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(2) 道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵(かん)養を目指した教育の充実に努めること。

 教育基本法第2条第1号は,教育の目的として「豊かな情操と道徳心を培う」ことを規定しており,本項では,道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵(かん)養を目指した教育の充実に努めることを示している。

 創造性とは,感性を豊かに働かせながら,思いや考えを基に構想し,新しい意味や価値を創造していく資質・能力であり,豊かな心の涵(かん)養と密接に関わるものであることから,本項において一体的に示している。

 豊かな心や創造性の涵(かん)養は,第1章総則第3の1に示すとおり,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通した,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して実現が図られるものであり,そうした学習の過程の在り方については,本解説第3章第3節の1において解説している。

 本項で示す教育活動のうち,道徳教育については次項AからCまでの解説のとおりであり,体験活動については第1章総則第3の1(5)において示している。

 多様な表現や鑑賞の活動等については,音楽や図画工作における表現及び鑑賞の活動や,体育における表現運動,特別活動における文化的行事,文化系のクラブ活動等の充実を図るほか,各教科等における言語活動の充実(第1章総則第3の1(2))を図ることや,教育課程外の学校教育活動などと相互に関連させ,学校教育活動全体として効果的に取り組むことも重要となる。

 
 

 学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。

 道徳教育は人格形成の根幹に関わるものであり,同時に,民主的な国家・社会の持続的発展を根底で支えるものでもあることに鑑みると,児童の生活全体に関わるものであり,学校で行われる全ての教育活動に関わるものである。

 各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動にはそれぞれ固有の目標や特質があり,それらを重視しつつ教育活動が行われるが,それと同時にその全てが教育基本法第1条に規定する「人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」を目的としている。

 したがって,それぞれの教育活動においても,その特質を生かし,児童の学年が進むにつれて全体として把握できる発達の段階や個々人の特性等の両方を適切に考慮しつつ,人格形成の根幹であると同時に,民主的な国家・社会の持続的発展を根底で支える道徳教育の役割をも担うことになる。

 中でも,特別の教科として位置付けられた道徳科は,道徳性を養うことを目指すものとして,その中核的な役割を果たす。

 道徳科の指導において,各教科等で 行われる道徳教育を補ったり,それを深めたり,相互の関連を考えて発展させ,統合させたりすることで,学校における道徳教育は一層充実する。こうした考え方に立って,道徳教育は道徳科を要として学校の教育活動全体を通じて行うものと規定している。

 
 

 道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。

 学校における道徳教育は,児童がよりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標としており,児童一人一人が将来に対する夢や希望,自らの人生や未来を拓(ひら)いていく力を育む源となるものでなければならない。

ア 教育基本法及び学校教育法の根本精神に基づく

 道徳教育は,まず,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づいて行われるものである。

 教育基本法においては,我が国の教育は

「人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行う」

ことを目的としていることが示されている(第1条)。

 そして,その目的を実現するための目標として,
「真理を求める態度を養う」ことや
「豊かな情操と道徳心を培う」こと
などが挙げられている(第2条)。

 また,義務教育の目的として

「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い,また,国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的」

とすることが規定されている(第5条第2項)。

 学校教育法においては,義務教育の目標として,

「自主,自律及び協同の精神,規範意識,公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと」(第21条第1号),

「生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと」(同条第2号),

「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに,進んで外国の文化の理解を通じて,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」(同条第3号)

などが示されている。

 学校で行う道徳教育は,これら教育の根本精神に基づいて行われるものである。

 
 

イ 自己の生き方を考える

 人格の基盤を形成する小学校の段階においては,児童自らが自己を見つめ,「自己の生き方」を考えることができるようにすることが大切である。

 「自己の生き方」を考えるとは,児童一人一人が,よりよくなろうとする自己を肯定的に受け止めるとともに,他者との関わりや身近な集団の中での自分の特徴などを知り,伸ばしたい自己について深く見つめることである。

