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(2) 2の内容に示す事項については,次の事項に配慮するものとする。

ア 2の(1)に示す言語材料については,平易なものから難しいものへと段階的に指導すること。

 また,生徒の発達の段階に応じて,聞いたり読んだりすることを通して意味を理解できるように指導すべき事項と,話したり書いたりして表現できるように指導すべき事項とがあることに留意すること。

 この事項は,言語材料に関して,全てを同じような学習到達目標で追求するべきものではないことを示している。

 言葉の学びには,受容能力(聞いたり読んだりして理解できる力)と発信能力(自ら話したり書いたりできる力)が含まれており,受容能力の方が発信能力よりも速い速度で上達し,またより高い水準の到達度に至ることが普通である。

 そのため,例えば語彙については,全てを発信能力まで高めていく必要は必ずしもない。生徒の発達の段階や学習目的に鑑み,それぞれの言語材料をどの程度まで習得させる必要があるのかを見極めていく必要がある。

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 また,「平易なものから難しいものへと段階的に指導すること」を判断する際には,教師の説明のしやすさや,生徒の概念的理解のしやすさばかりに着目するのではなく,実際に聞いたり読んだりする際の理解のしやすさや,話したり書いたりする際の使いやすさといった使用側面にも十分に配慮する必要がある。

 その際,「言語の使用場面」や「言語の働き」の点からも,その言語材料の活用頻度や活用のしやすさなどに配慮するとよい。

 実際の指導に当たっては,導入のタイミングと習得のタイミングは必ずしも一致しないことがあることを十分に理解した上で,生徒の実情に応じた導入の仕方を考え,導入後も継続して関連の言語材料に触れたり使ったりできる機会を確保する必要がある。

 
 

イ 音声指導に当たっては,日本語との違いに留意しながら,発音練習などを通して2の(1)のアに示す言語材料を継続して指導するとともに,音声指導の補助として,必要に応じて発音表記を用いて指導することもできることに留意すること。

 また,発音と綴(つづ)りとを関連付けて指導すること。

 音声の指導については,2(1)アに示す言語材料の各事項とも小学校において基本的な語や句,文について指導されていることを踏まえ,視聴覚機器を活用したり,ネイティブ・スピーカーの協力を得たりなどしながら,継続的な指導をしていくことが大切である。

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 発音表記については,特に指導する表記方法や学年に指定はないが,あくまでも音声指導の補助として利用することを念頭に置く必要がある。

 発音表記は,生徒にとって実際の音声を学習する橋渡しの役割を務め,また,自学自習へとつながる利点はあるが,発音表記そのものの詳細な指導に偏りすぎて生徒の過度の負担にならないよう配慮する必要がある。

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 「発音と綴(つづ)りとを関連付けて指導すること」については,小学校の外国語科で「音声と文字とを関連付けて指導すること」とされていることを考慮する必要がある。

 小学校では,音声で十分に慣れ親しんだ表現について読んだり書いたりすることを念頭に,文字の名称を聞いてその文字を選んだり,文字を見てその名称を発音したりすることができるように指導することとしている。

 また,第1の目標(2)の解説に,
「音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり」
の「推測しながら読む」について,

「中学年から単語の綴りが添えられた絵カードを見ながら何度も聞いたり話したりしてその音声に十分に慣れ親しんだ単語が文字のみで提示された場合,その単語の読み方を推測して読むことを表している」
(小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編)
と示されている。

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 中学校においては,小学校における文字の名称の読み方の指導から,文字の表す音の指導に移行する必要がある。

 例外はあるものの,英語の発音と綴りには,基本的な対応関係がある。

 こうした対応関係については,ある程度単語の綴りとその発音になじんだところで,単純なものから徐々に指導していくこととする。

 
 

ウ 文字指導に当たっては,生徒の学習負担にも配慮しながら筆記体を指導することもできることに留意すること。

 文字指導については,今回の改訂で小学校での指導事項となった活字体の大文字及び小文字を中学校においても引き続き指導することとし,必要に応じて筆記体を指導してもよいということを示している。

