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(1) 標本調査について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

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ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア) 標本調査の必要性と意味を理解すること。

(イ) コンピュータなどの情報手段を用いるなどして無作為に標本を取り出し,整理すること。

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イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現すること。

(イ) 簡単な場合について標本調査を行い,母集団の傾向を推定し判断すること。

〔用語・記号〕  全数調査

 中学校数学科において第1学年では,目的に応じてデータを収集して整理し,ヒストグラムや相対度数などを用いてデータの傾向を読み取ることを学習している。

 また,多数回の試行によってデータを集めることにより,不確定な事象の起こりやすさに一定の傾向があることを調べる活動を通して,確率について学習している。

 第2学年では,四分位範囲や箱ひげ図を学習し,複数の集団のデータの分布に着目し,その傾向を比較して読み取り批判的に考察して判断する力を養っている。

 また,同様に確からしいことを利用することで数学的に確率を求めることができる場合があることを学習している。

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 第3学年では,これらの学習の上に立って,母集団の一部分を標本として抽出する方法や,標本の傾向を調べることで,母集団の傾向が読み取れることを理解できるようにするとともに,標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現したり,母集団の傾向を推定し判断したりできるようにする。

 
 

 第1学年においては,全てのデータがそろえられることを前提に,ヒストグラムや相対度数などを用いてデータの分布の傾向を読み取ることを学習している。

 しかし,日常生活や社会においては,様々な理由から,全てのデータを収集できない場合がある。

 例えば,社会の動向を調査する世論調査のために全ての成人から回答を得ることは,時間的,経済的に考えて現実的ではない。

 また,食品の安全性をチェックするために,製造した商品を全て開封して調べることはしない。

 このような場合,一部のデータを基にして,全体についてどのようなことがどの程度まで分かるのかを考えることが必要になる。

 このようにして生み出されたのが標本調査である。

 国勢調査や進路希望調査などの全数調査と比較するなどして,標本調査の必要性と意味の理解を深めるようにする。

 
 

 日常生活や社会では,母集団から標本を抽出する方法には様々なものがあり,その目的,費用,精度などから選択,実施されている。

 その中で,標本が母集団の特徴を的確に反映するように偏りなく抽出するための代表的な方法として,無作為抽出を学習する。

 無作為に標本を抽出することにより,母集団における個々の要素が取り出される確率が等しくなると考えられる。

 確率の学習を前提として,乱数を利用することにより無作為抽出が可能になることを,経験的に理解できるようにする。

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 例えば,ある英和辞典に掲載されている見出しの単語の総数を標本調査で推定することを考える。

 この英和辞典が 980ページであるとすると,乱数さいやコンピュータなどを利用して,001 から 980 までの乱数を発生させ,ある程度の数のページを無作為に抽出する。

 そして,抽出したそれぞれのページに掲載されている単語の数を調べ,その平均値から,この英和辞典に掲載されている見出しの単語の総数を推定する。

 英和辞典に見出しの単語の総数が示されるなどしてあれば,その数と推定した見出しの単語の総数とを比較することができる。

 最初の10ページを抽出するというように無作為抽出をしない場合と比較したりして,無作為抽出についての理解を深める。

 このような経験を基にして,無作為に抽出された標本から母集団の傾向を推定すれば,その結果が大きく外れることが少ないことを実感できるようにする。

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 また,無作為抽出で取り出すページ数を変えて何回か標本調査をしてその結果を比較することで,標本の大きさが大きい方が母集団の傾向を推定しやすくなることを,経験的に理解できるようにすることが大切である。

 例えば,取り出すページ数を10,20,30,…と変えて,それぞれについて見出しの単語の総数を何回か推定し,その推定した値をデータとする。

 そのようにして得られたデータの分布のばらつきを箱ひげ図などを用いて表し,標本の大きさが大きい方がその範囲や四分位範囲が小さくなる傾向があることを理解できるようにすることが考えられる。

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 なお,大量のデータを整理したり,大きな数値,端数のある数値を扱ったりする場合や,無作為抽出に必要な乱数を簡単に数多く得たい場合には,コンピュータなどを利用することが効果的である。

 
 

 実際に行った標本調査だけではなく,新聞やインターネットなどから得られた標本調査の方法や結果についても,批判的に考察し表現できるようにすることが大切である。

 例えば,日常生活や社会の中で行われた標本調査の事例を取り上げ,標本調査の結果をどのように解釈すればよいのかを考察する場面を設けることが考えられる。

 その際,母集団としてどのような集団を想定しているのか,その母集団からどのように標本を抽出しているのか,抽出した標本のうちどのくらいの人が回答しているのか,などを観点として話し合うことが大切である。

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 また,実際の調査においては,無作為抽出以外の標本の抽出方法が用いられることもあること,そのときには標本がどのような集団を代表しているのかを検討することも考えられる。

 このような活動を通して,統計的な情報を的確に活用できるようにすることが大切である。

 
 

 簡単な場合について,標本調査から母集団の傾向を推定し判断したことを説明できるようにする。

 指導に当たっては,日常生活や社会に関わる問題を取り上げ,それを解決するために母集団を決めて,そこから標本を無作為に抽出して整理し,その結果を基に母集団の傾向を推定し説明するという一連の活動を経験できるようにすることが重要である。

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 標本調査では,母集団についての確定的な判断は困難である。

 社会で実際に標本調査を利用する場合には,この点を補完するため,予測や判断に誤りが生じる可能性を定量的に評価するのが一般的である。

 しかし,ここでは標本調査の学習の初期の段階であることに留意し,実験などの活動を通して,標本調査では予測や判断に誤りが生じる可能性があることを経験的に理解できるようにする。

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 生徒が導いた予測や判断については,生徒が何を根拠にしてそのことを説明したのかを重視し,調査の方法や結論が適切であるかどうかについて,説明し伝え合う活動などを通して相互に理解を図るようにする。

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 例えば,「自分の中学校の3年生の全生徒200人の,一日の睡眠時間は何時間くらいだろうか」について調べる場合,次のような活動が考えられる。

@ 「一日の睡眠時間」の意味を明らかにして(昨日の睡眠時間か,過去1週間の平均睡眠時間かなど)質問紙を作成する。

A 標本となる生徒を抽出し,調査を実施する。

B 調査の結果を整理する。

C 調査結果を基にして,全生徒の睡眠時間を予測して説明する。

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 この場合,Cで説明することには,予測だけでなく,@からBのような標本調査に基づいて母集団の傾向を捉える過程が含まれている。

 また,これらを基に,標本の抽出の仕方や予測の適切さについて検討する。

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 このように,標本調査を行い,母集団の傾向を推定し説明することを通して,生徒が標本調査の結果や,それに基づく説明を正しく解釈できるようにする。

 例えば,調査する標本が偏っていないか,アンケート調査の質問が誘導的でないか,アンケートの実施方法が適切かどうかなどにも目を向けられるようにする。

 
 
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