cosnavi.jp

 ここでは,改訂の趣旨を踏まえて,算数科の学習の意義を確認するとともに,各学年を通じた小学校算数科の内容の基本的な骨格を示す。

--------------------------------

 なお,今回の改訂では,学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成を行っている。

 そこで,小学校算数科については,児童の発達の段階を踏まえ,小学校算数科と中学校数学科における教育課程の接続という視点から,

 第1学年,
 第2学年と第3学年,
 第4学年と第5学年,
 第6学年

の四つの段階を設定し,当該学年までに育成を目指す資質・能力と働かせる数学的な見方・考え方を明示した内容構成とした。

 
 

 算数科の内容については,第1章でも触れたとおり,算数・数学に固有の見方や考え方である「数学的な見方・考え方」を働かせ,数学的活動を通して展開する学習過程で育成を目指す資質・能力を整理した上で示した。

--------------------------------

 また,学習指導の過程については,従来の用語「算数的活動」を「数学的活動」と改め,算数科の学習を通して育成を目指す資質・能力とそのために望まれる学習過程の趣旨を一層徹底した。

--------------------------------

 ここで,数学的活動とは,第1節でも述べたとおり,事象を数理的に捉え,算数の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決する過程を遂行することである。

 算数科における数学的活動については,具体的には,「日常の事象」及び「数学の事象」を対象とした問題解決の活動と,数学的な表現を生かしながら互いに伝え合う活動を中核とした活動で構成され,このうち,前者の活動は,数学的な問題発見・解決の活動となる。

 また,下学年には具体的経験を大切にする操作等を通して数量や図形を見いだす活動も数学的活動として明確に位置付けることで小学校に特徴的な数学的活動を重視することとした。

 
 

 今回の改訂では,算数科において育成を目指す資質・能力とそのために必要な指導内容について,数学的活動の中で働かせる数学的な見方・考え方を明示して,内容を整理した。この算数科の内容の骨子を簡略に述べると次のようになる。

--------------------------------

@ 数概念の形成とその表現の理解,計算の構成と習得

A 図形概念の形成と基本的な図形の性質の理解

B 量の把握とその測定の方法の理解

C 事象の変化と数量の関係の把握

D 不確定な事象の考察

E 筋道を立てて考えること

F 数学的に表現すること

G 数学的に伝え合うこと

--------------------------------

 このうち,@〜Dは,主として算数科の学習において考察対象となるものとその考察の方法に関する項目である。

 また,E〜Gは,算数科の学習全体を支える数学的な方法などに関する項目である。

 以下,これらについて説明する。

 
 

 算数科では,自然数の概念と分数や小数で表現される数(有理数)の概念について理解するとともに,その表現方法を学習する。

 また,それぞれの数について,数の集合に定義される演算の意味とそれに基づく四則計算の方法を学習する。

 第4学年までに自然数の計算についての四則計算を,第6学年までに正の有理数の範囲での四則計算の学習が完成することになる。

--------------------------------

 この基本的な枠組みの中で,基数(集合数)及び序数としての数概念の形成,十進位取り記数法に基づく数の表記,分数や小数の表現による有理数の概念と表記について学習する。

 このような数の概念とその表し方を理解できるようにしつつ,数についての豊かな感覚が育成されるとともに,整数,小数及び分数の四則の意味とその計算の仕方,具体的な問題場面での計算の利用ができるようにする。

--------------------------------

 さらに,日常の事象を数理的に捉えて処理したり,日常生活や社会で直面する問題を算数の舞台に載せて解決したりする過程の中で,数や計算を活用したり,概数や概算を用いて処理するなど,数理的な処理のよさが分かるようにする。

 
 

 幾何の内容については,平面や空間における基本図形や空間の概念について理解し,図形の概念や基本図形がもつ性質を理解したり,図形について豊かな感覚を身に付けたりするとともに,図形の性質を活用して,具体的な場面で適切に判断したり,的確に表現したり,処理したりできるようにする。

 また,図形の学習を通して,前提となる条件を明らかにして筋道を立てて考える等,論理的な思考の進め方を知り,それを用いることができるようにするとともに,その過程を通して数学的な見方・考え方の育成を図り,数理的処理のよさが分かるようにする。

--------------------------------

 そのために,身の回りにあるものの形に目を向けて,次第に図形を捉え,その構成要素に着目しながら基本図形についての概念を形成するとともに,図形を弁別したり,図形を構成(作図)したり,図形の性質を明らかにしたりする。

 図形の頂点や辺,角等の構成要素を対象とする考察から,平行や垂直のような構成要素間の関係を理解し,さらに合同や縮図・拡大図のような図形間の関係についても学習する。

 
 