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 筆記体は,日常生活においては,手紙やカード,サイン等で使用されることもあり,生徒が読んだり書いたりする機会が考えられる。

 また,商品のデザインとして筆記体で書かれた英語を目にする機会もあり,生徒が興味をもつこともある。

 そのような場合,筆記体を指導することは,文字に対する興味付けともなり,有益であると考えられるが,生徒の学習負担を十分考えて指導に当たることが大切である。

 
 

エ 文法事項の指導に当たっては,次の事項に留意すること。

(ア) 英語の特質を理解させるために,関連のある文法事項はまとめて整理するなど,効果的な指導ができるよう工夫すること。

 文法事項を指導する際,一つ一つの事項の指導において英語の特質を理解させるだけでなく,関連のある文法事項についてはより大きく分類して整理して理解させることが必要であることを示したものである。

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 例えば,現在形や過去形の指導の後,時制として整理したり,to不定詞や関係代名詞などを修飾という側面から整理したり,英語と日本語の違いに焦点を当てて整理したりするなどである。

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 「まとめて整理する」とは,既習の文法事項と新しく学んだ文法事項の共通した特徴を,例えば「まとめ」などとして比較対照しながら整理し,効果的な指導ができるようにするなどの工夫をすることである。

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 なお,この項目は,次の(イ)で示されているとおり,文法はコミュニケーションを支えるものであり,コミュニケーションを円滑に行うとともに,内容を伴う豊かなコミュニケーションを図るためには,文法事項を正しく理解することが重要であることを当然の前提としているものであり,そのための効果的な指導方法の一つとして,関連のある文法事項をまとまりをもって整理することを明示したものである。

 したがって,あくまでコミュニケーションを図る言語活動において活用することを目指して,こうした指導が行われるべきことに十分留意する必要がある。

 
 

エ 文法事項の指導に当たっては,次の事項に留意すること。

(イ) 文法はコミュニケーションを支えるものであることを踏まえ,コミュニケーションの目的を達成する上での必要性や有用性を実感させた上でその知識を活用させたり,繰り返し使用することで当該文法事項の規則性や構造などについて気付きを促したりするなど,言語活動と効果的に関連付けて指導すること。

 この事項は,コミュニケーションを図る上での文法の位置付けについて言及しているものであるが,文法とコミュニケーションを二項対立的に見てはならない。

 文法をその伝える内容や目的,場面,状況といったことと分離せずに,それらと密接に関連させた形で,効果的な導入,指導,練習方法を工夫することが求められている。

 文法構造の概念的な理解だけを追求して,一方的な教師の説明に終始するのではなく,コミュニケーションの目的を達成する上で,いかに文法が使われているかに着目させて,生徒の気付きを促す指導を考えるべきである。

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 例えば,
 現在完了形の経験用法について教える際には,

「何度も行ったことがある」
(I have been to the stadium many times.)もしくは
「一度も行ったことがない」
(I have never been there.)

といったように,単なる過去形や現在形ではなく,過去と現在の時間軸のつながりを意識した会話の中で,どのように現在形でも過去形でもない表現(現在完了形)が使われているのかに注目させて,その有用性に気付かせるような指導の工夫が求められる。

 関係代名詞を指導する際も,二つの文をつなげて一つにするといった形式操作ではなく,いかに先行詞である名詞に関係詞節が必要な情報を与えて,後ろから伝える内容を特定し,問題のないコミュニケーションを可能にしているかに注目させるような指導の工夫が必要である

(例えば,
 “The woman is my sister.”では,
 どの女の人か特定できないが,
 “The woman who you were just talking with is my sister.”
 とすることで,情報の特定が可能となる)。

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 文法事項を学んでは意味ある文脈の中で使い,使っては学ぶといった,理解や練習と実際の使用のサイクルを繰り返す中でコミュニケーションを図る資質・能力を育成していくことが大事である。

 
 

