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 学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,生徒の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。

 学校における道徳教育は,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した一人の人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする教育活動であり,社会の変化に対応しその形成者として生きていくことができる人間を育成する上で重要な役割をもっている。

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 道徳教育は,学校や生徒の実態などを踏まえ設定した目標を達成するために,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて行うことを基本として,あらゆる教育活動を通じて,適切に行われなくてはならない。

 その中で,道徳科は,各活動における道徳教育の要として,それらを補ったり,深めたり,相互の関連を考えて発展させたり統合させたりする役割を果たす。

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 したがって,各教育活動での道徳教育がその特質に応じて意図的,計画的に推進され,相互に関連が図られるとともに,道徳科において,各教育活動における道徳教育で養われた道徳性が調和的に生かされ,道徳科としての特質が押さえられた学習が計画的,発展的に行われることによって,生徒の道徳性は一層豊かに養われていく。

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 また,学校における道徳教育は,生徒の発達の段階を踏まえて行われなければならない。

 その際,多くの生徒がその発達の段階に達するとされる年齢は目安として考えられるものであるが,生徒一人一人は違う個性をもった個人であるため,それぞれ能力・適性,興味・関心,性格等の特性等は異なっていることにも意を用いる必要がある。

 発達の段階を踏まえると,幼児期の指導から小学校,中学校へと,各学校段階における幼児,児童,生徒が見せる成長発達の様子やそれぞれの段階の実態等を考慮して指導を進めることとなる。

 その際,例えば,中学校の時期においては,3学年間の発達の段階を考慮するとともに,特に中学校に入学して間もない時期には小学校高学年段階における指導との接続を意識しつつ,また学年が上がるにつれて高等学校等における人間としての在り方生き方に関する教育への見通しをもって,それぞれの段階にふさわしい指導の目標を明確にし,指導内容や指導方法を生かして,計画的に進めることになる。

 しかし,この捉え方だけでは十分とは言えない。

 道徳科においては,発達の段階を前提としつつも,指導内容や指導方法を考える上では,個々人としての特性等から捉えられる個人差に配慮することも重要となる。

 生徒の実態を把握し,指導内容,指導方法を決定してこそ,適切に指導を行うことが可能となる。

 
 

第6節 道徳教育推進上の配慮事項

1 道徳教育の指導体制と全体計画

(4) 各教科等における道徳教育

 各教科等における道徳教育を行う際には,次のような配慮をすることが求められる。

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ア 国語科

 国語で正確に理解したり適切に表現したりする資質・能力を育成する上で,社会生活における人との関わりの中で伝え合う力を高めることは,学校の教育活動全体で道徳教育を進めていくための基盤となるものである。

 また,思考力や想像力を養うこと及び言語感覚を豊かにすることは,道徳的心情や道徳的判断力を養う基本になる。

 さらに,我が国の言語文化に関わり,国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養うことは,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛することなどにつながるものである。

 教材選定の観点として,道徳性の育成に資する項目を国語科の特質に応じて示している。

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イ 社会科

 多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される我が国の国土や歴史に対する愛情は,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛することなどにつながるものである。

 また,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深め,自由・権利と責任・義務との関係を広い視野から正しく認識し,権利・義務の主体者として公正に判断しようとする力など,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を育成することは,道徳教育の要としての「道徳科」の第2のCの[社会参画,公共の精神]に示された「社会参画の意識と社会連帯の自覚を高め,公共の精神をもってよりよい社会生活の実現に努めること」などと密接な関わりをもつものである。

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ウ 数学科

 数学科の目標にある「数学を活用して事象を論理的に考察する力」,「数量や図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力」,「数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力」を高めることは,道徳的判断力の育成にも資するものである。

 また,数学的活動の楽しさや数学のよさを実感して粘り強く考え,数学を生活や学習に生かそうとする態度を養うことは,工夫して生活や学習をしようとする態度を養うことにも資するものである。

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エ 理科

 自然の事物・現象を調べる活動を通して,生物相互の関係や自然界のつり合いについて考えさせ,自然と人間との関わりを認識させることは,生命を尊重し,自然環境の保全に寄与する態度の育成につながるものである。

 また,見通しをもって観察,実験を行うことや,科学的に探究する力を育て,科学的に探究しようとする態度を養うことは,道徳的判断力や真理を大切にしようとする態度の育成にも資するものである。

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オ 音楽科

 音楽を愛好する心情や音楽に対する感性は,美しいものや崇高なものを尊重することにつながるものである。

 また,音楽による豊かな情操は,道徳性の基盤を養うものである。

 なお,音楽科で取り扱う共通教材は,我が国の自然や四季の美しさを感じ取れるもの,我が国の文化や日本語のもつ美しさを味わえるものなどを含んでおり,道徳的心情の育成に資するものである。

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カ 美術科

 美術科の目標においては,「表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」とし,(3)の「学びに向かう力,人間性等」に関する目標に「美術の創造活動の喜びを味わい,美術を愛好する心情を育み,感性を豊かにし,心豊かな生活を創造していく態度を養い,豊かな情操を培う。」と示している。

