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 学習指導要領の「第3指導計画の作成と内容の取扱い」では,今回の改訂においてはその趣旨に鑑み,「指導計画作成上の配慮事項」,「第2で示した内容の取扱いについての配慮事項」,「数学的活動の取組における配慮事項」及び「課題学習とその位置付け」の四つの事項で構成することとした。以下,これらの趣旨について簡単な説明を加えることとする。

(1) 単元など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成に向けて,数学的活動を通して,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。

 その際,数学的な見方・考え方を働かせながら,日常の事象や社会の事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決し,学習の過程を振り返り,概念を形成するなどの学習の充実を図ること。

 この事項は,数学科の指導計画の作成に当たり,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を目指した授業改善を進めることとし,数学科の特質に応じて,効果的な学習が展開できるように配慮すべき内容を示したものである。

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 数学科の指導に当たっては,(1)「知識及び技能」が習得されること,(2)「思考力,判断力,表現力等」が育成されること,(3)「学びに向かう力,人間性等」を涵(かん)養することが偏りなく実現されるよう,単元など内容や時間のまとまりを見通しながら,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うことが重要である。

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 生徒に数学科の指導を通して「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」の育成を目指す授業改善を行うことはこれまでも多くの実践が重ねられてきている。

 そのような着実に取り組まれてきた実践を否定し,全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉えるのではなく,生徒や学校の実態,指導の内容に応じ,「主体的な学び」,「対話的な学び」,「深い学び」の視点から授業改善を図ることが重要である。

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 主体的・対話的で深い学びは,
 必ずしも1単位時間の授業の中で
 全てが実現されるものではない。

 

 単元など内容や時間のまとまりの中で,
 例えば,

 主体的に学習に取り組めるよう
 学習の見通しを立てたり
 学習したことを振り返ったりして
 自身の学びや変容を自覚できる場面
 をどこに設定するか,

 対話によって
 自分の考えなどを
 広げたり深めたりする場面
 をどこに設定するか,

 学びの深まりをつくりだすために,
 生徒が考える場面と
 教師が教える場面
 をどのように組み立てるか,

 といった視点で
 授業改善を進めることが求められる。

 

 また,生徒や学校の実態に応じ,多様な学習活動を組み合わせて授業を組み立てていくことが重要であり,単元などのまとまりを見通した学習を行うに当たり基礎となる知識及び技能の習得に課題が見られる場合には,それを身に付けるために,生徒の主体性を引き出すなどの工夫を重ね,確実な習得を図ることが必要である。

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 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進めるに当たり,特に「深い学び」の視点に関して,各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。

 各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」を,習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげることが重要である。

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 数学科では,数学的な見方・考え方を働かせながら,事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決し,学習の過程を振り返り,概念を形成するなどの学習が充実されるようにすることが大切である。

 これは,目的意識をもって生徒が取り組む営みというこれまで重視してきた数学的活動を学習指導においてより明確に反映させ,学習活動の質を向上させることを意図している。

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 授業の改善に当たっては,生徒自らが,問題の解決に向けて見通しをもち,粘り強く取り組み,問題解決の過程を振り返り,よりよく解決したり,新たな問いを見いだしたりするなどの「主体的な学び」を実現することが求められる。

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 また,事象を数学的な表現を用いて論理的に説明したり,よりよい考えや事柄の本質について話し合い,よりよい考えに高めたり事柄の本質を明らかにしたりするなどの「対話的な学び」を実現することが求められる。

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 さらに,数学に関わる事象や,日常生活や社会に関わる事象について,数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,新しい概念を形成したり,よりよい方法を見いだしたりするなど,新たな知識・技能を身に付けてそれらを統合し,思考,態度が変容する「深い学び」を実現することが求められる。

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 このような活動を通して生徒の「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」が実現できているかどうかについて確認しつつ一層の充実を求めて進めることが重要であり,育成を目指す資質・能力及びその評価の観点との関係も十分に踏まえた上で指導計画等を作成することが必要である。

 
 

(2) 第2の各学年の目標の達成に支障のない範囲内で,当該学年の内容の一部を軽く取り扱い,それを後の学年で指導することができるものとすること。

 また,学年の目標を逸脱しない範囲内で,後の学年の内容の一部を加えて指導することもできるものとすること。

 中学校数学科の指導に当たっては,生徒の実態に応じて適切な指導計画を作成することが必要であり,指導計画作成に当たっては,教師の創意工夫をより一層生かすためにも,弾力的な取扱いができるようにすることが重要である。