エ 文法事項の指導に当たっては,次の事項に留意すること。

(ウ) 用語や用法の区別などの指導が中心とならないよう配慮し,実際に活用できるようにするとともに,語順や修飾関係などにおける日本語との違いに留意して指導すること。

 上記(ア)及び(イ)では,文法事項の指導の在り方や文法の位置付けに言及しているが,ここでは,文法事項の取扱いについてより具体的に示している。

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 コミュニケーションを支えるための文法指導では,文法用語などの使用は必要最低限にとどめ,実際の活用を主眼とした指導を心がけなければならない。

 ただ,活用といっても,最初から話せる,書けるといった指導をいたずらに急ぐのではなく,あくまでも豊富な例文に触れていく受容的な使用の中で,次第に発信的使用へと発展していくような配慮が必要である。時には,話したり書いたりすることを通して言葉の使い方に対しての問題意識を高めた上で,関連する英文に触れさせ,気付きを促すことも有効である。

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 例文を提示する際は,十分な量を確保することに努めるだけでなく,生徒が自分自身との関連性を感じられるような意味内容のある例文を示していくことが大切である。

 言葉の規則性や構造に対する気付きは,概念的な説明を聞くことで生まれるのではなく,意味ある言葉に多く触れ,その有用性を感じる中でこそ生じる。

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 英語と日本語の言語的類似性や相違性に目を向けて,両言語を対比する形で英語指導に当たることも,言語的感性を養うことを助け,英語使用に際しての気付きを促す上で有効である。

 また,外国語教育を通じて日本語の特徴に気付いたりするなど,言葉の働きや仕組みなどの言語としての共通性や固有の特徴への気付きを促すことを通じて相乗効果を生み出し,言語能力の効果的な育成につなげていくことが重要である。

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 なお,語順における日本語との違いとしては,例えば,英語における動詞と目的語の語順は,日本語における述語と目的語の語順とは基本的に異なることなどが挙げられる。

 また,修飾関係における日本語との違いについては,次のような例が挙げられる。

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・ 修飾関係が日本語と同様の例

 a sleeping baby
  :眠っている赤ちゃん

 a big dog
  :大きな犬

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・ 修飾関係が日本語とは異なっている例

 a picture of my family
  :家族の写真

 the girl with short hair
  :短い髪の女の子

 the boy swimming in the pool
  :プールで泳いでいる少年

 a friend who lives in London
  :ロンドンに住んでいる友達

 the mountain I climbed last year
  :去年登った山

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 このように,前置詞句や現在分詞・過去分詞が後置修飾になる場合,あるいは接触節などにおいては,後ろから修飾するという日本語との違いに留意して指導することが必要である。

 
 

オ 辞書の使い方に慣れ,活用できるようにすること。

 授業で読み物を理解したり,自己表現活動を行ったりする際,辞書の使い方に慣れ,活用できるようにすることも重要な指導側面である。

 効果的な辞書活用を促すことは,主体的で自律的な学習者の育成の観点からも,大切な要素である。

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 ただ,未知語に出会うたびに辞書を使って調べるといった態度ではなく,聞いたり読んだりする中で,どの語を知ることが重要であり,どの語が文脈から推測可能であり,あるいは当面の目的のためには調べずにおくといったことを判断できる能力を育成することが大切である。

 話したり書いたりする発信活動の際にも,言い換え表現や婉曲表現,例示などを使って,限られた言語知識を駆使してコミュニケーションを可能にしていける力を育てることが大切である。

 その上で,辞書で必要な情報を調べる態度と能力を身に付けさせていくべきである。

 
 