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キ 保健体育科

 体育分野における様々な運動の経験を通して,粘り強くやり遂げる,ルールを守る,集団に参加し協力する,一人一人の違いを大切にするといった態度が養われる。また,健康・安全についての理解は,生活習慣の大切さを知り,自分の生活を見直すことにつながるものである。

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ク 技術・家庭科

 生活を工夫し創造する資質・能力を身に付けることは,望ましい生活習慣を身に付けるとともに,勤労の尊さや意義を理解することにつながるものである。

 また,進んで生活を工夫し創造しようとする資質・能力を育てることは,家族への敬愛の念を深めるとともに,家庭や地域社会の一員としての自覚をもって自分の生き方を考え,生活や社会をよりよくしようとすることにつながるものである。

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ケ 外国語科

 外国語科においては,第1の目標(3)として「外国語の背景にある文化に対する理解を深め,聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」と示している。

 「外国語の背景にある文化に対する理解を深め」ることは,世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸福に貢献することにつながるものである。

 また,「聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮」することは,外国語の学習を通して,他者を配慮し受け入れる寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得し,多面的思考ができるような人材を育てることにつながる。

コ 総合的な学習の時間

 総合的な学習の時間においては,目標を「探究的な見方・考え方を働かせ横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成する」とし,育成を目指す資質・能力の三つの柱を示している。

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 総合的な学習の時間の内容は,各学校で定めるものであるが,目標を実現するにふさわしい探究課題については,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などを踏まえて設定することが考えられる。

 生徒が,横断的・総合的な学習を探究的な見方・考え方を働かせて行うことを通して,このような現代社会の課題などに取り組み,これらの学習が自己の生き方を考えることにつながっていくことになる。 

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 また,探究課題の解決を通して育成を目指す資質・能力については,主体的に判断して学習活動を進めたり,粘り強く考え解決しようとしたり,自己の目標を実現しようとしたり,他者と協調して生活しようとしたりする資質・能力を育てることも重要であり,このような資質・能力の育成は道徳教育につながるものである。

サ 特別活動

 特別活動における学級や学校生活における集団活動や体験的な活動は,日常生活における道徳的な実践の指導を行う重要な機会と場であり,特別活動が道徳教育に果たす役割は大きい。

 特別活動の目標には,「集団活動に自主的,実践的に取り組み」「互いのよさや可能性を発揮」「集団や自己の生活上の課題を解決」など,道徳教育でもねらいとする内容が含まれている。

 また,目指す資質・能力には,「多様な他者との協働」「人間関係」「人間としての生き方」「自己実現」など,道徳教育がねらいとする内容と共通している面が多く含まれており,道徳教育において果たすべき役割は極めて大きい。

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 具体的には,例えば,自他の個性や立場を尊重しようとする態度,義務を果たそうとする態度,よりよい人間関係を深めようとする態度,社会に貢献しようとする態度,自分たちで約束をつくって守ろうとする態度,より高い目標を設定し諸問題を解決しようとする態度,自己のよさや可能性を大切にして集団活動を行おうとする態度などは,集団活動を通して身に付けたい道徳性である。

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 学級活動の内容(1)の「学級や学校における生活づくりへの参画」は,学級や学校の生活上の諸課題を見いだし,これを自主的に取り上げ,協力して課題解決していく自発的,自治的な活動である。

 このような生徒による自発的,自治的な活動によって,よりよい人間関係の形成や生活づくりに参画する態度などに関わる道徳性を身に付けることができる。

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 また,学級活動の内容(2)の「日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全」では,自他の個性の理解と尊重,よりよい人間関係の形成,男女相互の理解と協力,思春期の不安や悩みの解決,性的な発達への対応,心身ともに健康で安全な生活態度や習慣の形成,食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成を示している。

 さらに学級活動の内容(3)の「一人一人のキャリア形成と自己実現」では,社会生活,職業生活との接続を踏まえた主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用,社会参画意識の醸成や勤労観・職業観の形成を示している。

 これらのことについて,自らの生活を振り返り,自己の目標を定め,粘り強く取り組み,よりよい生活態度を身に付けようとすることは,道徳性の育成に密接な関わりをもっている。

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 生徒会活動においては,全校の生徒が学校におけるよりよい生活を築くために,問題を見いだし,これを自主的に取り上げ,協力して課題解決していく自発的,自治的な活動を通して,異年齢によるよりよい人間関係の形成やよりよい学校生活づくりに参画する態度などに関わる道徳性を身に付けることができる。

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 学校行事においては,特に,職場体験活動やボランティア精神を養う活動などの社会体験や自然体験,幼児児童,高齢者や障害のある人々などとの触れ合いや文化や芸術に親しむ体験を通して,よりよい人間関係の形成,自律的態度,心身の健康,協力,責任,公徳心,勤労,社会奉仕などに関わる道徳性の育成を図ることができる。

 
 
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