 またそれは,社会の中でいかに生きていけばよいのか,国家及び社会の形成者としてどうあればよいのかを考えることにもつながる。

ウ 主体的な判断の下に行動する

 児童が日常の様々な道徳的な問題や自己の生き方についての課題に直面したときに,自らの「主体的な判断の下に行動」することが重要である。

 「主体的な判断の下に行動」するとは,児童が自立的な生き方や社会の形成者としての在り方について自ら考えたことに基づいて,人間としてよりよく生きるための行為を自分の意志や判断に基づいて選択し行うことである。

 またそれは,児童が日常生活での問題や自己の生き方に関する課題に正面から向き合い,考え方の対立がある場合にも,自らの力で考え,よりよいと判断したり適切だと考えたりした行為の実践に向けて具体的な行動を起こすことである。

エ 自立した人間として他者と共によりよく生きる

「自立した人間」としての主体的な自己は,同時に「他者と共に」よりよい社会の実現を目指そうとする社会的な存在としての自己を志向する。

 このように,人は誰もがよりよい自分を求めて自己の確立を目指すとともに,一人一人が他者と共に心を通じ合わせて生きようとしている。

 したがって,他者との関係を主体的かつ適切にもつことができるようにすることが求められる。

オ そのための基盤となる道徳性を養う

 こうした思考や判断,行動などを通してよりよく生きるための営みを支える基盤となるのが道徳性であり,道徳教育はこの道徳性を養うことを目標とする。

 道徳性は,人間としての本来的な在り方やよりよい生き方を目指して行われる道徳的行為を可能にする人格的特性であり,人格の基盤をなすものである。

 それはまた,人間らしいよさであり,道徳的価値が一人一人の内面において統合されたものと言える。

 学校教育においては,特に道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践を主体的に行う意欲と態度の育成を重視する必要があると考えられる。

 このことは第3章の道徳科の目標としても示されている。

 
 

 道徳教育を進めるに当たっては,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛し,個性豊かな文化の創造を図るとともに,平和で民主的な国家及び社会の形成者として,公共の精神を尊び,社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓(ひら)く主体性のある日本人の育成に資することとなるよう特に留意すること。

 第1章総則第1の2(2)の4段目において,道徳教育の目標に続けて,それを進めるに当たって留意すべき事項について次のように示している。

ア 人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かす

 人間尊重の精神は,生命の尊重,人格の尊重,基本的人権,思いやりの心などの根底を貫く精神である。

 日本国憲法に述べられている「基本的人権」や,教育基本法に述べられている「人格の完成」,さらには,国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章)にいう「人間の尊厳」の精神も根本において共通するものである。

 民主的な社会においては,人格の尊重は,自己の人格のみではなく,他の人々の人格をも尊重することであり,また,権利の尊重は,自他の権利の主張を認めるとともに,権利の尊重を自己に課するという意味で,互いに義務と責任を果たすことを求めるものである。具体的な人間関係の中で道徳性を養い,それによって人格形成を図るという趣旨に基づいて,「人間尊重の精神」という言葉を使っている。

  生命に対する畏敬の念は,生命のかけがえのなさに気付き,生命あるものを慈しみ,畏れ,敬い,尊ぶことを意味する。このことにより人間は,生命の尊さや生きることのすばらしさの自覚を深めることができる。

 生命に対する畏敬の念に根ざした人間尊重の精神を培うことによって,人間の生命があらゆる生命との関係や調和の中で存在し生かされていることを自覚できる。

 さらに,生命あるもの全てに対する感謝の心や思いやりの心を育み,より深く自己を見つめながら,人間としての在り方や生き方の自覚を深めていくことができる。

 これは,自殺やいじめに関わる問題や環境問題などを考える上でも,常に根本において重視すべき事柄である。

 道徳教育は,この人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を児童自ら培い,それらを家庭での日常生活,学校での学習や生活及び地域社会での遊び,活動,行事への参画などの具体的な機会において生かすことができるようにしなければならない。

イ 豊かな心をもつ

 豊かな心とは,例えば,困っている人には優しく声を掛ける,ボランティア活動など人の役に立つことを進んで行う,喜びや感動を伴って植物や動物を育てる,自分の成長を感じ生きていることを素直に喜ぶ,美しいものを美しいと感じることができる,他者との共生や異なるものへの寛容さをもつなどの感性及びそれらを大切にする心である。

