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(1) 思考力,判断力,表現力等を育成するため,各学年の内容の指導に当たっては,数学的な表現を用いて簡潔・明瞭・的確に表現したり,互いに自分の考えを表現し伝え合ったりするなどの機会を設けること。

 中学校数学科においては,生徒が既習の数学を活用して考えたり判断したりすることをよりよく行うことができるよう,言葉や数,式,図,表,グラフなどの数学的な表現を用いて,論理的に考察し表現したり,その過程を振り返って考えを深めたりする学習活動を充実させる。

 その際,数学的な表現を適切に用いることができるよう,具体的な事象を数学的に表現したり,処理したりする技能を高める学習活動の充実を図ることが考えられる。

 また,数学的な推論を的確に進めることができるよう,思考の過程や判断の根拠などを数学的な表現を用いて簡潔・明瞭・的確に表現して説明したり,数学的に表現されたものについて話し合って解釈したりする学習活動の充実を図ることも考えられる。

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 このように問題解決の結果や過程,見いだした数や図形の性質などについて説明し伝え合う機会を設け,お互いの考えをよりよいものに改めたり,一人では気付くことのできなかったことを見いだしたりする機会を設けることに配慮する。

 こうした学習を通して,数学的に表現したり,それを解釈したりすることのよさを実感できるようすることに配慮する。

 
 

(2) 各領域の指導に当たっては,必要に応じ,そろばんや電卓,コンピュータ,情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用し,学習の効果を高めること。

 中学校数学科におけるコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の活用については,大きく分けて,計算機器としての活用と,教具としての活用,情報通信ネットワークの活用が考えられる。

 すなわち,コンピュータや情報通信ネットワークなどの使用方法についての指導ではなく,生徒が数学をよりよく学ぶための道具としての活用である。

 各学年の「Dデータの活用」の(1)のアの(イ)においては,その内容との関連を踏まえ,「コンピュータなどの情報手段を用いるなど」と記述しているが,他の内容においてもどのような指導にコンピュータなどの情報手段を用いることができるかを検討して,積極的な活用を図ることが必要である。

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 また,前述の「主体的・対話的で深い学び」の過程において,コンピュータなどを活用することも効果的である。

 例えば,一つの問題について複数の生徒の解答を大型画面で映して,どのような表現がよいかを考えたり,1時間の授業の終わりにその授業を振り返って大切だと思ったことや疑問に感じたことなどをタブレット型のコンピュータに整理して記録し,一定の内容のまとまりごとに更に振り返ってどのような学習が必要かを考えたり,数学の学びを振り返り「数学的な見方・考え方」を確かで豊かなものとして実感したりすることの指導を充実させることもできる。

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 なお,「適切に活用し」とは,特にインターネットなどの情報通信ネットワークの活用において,情報を収集したり,他者とのコミュニケーションを図ったりする際に,生徒が的確に判断し対処することができるよう,メディア・リテラシーの育成にも配慮する必要があることを意図したものである。

 計算機器としてのそろばん,電卓,コンピュータなどの活用について,例えば電卓について考えると,基礎的な計算力を身に付けることは必要なことであるが,複雑な計算を伴うものについては,電卓を活用することにより,学習効果を一層高めることができる。

 特に,やや大きな数や小数が含まれている面積や体積を求めるなどの数値計算に関わる内容の指導,あるいは観察や操作,実験などの活動により得られた数量を処理する際に数値計算を伴う内容の指導などには,計算するために時間を多く費やすのではなく,電卓を積極的に活用し,考えたり説明したりする時間を確保することが望まれる。

 その際,簡単に計算結果が得られるが,結果をそのまま書き写すのではなく,求めようとしている数値のおおよその大きさと比較して確かめたり,どの程度まで詳しい数値であればよいのか考えて適切に判断したりできるよう指導する必要がある。

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 また,電卓の手軽さとコンピュータの簡易機能をもち合わせたグラフが表示できる電卓を活用することも考えられる。

 こうした電卓の機能を使うことによって,例えば,関数の学習で,表,式,グラフの関連を有機的に示したり,センサーを取り付けて動的な事象に対するデータの収集に利用したり,あるいは日常生活や社会に関わる問題解決において方程式の解を簡単に求めたりすることができる。

 教具としてのコンピュータは,それを活用して教師の指導方法を工夫改善していく道具であると同時に,観察や操作,実験などの活動を通して生徒が学習を深めたり,数学的活動の楽しさを実感したりできるようにする道具である。

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 「Dデータの活用」に関わる活用の例は,既に第3章で紹介したが,それ以外にも例えば,「A数と式」の指導においては,文字を用いた式の計算の確実な習得を図るために,個々の生徒に応じて補充,習熟といった学習に用いることができる。

 「B図形」の指導においては,三角形の2辺の中点を結んだ線分について,この「2辺の中点を結ぶ」という条件が当てはまる図形を,ディスプレイ上でいろいろな形に変形することにより,形は変わっても長さの比が一定であることに気付くなど,その中に含まれる図形の性質を見つけ,問題を設定することができる。

 「C関数」の指導においては,グラフのx の値を細かく取って,その形状をより正確に表示したり,x の値の変化に応じて座標上の点を動かし表示したりすることができる。

 また,一次関数y=ax+b について,b の値を固定しa の値を変化させる,あるいはa の値を固定しb の値を変化させることによってグラフの変化の様子を考察するなど,条件設定を状況に応じて自在に変えながら考えを進めることができる。

