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 道徳科の学習指導を構想する際には,学級の実態,生徒の発達の段階,指導の内容や意図,教材の特質,他の教育活動との関連などに応じて柔軟な発想をもつことが大切である。そのことによって,例えば,次のような学習指導を構想することができる。

 道徳科では,道徳的行為を題材とした教材を用いることが広く見られる。

 教材については,例えば,伝記,実話,論説文,物語,詩,劇などがあり,多様な形式のものを用いることができる。

 それら教材を学習指導で効果的に生かすには,登場人物の立場に立って自分との関わりで道徳的価値について理解したり,そのことを基にして自己を見つめたりすることなどが求められる。

 また,教材に対する感動を大事にする展開にしたり,道徳的価値を実現する上での迷いや葛藤を大切にした展開,知見や気付きを得ることを重視した展開,批判的な見方を含めた展開にしたりするなどの学習指導過程や指導方法の工夫が求められる。

 その際,教材から読み取れる価値観を一方的に教え込んだり,登場人物の心情理解に偏ったりした授業展開とならないようにするとともに,問題解決的な学習を積極的に導入することが求められる。

 
 

 生徒は,日常の生活や学校の全教育活動の中で様々な体験をしている。

 その中で,様々な道徳的価値に触れ,自分との関わりで感じたり考えたりしている。

 日常の体験を学習の中で発表することにとどまらず,日常体験そのものを教材としたり,道徳科において,職場体験活動やボランティア活動,自然体験活動などの体験活動を生かしたりするなどの多様な指導方法の工夫を行うことが考えられる。

 道徳科においては,生徒が日常の体験を想起する問いかけをしたり,体験したことの実感を深めやすい教材を生かしたり,実物の観察や実験等を生かした活動,対話を深める活動,模擬体験や追体験的な表現活動を取り入れたりすることも考えられる。

 
 

 各教科等と道徳科の指導との関連をもたせた学習指導が大切である。

 各教科等にはそれぞれ目標と内容があり,それらの特質を踏まえ,道徳科の指導と関連する部分を明らかにすることが必要である。

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 例えば,国語科における物語文の学習,社会科における郷土の学習,保健体育科におけるチームワークを重視した学習,特別活動における奉仕等の体験的活動,総合的な学習の時間における異文化理解の学習との関連など,各教科等における学習と道徳科の指導のねらいが同じ方向をもつものである場合,学習の時期や教材を考慮したり,相互に連携を図ったりした指導を進めると,指導の効果を一層高めることが期待できる。

 その際,他教科等と道徳科それぞれの特質が生かされた関連となるように配慮することが大切である。

 
 

 道徳科に生かす指導方法には多様なものがある。ねらいを達成するには,生徒の感性や知的な興味などに訴え,生徒が問題意識をもち,主体的に考え,話し合うことができるように,ねらい,生徒の実態,教材や学習指導過程などに応じて,最も適切な指導方法を選択し,工夫して生かしていくことが必要である。

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 そのためには,教師自らが多様な指導方法を理解したり,コンピュータを含む多様な情報機器の活用方法などを身に付けたりしておくとともに,指導に際しては,生徒の発達の段階などを捉え,指導方法を吟味した上で生かすことが重要である。

 指導方法の工夫の例としては,次のようなものが挙げられる。

 教材を提示する方法としては,読み物教材の場合,教師による範読が一般に行われている。

 その際,例えば,劇のように提示したり,音声や音楽の効果を生かしたりする工夫などが考えられる。

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 また,ビデオなどの映像も,提示する内容を事前に吟味した上で生かすことによって効果が高められる。

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 なお,多くの情報を提示することが必ずしも効果的だとは言えず,精選した情報の提示が想像を膨らませ,思考を深める上で効果的な場合もあることに留意する。

 教師による発問は,生徒が自分との関わりで道徳的価値を理解したり,自己を見つめたり,物事を多面的・多角的に考えたりするための思考や話合いを深める重要な鍵になる。

 発問によって生徒の問題意識や疑問などが生み出され,多様な感じ方や考え方が引き出される。

 そのためにも,生徒の思考を予想し,それに沿った発問や,考える必然性,切実感のある発問,自由な思考を促す発問,物事を多面的・多角的に考えたりする発問などを心掛けることが大切である。

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 発問を構成する場合には,授業のねらいに深く関わる中心的な発問をまず考え,次にそれを生かすためにその前後の発問を考え,全体を一体的に捉えるようにするという手順が有効な場合が多い。

 
 