 道徳教育は,児童一人一人が日常生活においてこのような心を育み,そのことを通して生きていく上で必要な道徳的価値を理解し,自己を見つめることで,固有の人格を形成していくことができるようにしなければならない。

ウ 伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛し,個性豊かな文化の創造を図る

 個性豊かな文化の継承・発展・創造のためには,先人の残した有形,無形の文化的遺産の中に優れたものを見いだし,それを生み出した精神に学び,それを継承し発展させることも必要である。

 また,国際社会の中で主体性をもって生きていくには,国際感覚をもち,国際的視野に立ちながらも,自らの国や地域の伝統や文化についての理解を深め,尊重する態度を身に付けることが重要である。

 したがって,我が国や郷土の伝統と文化に対する関心や理解を深め,それを尊重し,継承,発展させる態度を育成するとともに,それらを育んできた我が国と郷土への親しみや愛着の情を深め,世界と日本との関わりについて考え,日本人としての自覚をもって,文化の継承・発展・創造と社会の発展に貢献し得る能力や態度が養われなければならない。

 
 

エ 平和で民主的な国家及び社会の形成者として,公共の精神を尊び,社会及び国家の発展に努める

 人間は個としての尊厳を有するとともに,平和で民主的な国家及び社会を形成する一人としての社会的存在でもある。

 私たちは,身近な集団のみならず,社会や国家の一員としての様々な帰属意識をもっている。

 一人一人がそれぞれの個をその集団の中で生かし,よりよい集団や社会を形成していくためには,個としての尊厳とともに社会全体の利益を実現しようとする公共の精神が必要である。

 また,平和で民主的な社会は,国民主権,基本的人権,自由,平等などの民主主義の理念の実現によって達成される。

 これらが,法によって規定され,維持されるだけならば,一人一人の日常生活の中で真に主体的なものとして確立されたことにはならない。

 それらは,一人一人の自覚によって初めて達成される。日常生活の中で社会連帯の自覚に基づき,あらゆる時と場所において他者と協同する場を実現していくことは,社会及び国家の発展に努めることでもある。

 したがって,道徳教育においては,単に法律的な規則やきまりそのものを取り上げるだけでなく,それらの意義を自己の生き方との関わりで捉えるとともに,必要に応じてそれをよりよいものに発展させていくという視点にも留意して取り扱う必要がある。

オ 他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献する

 民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに,世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することは,教育基本法の前文において掲げられている理念である。

 平和は,人間の心の内に確立すべき課題でもあるが,日常生活の中で社会連帯の自覚に基づき,他者と協同する場を実現していく努力こそ,平和で民主的な国家及び社会を実現する根本である。

 また,環境問題が深刻な問題となる中で,持続可能な社会の実現に努めることが重要な課題となっている。

 そのためにも,生命や自然に対する感受性や,身近な環境から地球規模の環境へとつなげる豊かな想像力,それを大切に守ろうとする態度が養われなければならない。

 このような努力や心構えを,広く国家間ないし国際社会に及ぼしていくことが他国を尊重することにつながり,国際社会に平和をもたらし環境の保全に貢献することになる。

カ 未来を拓(ひら)く主体性のある日本人を育成する

 未来を拓(ひら)く主体性のある人間とは,常に前向きな姿勢で未来に夢や希望をもち,自主的に考え,自律的に判断し,決断したことは積極的かつ誠実に実行し,その結果について責任をもつことができる人間である。

 道徳教育は,このような視点に立ち,児童が自らの人生や新しい社会を切り拓(ひら)く力を身に付けられるようにしていかなければならない。

 このことは,人間としての在り方の根本に関わるものであるが,ここで特に日本人と示しているのは,歴史的,文化的に育まれてきた日本人としての自覚をもって文化の継承,発展,創造を図り,民主的な社会の発展に貢献するとともに,国際的視野に立って世界の平和と人類の幸福に寄与し,世界の人々から信頼される人間の育成を目指しているからである。

 
 
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