならば,
 その四角形は平行四辺形である」
 が常に成り立つかどうかについて,

 図の四角形ABED のように,
 命題の仮定
 「四角形の一組の対辺が平行で,
  もう一組の対辺の長さが等しい」
 を満たしていても,
 その四角形が必ずしも
 平行四辺形になるとは限らないことを,
 反例となる図形を作図して
 確かめることができる。

 このようにして,命題が常に成り立つとは限らないことを示す際に,反例を一つあげればよいことを理解できるようにする。

 また,命題の「仮定」と「結論」を入れかえると,もとの命題の逆の命題ができる。

 もとの命題が常に成り立っていても,その逆の命題が常に成り立つとは限らないことを確かめ,理解できるようにする。

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 なお,「A数と式」の領域などにおいても,幾つかの場合から推測した事柄が常に成り立つとは限らない場合,反例を用いる必要があるので,場面に応じて適宜指導することが大切である。

 
 

 ここでは,既に学習した平行線の性質,三角形の合同条件などを基にして,演繹(えき)的に推論することによって三角形や平行四辺形の基本的な性質や条件について考察し,図形についての理解を深めるとともに,論理的に確かめ表現する力を養うことが大切なねらいである。

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 三角形や平行四辺形について次のような図形の基本的な性質や条件などを扱う。

・ 二等辺三角形の性質

・ 直角三角形の合同条件

・ 平行四辺形の性質

・ 平行四辺形になるための条件

・ 正方形,長方形,ひし形の性質

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 「二等辺三角形の性質」,「平行四辺形の性質」などは既に小学校算数科で学んでいるので,ともすると「分かりきっているのにどうして証明するのか」という疑問を生徒が抱きがちである。

 そこで,これらの性質を論理的に確かめることを通して,同じ条件を満たす全ての図形について,既習の性質などが常に成り立つことを明らかにするために証明が必要であることなど証明の必要性や意味及びその方法について理解できるようにすることが大切である。

 
 

 三角形や平行四辺形の性質の証明の学習においては,証明を書くこととともに,証明を読むことも大切である。

 証明を読むことは,証明を評価・改善したり,証明をもとに発展的に考えたりする際に必要である。

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 例えば,
 「二つの線分AB,CD が点Oで交わり,
  AO=BO,CO=DO ならば,
  △AOC≡△BOD である。」
 の証明から,
 △AOC≡△BOD を示すために,
 「AO=BO,CO=DO,
  ∠AOC=∠BOD」
 を用いていることが読み取れる。

 三角形の合同条件は,
 三角形の対応する辺や角の
 六つの関係のうち,
 三つの関係で合同を示す
 ものであるから,

 △AOC≡△BOD を導く際に
 用いられていない三つの関係
 「AC=BD,
  ∠ACO=∠BDO,
  ∠CAO=∠DBO」を
 合同な図形の性質に基づいて
 新たに見いだすことができる。

 さらに,
 新たに見いだした
 ∠CAO=∠DBO から,
 AC//BD や
 四角形ACBD が平行四辺形であること
 を見いだすこともできる。

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 指導に当たっては,証明に用いた前提や証明の根拠,結論を整理するなどして証明を振り返り,新たな性質を見いだす活動を取り入れることが大切である。

 このように,証明を読むことを通して,論理的に考察し表現する力を養うようにする。

 証明を読んで新たな性質を見いだすことは,「B図形」の領域だけでなく,「A数と式」の領域において,文字を用いた式で数量の関係を捉え説明する際など,他の場面においても必要である。

 
 

 日常の事象における問題発見・解決では,形や大きさ,位置関係に着目して観察し,事象を図形の問題として捉え,図形の性質などを用いて解決することができる場合がある。

 例えば,スライド式の道具箱の上の段を動かしたときの様子を観察して,「どのようにアームを取り付ければ上の段と下の段が平行に動くようになるのか」という問題を見いだし,【アームの取り付け方】について考察することが考えられる。

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【アームの取り付け方】

1 同じアームを2本用意し,図1のように上の段に点A,下の段に点Bをとり,そこに1本のアームを取り付ける。

2 図2のように,BCが底面と平行になるように下の段に点Cをとり,そこにもう1本のアームを取り付ける。

3 図3のように,点Aを中心としBCの長さと等しい半径の円をかく。

 そして点Cを中心としてアームを回転させ,円と重なった点Dにこのアームを取り付ける。

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 このようにアームを取り付ける場面から,「道具箱の上の段と下の段が平行に動くのはなぜか」という日常の事象から問題を見いだすことができる。

 その際,事象を理想化したり単純化したりすることによって2本のアームと留め金を線分や点として捉え,その線分でできた四角形に着目し,

 「四角形の2組の対辺の長さを等しくすると,対辺がそれぞれ平行になるのはどうしてだろうか」

 という疑問から

 「四角形ABCD において,
  AB=CD,BC=AD ならば,
  AB//DC,BC//AD
  は成り立つだろうか」

 という問題を設定することができる。

 この問題について,平行四辺形になるための条件を用いて解決し,その解決を道具箱の場面に戻して,道具箱の上の段と下の段が常に平行に動く仕組みとして意味付けることができる。

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 こうした活動を通して,事象における図形に着目して数学的に表現した問題を見いだす力,解決過程を振り返り,得られた結果を意味付けたり,活用したりする力を養うことが大切である。

 
 

 「平行四辺形の性質」に関して,内容の取扱い(1)には,「正方形,ひし形,長方形が平行四辺形の特別な形であることを取り扱うものとする」とある。

 小学校算数科では,正方形,ひし形,長方形,平行四辺形について考察し,それぞれの性質を見いだすとともに,その性質を基に既習の図形を捉え直すことを学んでいる。

 これを踏まえ,中学校数学科では,正方形,ひし形,長方形,平行四辺形の定義に基づき,「平行四辺形になるための条件」などを手掛かりとして,正方形,ひし形,長方形,平行四辺形の間の関係を論理的に考察し,整理できるようにする。

 例えば,右のような図を用いて整理したり,平行四辺形で成り立つ性質は,その特別な形である長方形や正方形などでも成り立つことを確かめたりすることが考えられる。

 
 
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