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1 各学校においては,教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い,児童の人間として調和のとれた育成を目指し,児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。

 教育課程の編成主体については,第1章総則第1の1において「各学校においては,・・・・適切な教育課程を編成するものとし」と示している。

 また,第1章総則第1の2では,学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において「創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する」ことが示されており,教育課程編成における学校の主体性を発揮する必要性が強調されている。

 学校において教育課程を編成するということは,学校教育法第37条第4項において「校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。」と規定されていることから,学校の長たる校長が責任者となって編成するということである。

 これは権限と責任の所在を示したものであり,学校は組織体であるから,教育課程の編成作業は,当然ながら全教職員の協力の下に行わなければならない。

 「総合的な学習の時間」をはじめとして,創意工夫を生かした教育課程を各学校で編成することが求められており,学級や学年の枠を越えて教師同士が連携協力することがますます重要となっている。

 各学校には,校長,副校長,教頭のほかに教務主任をはじめとして各主任等が置かれ,それらの担当者を中心として全教職員がそれぞれ校務を分担処理している。

 各学校の教育課程は,これらの学校の運営組織を生かし,各教職員がそれぞれの分担に応じて十分研究を重ねるとともに教育課程全体のバランスに配慮しながら,創意工夫を加えて編成することが大切である。

 また,校長は,学校全体の責任者として指導性を発揮し,家庭や地域社会との連携を図りつつ,学校として統一のある,しかも一貫性をもった教育課程の編成を行うように努めることが必要である。

 
 

 本項が規定する「これらに掲げる目標」とは,学習指導要領を含む教育課程に関する法令及び各学校が編成する教育課程が掲げる目標を指すものである。

 また,「目標を達成するよう教育を行うものとする」の規定は,前述のとおり,教育基本法第2条(教育の目標),学校教育法第21条(義務教育の目標)及び第30条(小学校教育の目標)が,いずれも「目標を達成するよう行われるものとする」と規定していることを踏まえたものであり,児童が目標を達成することを義務づけるものではないが,教育を行う者は,これらに掲げる目標を達成するように教育を行う必要があることを示したものである。

 本項は,そうした教育を行うための中核となる教育課程を編成するに当たって,次の2点が編成の原則となることを示している。

 
 

ア 教育基本法及び学校教育法その他の法令並びに学習指導要領の示すところに従うこと

 学校において編成される教育課程については,公教育の立場から,前章第2節において説明したとおり法令により種々の定めがなされている。

 本項が規定する「教育基本法及びその他の法令」とは,教育基本法,学校教育法,学校教育法施行規則,地方教育行政の組織及び運営に関する法律等の法令であり,各学校においては,これらの法令に従って編成しなければならない。

 なお,学校における政治教育及び宗教教育については,教育基本法に次のように規定されているので,各学校において教育課程を編成,実施する場合にも当然これらの規定に従わなければならない。

(政治教育)

第14条 良識ある公民として必要な政治的教養は,教育上尊重されなければならない。

2 法律に定める学校は,特定の政党を支持し,又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

(宗教教育)

第15条 宗教に関する寛容の態度,宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は,教育上尊重されなければならない。

2 国及び地方公共団体が設置する学校は,特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

 次に,本項に規定する「この章以下に示すところ」とは,言うまでもなく学習指導要領を指している。

 学習指導要領は,学校教育法第33条を受けた学校教育法施行規則第52条において「小学校の教育課程については,この節に定めるもののほか,教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。」と示しているように,法令上の根拠に基づいて定められているものである。

 したがって,学習指導要領は,国が定めた教育課程の基準であり,各学校における教育課程の編成及び実施に当たって基準として従わなければならないものである。

 教育課程は,児童の心身の発達の段階の特性及び学校や地域の実態を考慮し,教師の創意工夫を加えて学校が編成するものである。

 教育課程の基準もその点に配慮して定められているので,教育課程の編成に当たっては,法令や学習指導要領の内容について十分理解するとともに創意工夫を加え,学校の特色を生かした教育課程を編成することが大切である。

 
 

イ 児童の人間として調和のとれた育成を目指し,児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮すること

 前述アのとおり,学習指導要領は,法令上の根拠に基づいて国が定めた教育課程の基準であると同時に,その規定は大綱的なものであることから,学校において編成される教育課程は,児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を考慮し,創意工夫を加えて編成されるものである。

 教育課程の基準もその点に配慮して定められているので,各学校においては,校長を中心として全教職員が連携協力しながら,学習指導要領を含む教育課程に関する法令の内容について十分理解するとともに創意工夫を加え,学校として統一のあるしかも特色をもった教育課程を編成することが大切である。

 本項が規定する「児童の人間としての調和のとれた育成を目指」すということは,まさに教育基本法や学校教育法の規定に根ざした学校教育の目的そのものであって,教育課程の編成もそれを目指して行わなければならない。

 学習指導要領総則においても,
知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」の育成(第1の2)や,そのための知識及び技能の習得と,思考力,判断力,表現力等の育成学びに向かう力,人間性等の涵(かん)養 という,いわゆる資質・能力の三つの柱のバランスのとれた育成(第1の3),幼児期の教育との接続や義務教育9年間を見通した中学校教育との接続など学校段階等間の接続(第2の4)など,児童の発達の段階に応じた調和のとれた育成を重視していることに留意する必要がある。