 身の回りにある二つのものを比較する場合,比較対象となるものの属性(例えば,長さや重さなど)に着目し,その属性について数値化して表すことがある。

 算数科で学ぶ量の把握における測定とは,幾つかのものを比較する必要から,ものの特徴を捉えてそれを測り取り,数値化して表すことである。

 この意味で,量の把握における測定とは,ものの属性に着目し,単位を用いて量を捉え,その単位で測り取った数値に対応させることである。

 例えば,ものの重さは,「重さ」という属性で単位とする大きさを決めて測定し数値化できる。

 数学的には,量の測定とは,ものの集合から実数の集合への関数であるとみることができる。

--------------------------------

このようなものの属性の数値化においては,ものの属性を直接比較すること,大小関係の推移律に基づいて行われる間接比較,そして任意の単位を設定して測定した結果の比較,そして普遍単位による測定という過程を通して,測定の意味についての学習を行う。

 
 

 算数科の内容の重要な事項に,身の回りの事象の変化における数量間の関係を把握してそれを問題解決に生かすということがある。

 これが関数の考えである。

 問題解決において,ある数量を調べるためにそれと関係のある他の数量を見いだし,それら二つの数量の間に成り立つ関係を把握してその問題を解決する際に用いられる方法である。それは次のような過程を経る。

(a) 二つの数量や事象の間の依存関係を考察し,ある数量が他のどんな数量と関係付けられるのかを明らかにすること

(b) 伴って変わる二つの数量について対応や変化の特徴を明らかにすること

(c) 二つの数量の間の関係や変化の特徴を問題解決において利用すること

--------------------------------

 この関数の考えのよさは,二つの数量の間の対応関係に気付き,それを用いることによって,複雑な問題場面をより単純な数量関係に置き換えて考察し,より効率的かつ経済的に作業を行えるという点にある。

 また,身の回りの事象を理想化・単純化して,数学的に処理したり,問題場面の構造をより簡潔・明瞭・的確に捉えて問題を発展的に考察したりすることを可能にするというよさもある。

--------------------------------

 算数科では,具体的な関数としては,比例を中心に扱い,比例の理解を促すために反比例についても学習する。

 さらに,様々な事象における二つの数量の関係について,それらの数量の間に成り立つ比例関係を前提として乗法的な関係から把握される「割合」について学習する。

 割合は,二つの数量を比較するときに用いられる関係であり,またその関係を表現する数でもある。

 
 

 児童の身の回りには,偶然に左右され,一つ一つには何の法則もないようにみえる事象がある。

 このような身の回りの事象を観察し,そこにある関係や傾向,法則等を見いだしたり,そうした事象について正しく判断したり,推測したりできるようにする。

 また,起こり得る場合について考察したり,問題解決のためにデータを集めてそれを分析し,その結果に基づいて判断したりする統計的な問題解決の方法の基礎について学習する。

--------------------------------

 多くの情報が氾濫する高度情報化社会では,目的に応じて情報を適切に捉え,的確な判断を下すことが求められる。

 小・中・高等学校の各学校段階を通じて,統計的な問題解決の方法を身に付け,データに基づいて的確に判断し批判的に考察することができるようにする必要がある。

 算数科では,データを様々に整理したり表現してその特徴を捉えたり,代表値やデータの分布の様子を知って問題解決に生かすなど,統計的な問題解決の方法について知り,それを実生活の問題の解決過程で生かすことを学習する。

 
 

 算数科の目標の中核には,筋道を立てて考える力の育成を目指すことがある。

 これは論理的な思考力の育成が,数学の主要な陶冶的価値の一つだからである。

 実際,算数科では,幾つかの事例を考察してそれらに共通する性質を帰納的に考察する場面や,ある事柄を前提としたときにそこから演繹的に導かれる事柄を考察する場面などが教科全体を通してあり,数量や図形の性質などについての統合的・発展的な考察も,このような筋道を立てて考える力によって可能になる。

 
 

 算数科の学習では,言葉による表現とともに,図,数,式,表,グラフといった数学的な表現の方法を用いることに特質がある。

 このような多様な表現を問題解決に生かしたり,思考の過程や結果を表現して説明したりすることを学ぶ。

 中でも式は「数学の言葉である」とも言われるように,日常の事象における数量やその関係等を,的確に,また簡潔かつ一般的に表すことができる優れた表現方法である。

--------------------------------

 式の指導においては,具体的な場面に対応させて事柄や関係を表すことができるようにするとともに,式を読んだり,式で処理したり考えたり,式変形の過程などを他人に説明したりすることが大切であり,特に,式の表す意味を読み取る指導に重点をおく必要がある。

 このような指導の過程で式の働きに着目させることによって,式のよさを感じとることができ,式を積極的に活用しようとする態度が育成される。

 
 

 数学は,日常言語と同様に,それ自体が思考およびコミュニケーションの手段として用いられ,自然や社会の考察に欠かせない言語としての性格をもっている。

 論証が他者を説得するための術であると言われることがあるように,算数科においても,事柄の根拠や前提から導かれる結果を説明する等,他者を想定したコミュニケーションの方法を学ぶ。

--------------------------------

 上記のような多様な表現を用いて,ある問題についての他者の考えと自分の考えの異同を考察したり,複数の解決のアイディアに基づいてよりよい解決を求めて考えを統合したりすることを学ぶ。

 これは,算数科のどの領域においても大切な学習内容である。

 
 
→ 小学校算数編 目次
→ 中学校数学編 目次
→ 小学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