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 そのため,この項目では,各学年の目標の実現に支障のない範囲内で,各学年で取り扱う内容の一部について,学年にまたがって指導順序を変更したり,前の学年の復習を取り入れたり,後の学年の内容の一部を加えたりすることもできるものとして,弾力的な指導が行えるようにしている。

 
 

(3) 生徒の学習を確実なものにするために,新たな内容を指導する際には,既に指導した関連する内容を意図的に再度取り上げ,学び直しの機会を設定することに配慮すること。

 学習指導要領においては,一度示した内容を再度示すことは原則としてしていない。

 しかし,実際の指導においては,ある内容を取り上げる際にそれまでに指導した内容を意図的に取り上げることが,生徒の理解を広げたり深めたりするために有効な場合がある。

 例えば,第2学年において一次関数の変化の割合について指導する際に,第1学年で指導した反比例を再度取り上げ,その変化の様子やグラフの形状についての理解をより確かなものにするとともに,変化の割合が一定でない関数が存在することを理解できるようにすることが考えられる。

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 このように,学び直しの機会を設定することは,単に復習の機会を増やすことだけを意味するものではないことに注意し,適切に位置付けることが必要である。

 
 

(4) 障害のある生徒などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。

 障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの構築を目指し,生徒の自立と社会参加を一層推進していくためには,通常の学級,通級による指導,特別支援学級,特別支援学校において,生徒の十分な学びを確保し,一人一人の生徒の障害の状態や発達の段階に応じた指導や支援を一層充実させていく必要がある。

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 通常の学級においても,発達障害を含む障害のある生徒が在籍している可能性があることを前提に,全ての教科等において,一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かな指導や支援ができるよう,障害種別の指導の工夫のみならず,各教科等の学びの過程において考えられる困難さに対する指導の工夫の意図,手立てを明確にすることが重要である。

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 これを踏まえ,今回の改訂では,障害のある生徒などの指導に当たっては,個々の生徒によって,見えにくさ,聞こえにくさ,道具の操作の困難さ,移動上の制約,健康面や安全面での制約,発音のしにくさ,心理的な不安定,人間関係形成の困難さ,読み書きや計算等の困難さ,注意の集中を持続することが苦手であることなどを,学習活動を行う場合に生じる困難さが異なることに留意し,個々の生徒の困難さに応じた指導内容や指導方法を工夫することを,各教科等において示している。

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 その際,数学科の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,生徒の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。

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 例えば,数学科における配慮として,次のようなものが考えられる。

・ 文章を読み取り,数量の関係を文字式を用いて表すことが難しい場合,生徒が数量の関係をイメージできるように,生徒の経験に基づいた場面や興味のある題材を取り上げ,解決に必要な情報に注目できるよう印を付けさせたり,場面を図式化したりすることなどの工夫を行う。

・ 空間図形のもつ性質を理解することが難しい場合,空間における直線や平面の位置関係をイメージできるように,立体模型で特徴のある部分を触らせるなどしながら,言葉でその特徴を説明したり,見取図や投影図と見比べて位置関係を把握したりするなどの工夫を行う。

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 なお,学校においては,こうした点を踏まえ,個別の指導計画を作成し,必要な配慮を記載し,他教科等の担任と共有したり,翌年度の担任等に引き継いだりすることが必要である。

 
 

(5) 第1章総則の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき,道徳科などとの関連を考慮しながら,第3章特別の教科道徳の第2に示す内容について,数学科の特質に応じて適切な指導をすること。

 数学科の指導においては,その特質に応じて,道徳について適切に指導する必要があることを示すものである。

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 第1章総則第1の2(2)においては,「学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,生徒の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと」と規定されている。

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 数学科における道徳教育の指導においては,学習活動や学習態度への配慮,教師の態度や行動による感化とともに,以下に示すような数学科と道徳教育との関連を明確に意識しながら,適切な指導を行う必要がある。

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 数学科の目標にある「数学を活用して事象を論理的に考察する力」,「数量や図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力」,「数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力」を高めることは,道徳的判断力の育成にも資するものである。

 また,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感して粘り強く考え,数学を生活や学習に生かそうとする態度を養うことは,工夫して生活や学習をしようとする態度を養うことにも資するものである。

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 次に,道徳教育の要としての特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)の指導との関連を考慮する必要がある。

 数学科で扱った内容や教材の中で適切なものを,道徳科に活用することが効果的な場合もある。

 また,道徳科で取り上げたことに関係のある内容や教材を数学科で扱う場合には,道徳科における指導の成果を生かすように工夫することも考えられる。

 そのためにも,数学科の年間指導計画の作成などに際して,道徳教育の全体計画との関連,指導の内容及び時期等に配慮し,両者が相互に効果を高め合うようにすることが大切である。

 
 
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