 課題学習の指導においても,学習効果を高められると判断できるものについては,必要に応じてコンピュータなどを活用する。

 このように数学的な性質の発見という場面で生徒が思考するための道具としてコンピュータを活用することについても特に配慮する必要がある。

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 また,その活用の形態については,コンピュータ教室などで生徒一人が一台のコンピュータを用いて学習するだけでなく,普通教室にノートパソコンと液晶プロジェクタを持ち込んで提示器具として用いるなど,指導内容との関係で柔軟に対応できるようにすることも考えられる。

 教具としての活用のうち,特にインターネットなどの情報通信ネットワークの活用については,その目的を明確にして積極的な活用を図る。

 例えば,三平方の定理の証明方法,江戸時代の和算や算額の問題など,数学に関する歴史的な事柄について調べたり,統計に関わるデータを集めたりして学習している内容の理解をより深めるためには,参考書や事典類ばかりでなく,情報通信ネットワークで検索することが有効である。

 また,電子メールや掲示板,動画通信などを用いて遠隔地にいる者の間で問題を出し合ったり,解き合ったりして相互に伝え合い,考えを共有するなど数学を楽しむことで数学を学ぶことに対する興味や関心を高めることも考えられる。

 この際,何のために活用するのか,目的を明確にした活動が求められるとともに,資料の収集や問題解決に当たってメディア・リテラシーなどにも配慮する必要がある。

 
 

(3) 各領域の指導に当たっては,具体物を操作して考えたり,データを収集して整理したりするなどの具体的な体験を伴う学習を充実すること。

 数学の学習では,観察や操作,実験などの活動を通して事象に深く関わる体験を経ることが大切である。

 例えば,実際に立体模型を作りながら考え,構成要素の位置関係を把握したり,図形の辺や角の大きさを測り,その関係を調べることによって相似や三平方の定理などを考察したり,データをもとに統計的な処理をして,その結果を考察したりするなど具体的な体験を伴う学習を充実していくことに配慮する。

 このようにして,生徒が,数学に関わる基礎的な概念や原理・法則などを実感を伴って理解できるように配慮することは重要である。

 
 

(4) 第2の各学年の内容に示す〔用語・記号〕は,当該学年で取り扱う内容の程度や範囲を明確にするために示したものであり,その指導に当たっては,各学年の内容と密接に関連させて取り上げること。

 この項目は,数学の学習における用語・記号,学習指導要領における用語・記号の示し方について述べたものである。

 用語・記号は,社会で共通に認められた内容を簡潔に表現し,それらを的確に用いることによって,思考が楽になり,コミュニケーションの効率性が高まる。

 数学においては,特に記号が大きな役割を果たしている。

 記号は,抽象的で形式的であるだけに,操作がしやすく,しかも,より一般性をもっている。

 上手に記号体系を作ることにより,現実の意味を離れて形式的な操作が可能になり,思考を能率的に進めることができるようになるのである。

 このように,数学において用語や記号の使い方に慣れることで,思考を,より正確に,より的確に,より能率的に行うことができるようになることは,社会や文化の発展に貢献することにもつながる。

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 数学の用語・記号は,その機能によって大まかに三種類に分けられる。

 第一は,数学の考察の対象に関する用語・記号であり,第二は,対象に対する操作や演算に関する用語・記号であり,第三は,対象間の関係に関する用語・記号である。

 このような数学における用語・記号の機能を意識することによって,数学の理解が一層深まるとともに,より正確に,より能率的に思考を進めることができるようになる。

 数学の用語・記号については,各領域における具体的な内容の学習を通して,用語・記号の意味や内容が十分に理解でき,用語・記号を用いることのよさ,すなわち,簡潔さ,明瞭さ,そして,的確さについて把握できるように指導する必要がある。

 つまり,用語・記号が具体的な内容から離れ,形式的な指導に陥ったりすることのないようにしなくてはならない。

 用語・記号の指導については,例えば,次のような点に配慮する必要がある。

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 用語には,数学と日常生活で同じ言葉遣いなのに,それらの意味にずれがある場合がある。

 例えば,比例,反比例は,日常生活では伴って変わる二つの数量について単に一方が増えると他方が増える,一方が増えると他方が減るというように使われる場面を見かけることもあるが,数学においては二つの数量の比としての関係が重要なのである。

 数学と日常生活における用語の使われ方の微妙な差異を指導する側が意識する必要がある。

 数学の指導において使われる用語・記号は,基本的に次のようにまとめることができる。

ア 数学の学習に当たって,意味を理解し,それを使用することが必要であると考えられる用語・記号

イ 内容と関連して,内容の取扱いを明確にするのに必要であると考えられる用語・記号

ウ 内容を示すときに用いる用語・記号

エ 内容を示すときに用いられなくても,その内容と関連して取り扱われることが自明である用語・記号

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 学習指導要領に示す用語・記号は,内容の記述との関連で,上のアからエのうちからウ,エを除外したものである。

 内容が示されれば,それに伴う用語・記号は当然含まれると考えるからである。

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 例えば,第1学年の内容の「A数と式」の(1)については,符号や絶対値はアとしての用語・記号に,自然数や項はイとしての用語・記号にそれぞれ該当するものとして示している。

 また,ウに該当するものとして,正の数,負の数,四則計算があり,エに該当するものとして,プラス,マイナスなどがある。

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 学習指導要領において各学年段階で示した用語・記号は,その学年で指導が完結して「用いることができるようにする」というのではなく,その学年からそれらの用語・記号の使用が始まることを示しているものである。

 したがって,その学年以降において,それらの用語・記号を用いる能力を次第に伸ばしていくように配慮して取り扱うことが必要である。

 
 
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