 次に,「児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮」するということは,各学校において教育課程を編成する場合には,児童や学校,地域の実態を的確に把握し,それを,児童の人間として調和のとれた育成を図るという観点から,学校の教育目標の設定,教育の内容等の組織あるいは授業時数の配当などに十分反映させる必要があるということである。

(ア) 児童の心身の発達の段階や特性

 児童は,6歳から12歳という心身の成長の著しい時期に小学校に在学している。

 この6年間という期間は児童にとって大きな幅のある期間であり,低学年,中学年,高学年の発達の段階に応じて,それぞれ異なる課題も見受けられる。

 低学年は,幼児期の教育を通して育まれてきたことを基に,学習の質に大きく関わる語彙量を増やすことなど基礎的な知識及び技能の定着や,感性を豊かに働かせ,身近な出来事から気付きを得て考えることなど,中学年以降の学習の素地を形成していく時期である。

 この2年間で生じる学力差が,その後の学力差の拡大に大きく影響しているとの課題も指摘されており,一人一人のつまずきを早期に見いだし,指導上の配慮を行っていくことが重要となる。

 中学年は,生活科の学習が終わり,社会科や理科の学習が始まるなど,具体的な活動や体験を通して低学年で身に付けたことを,より各教科等の特質に応じた学びにつなげていく時期である。

 指導事項も次第に抽象的な内容に近づいていく段階であり,そうした内容を扱う学習に円滑に移行できるような指導上の配慮が課題となる。

 高学年は,児童の抽象的な思考力が高まる時期であり,教科等の学習内容の理解をより深め,小学校段階において育成を目指す資質・能力を育み,中学校以降の教育に確実につなげていくことが重要となる。

 教育課程の編成に当たっては,こうした発達の段階に応じた課題を踏まえつつ,児童一人一人の多様な能力・適性,興味・関心,性格等を的確に捉え,児童一人一人の発達を支援していくことが重要である(第1章総則 第4参照)。

(イ) 学校の実態

 学校規模,教職員の状況,施設設備の状況,児童の実態などの人的又は物的な体制の実態は学校によって異なっている。

 教育課程の編成は,第1章総則第1の4に示すカリキュラム・マネジメントの一環として,このような学校の体制の実態が密接に関連してくるものであり,教育活動の質の向上を組織的かつ計画的に図っていくためには,これらの人的又は物的な体制の実態を十分考慮することが必要である。

 そのためには,特に,児童の特性や教職員の構成,教師の指導力,教材・教具の整備状況,地域住民による連携及び協働の体制に関わる状況などについて客観的に把握して分析し,教育課程の編成に生かすことが必要である。

(ウ) 地域の実態

 教育基本法第13条は「学校,家庭及び地域住民その他の関係者は,教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに,相互の連携及び協力に努めるものとする。」と規定している。

 また,学校教育法第43条は「小学校は,当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに,これらの者との連携及び協力の推進に資するため,当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする」と規定している。

 これらの規定が示すとおり,学校は地域社会を離れては存在し得ないものであり,児童は家庭や地域社会で様々な経験を重ねて成長している。

 地域には,都市,農村,山村,漁村など生活条件や環境の違いがあり,産業,経済,文化等にそれぞれ特色をもっている。

 こうした地域社会の実態を十分考慮して教育課程を編成することが必要である。

 とりわけ,学校の教育目標や指導内容の選択に当たっては,地域の実態を考慮することが重要である。

 そのためには,地域社会の現状はもちろんのこと,歴史的な経緯や将来への展望など,広く社会の変化に注目しながら地域社会の実態を十分分析し検討して的確に把握することが必要である。

 また,地域の教育資源や学習環境(近隣の学校,社会教育施設,児童の学習に協力することのできる人材等)の実態を考慮し,教育活動を計画することが必要である。

 なお,学校における教育活動が学校の教育目標に沿って一層効果的に展開されるためには,家庭や地域社会と学校との連携を密にすることが必要である。

 すなわち,学校の教育方針や特色ある教育活動の取組,児童の状況などを家庭や地域社会に説明し,理解を求め協力を得ること,学校が家庭や地域社会からの要望に応えることが重要であり,このような観点から,その積極的な連携を図り,相互の意思の疎通を図って,それを教育課程の編成,実施に生かしていくことが求められる。

 保護者や地域住民が学校運営に参画する学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や,幅広い地域住民等の参画により地域全体で児童の成長を支え地域を創生する地域学校協働活動等の推進により,学校と地域の連携及び協働の取組が進められてきているところであり,
これらの取組を更に広げ,教育課程を介して学校と地域がつながることにより,地域でどのような子供を育てるのか,何を実現していくのかという目標やビジョンの共有が促進され,地域とともにある学校づくりが一層効果的に進められていくことが期待される。

 以上,教育課程の編成の原則を述べてきたが,校長を中心として全教職員が共通理解を図りながら,学校として統一のあるしかも特色をもった教育課程を編成することが望まれる。

 
 
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