カ 身近な事柄について,友達に質問をしたり質問に答えたりする力を育成するため,ペア・ワーク,グループ・ワークなどの学習形態について適宜工夫すること。

 その際,他者とコミュニケーションを行うことに課題がある生徒については,個々の生徒の特性に応じて指導内容や指導方法を工夫すること。

 指導に当たっては,活動の目的に応じて,全体学習,個人学習,ペア・ワーク,グループ・ワークなど様々な学習形態を活用していくことが重要である。

 教室には様々な個性や特性のある生徒がいるため,それを把握した上で,指導に効果的と考えられる学習形態を柔軟に選択していくことが求められている。

 特にペア・ワークやグループ・ワークは,「友達に質問をしたり質問に答えたりする力」を育成する上で有用であり,そうした情報や考えなどのやり取りを豊富に行うことで,互いの考えや気持ちなどを理解し,根拠をもって外国語で伝え合う力を育成することにつながる。

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 教室を学習集団として捉え,様々な形態のコミュニケーションを通して,お互いに学び合える環境を整備していくことが重要である。

 ペア・ワークやグループ・ワークを行う際は,お互いに興味・関心をもって話し合い,相互理解を深められるような題材や活動の在り方を工夫していくことが求められる。

 その際,やり取りや即興性のある活動を取り入れることで,生徒がコミュニケーションの広がりや深まりを感じられるような活動の工夫が必要である。

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 「他者とコミュニケーションを行うことに課題がある生徒」については,その生徒が日頃から関わることのできる生徒をペアの相手やグループのメンバーに意図的に配置したり,担任やALT等とペアを組んだりするなど,個々の生徒の特性に応じて指導方法を工夫する必要がある。

 
 

キ 生徒が身に付けるべき資質・能力や生徒の実態,教材の内容などに応じて,視聴覚教材やコンピュータ,情報通信ネットワーク,教育機器などを有効活用し,生徒の興味・関心をより高め,指導の効率化や言語活動の更なる充実を図るようにすること。

 指導に当たり,視聴覚教材やその他の教育機器を有効活用することは欠かせない要素である。

 写真や映像などを見せることで,理解を促進し,現実感や臨場感を与え,学びの動機付けときっかけを与えることができる。

 また,インターネット等を活用することで,学校外へと広がる,現実との結び付きの濃い発展学習を実現することができる。

 音声面でも,教師やALT等の使う英語だけでなく,ほかの様々な英語音声に触れる機会をもつことは,国際共通語としての英語に対する理解を深め,同時に自分自身の英語に対する自信を深めていく上でも大切である。

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 また,コンピュータや情報通信ネットワークを使うことによって,教材に関する資料や情報を入手したり,電子メールによって情報を英語で発信したりすることもできる。

 このような活動を通して,生徒一人一人が主体的に世界と関わっていこうとする態度を育成することもでき,教育機器は外国語科における指導にとって大切な役目を果たすものとして考えられる。

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 しかし,安易に教育機器に頼り過ぎたり,技術的な手法に凝り過ぎたりすることには十分注意が必要である。

 まず教師がコミュニケーションの手段として英語を積極的に使ってコミュニケーションを行うことが必要であり,それを補い助けていく上で,いかに様々な教育機器が効果的であるかを考えなければならない。

 
 

ク 各単元や各時間の指導に当たっては,コミュニケーションを行う目的,場面,状況などを明確に設定し,言語活動を通して育成すべき資質・能力を明確に示すことにより,生徒が学習の見通しを立てたり,振り返ったりすることができるようにすること。

 この配慮事項は,生徒が目的をもって学習に取り組み,学んだことの意味付けを行ったり,既得の知識や経験と新たに得られた知識を言語活動へつなげ,「思考力,判断力,表現力等」を高めていったりするための各単元や各時間の指導における学習過程を示している。

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 各単元や各時間の指導を行う際に,単に繰り返し活動を行うのではなく,各学校で設定した学習到達目標を踏まえ,生徒がコミュニケーションを行う目的や場面,状況などを意識して学習に臨むことができるよう,どのような言語活動を行うのかを明確に示す必要がある。

 こうしたことにより,生徒自らが学習の見通しを立て,主体的に学習に取り組み,言語活動の質の高まりによる自分の考えの変容について,自ら学習のまとめを行ったり,振り返りを行ったりすることが促される。

 
 
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