 話合いは,生徒相互の考えを深める中心的な学習活動であり,道徳科においても重要な役割を果たす。

 考えを出し合う,まとめる,比較するなどの目的に応じて効果的に話合いが行われるよう工夫する。

 座席の配置を工夫したり,討論形式で進めたり,ペアでの対話やグループによる話合いを取り入れたりするなどの工夫も望まれる。

 話すことと聞くことが並行して行われ,生徒が友達の考え方についての理解を深めたり,自分の考え方を明確にしたりすることができる。

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 その効果を一層高めるためには,教師が適切な指導・助言を行い,話合いを効果的に展開し,生徒一人一人の道徳的なものの見方や考え方を深めていくことが望まれる。

 そのためには,話合いの形態を固定化したり形式化したりすることなく,学級の生徒の実態や発達的特質,取り上げる教材の特質,他の教育活動との関連などに応じて工夫することが大切である。

 特に,生徒の多様な感じ方や考え方を引き出すことのできる学級の雰囲気をつくることが重要である。

 書く活動は,生徒が自ら考えを深めたり,整理したりする機会として,重要な役割をもつ。

 この活動は,必要な時間を確保することで,生徒は自分なりにじっくりと考えることができる。

 また,学習の中で個別化を図り,生徒の感じ方や考え方を捉え,個別指導を進める重要な機会にもなる。

 さらに,一冊にとじられたノートなどを活用することによって,生徒の学習を継続的に深めていくことができ,生徒の成長の記録として活用したり,評価に生かしたりすることもできる。

 
 

 生徒が表現する活動の方法としては,発表したり書いたりすることのほかに,生徒に特定の役割を与えて即興的に演技する役割演技の工夫,動きやせりふのまねをして理解を深める動作化の工夫,音楽,所作,その場に応じた身のこなし,表情などで自分の考えを表現する工夫などがよく試みられる。

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 また,実際の場面の追体験,実験や観察,調査等による表現物を伴った学習活動も実感的な理解につながる方法である。

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 道徳科の授業に動作化や役割演技,コミュニケーションを深める活動などを取り入れることは,生徒の感性を磨いたり,臨場感を高めたりすることとともに,表現活動を通して自分自身の問題として深く関わり,ねらいの根底にある道徳的価値についての共感的な理解を深め,主体的に道徳性を身に付けることに資するものである。

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 指導に当たっては,生徒が伸び伸びと表現できるよう配慮するとともに,日常生活の指導の中で表現活動に慣れさせることや自由に表現できる学級の雰囲気をつくることが大切である。

 また,これらの活動が単に興味本位に流れたりしないで道徳科のねらいを達成することができるようにするため,活動を取り入れる目的やねらい達成の見通しをもち,場面設定をしっかりしておくことなど事前の十分な準備と配慮が大切である。

 
 

 道徳科では黒板を生かして話合いを行うことが多く,板書は生徒にとって思考を深める重要な手掛かりとなる。

 板書は教師の伝えたい内容を示したり,その順序や構造を示したり,内容の補足や補強をしたりするなど,多様な機能をもっている。

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 板書の機能を生かすために重要なことは,思考の流れや順序を示すような順接的な板書だけでなく,違いや多様さを対比的,構造的に示す工夫,中心部分を浮き立たせる工夫など,教師が意図を明確にして板書を工夫することが大切である。

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 また,教師が生徒の考えを取り入れ,生徒と共につくっていくような創造的な板書となるように心掛けることも大切である。

 
 

 説話とは,教師の体験談や願い,生徒の日常生活における身近な話題,生徒の関心や視野を広げる時事問題,ことわざや格言,心に残る標語,地域の自然や伝統文化に関することなどを盛り込んで話すことによって,生徒がねらいの根底にある道徳的価値を一層主体的に考えられるようにするものである。

 教師が意図をもってまとまった話をすることは,生徒が思考を一層深めたり,考えを整理したりする上で効果的である。

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 教師が自らを語ることによって生徒との信頼関係が増すとともに,教師の人間性がにじみ出る説話は,生徒の心情に訴え,深い感銘を与えることができ,ねらいの根底にある道徳的価値を生徒が一層主体的に捉え,人間としての生き方についての自覚を深めることができる。

 教師は,説話の効果が大きいことに鑑み,話題の選択,内容の吟味,話の進め方やまとめ方などを工夫することが大切である。

 なお,生徒への叱責,訓戒や行為,考え方の押し付けにならないよう注意する必要がある。

 
 
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