cosnavi.jp

 数学は,数・量・形やそれらの関係についての抽象的な構造の研究を行うといった面のほかに,現実世界の問題を数学の舞台に載せて解決する方法を提供するという一面をもつ。

 実際,幾何学の起源は,ナイル川の氾濫によって変形する肥沃な土地を測り,収穫される穀物の量を推測するために古代エジプト人が行った測量術にあると言われている。

 つまり,数学は,身の回りの事象を観察・解釈し,またそれを通して問題を解決する方法の一つなのであり,もともと実生活において身の回りの事象の仕組みを読み解くことで役に立つという側面をもっているのである。

--------------------------------

この意味で,数学とは出来上がった知識の体系という面のみならず,様々な事象について数学的な知識や技能を駆使して考察し,そのなかで数学自体も発展し,体系化されていくという,活動としての面をもっている。

 今回の改訂では,このような数学的な問題発見や問題解決の過程を学習において実現することを重視している。

--------------------------------

 平成10年告示の学習指導要領における算数科の目標において用語「算数的活動」がはじめて用いられた。

 平成20年告示学習指導要領では,その意味が「児童が目的意識をもって主体的に取り組む算数に関わりのある様々な活動」と規定されている。

 そして,基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに,数学的な思考力・表現力を高めたり,算数を学ぶことの楽しさや意義を実感したりするために,重要な役割を果たすものと位置付けられている。

 また,算数的活動を生かした指導を一層充実し,言語活動や体験活動を重視した指導が行われるようにするために,小学校では各学年の内容に,算数的活動を具体的に示している。

--------------------------------

 今回の改訂では,育成を目指す資質・能力の観点からの目標,内容の検討において,算数・数学に固有の見方や考え方である「数学的な見方・考え方」を働かせた学習を展開するよう内容を整理すること,また学習指導の過程においては,数学的な問題発見や問題解決の過程を重視することが求められている。

 そこで,数学的な問題発見・解決の過程における様々な局面とそこで働かせる数学的な見方・考え方に焦点を当てて算数科における児童の活動を充実するために,用語「算数的活動」を「数学的活動」と改めて,その趣旨を一層徹底することとした。

--------------------------------

 繰り返しになるが,数学的活動とは,事象を数理的に捉え,算数の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決する過程を遂行することである。

 数学的活動においては,単に問題を解決することのみならず,問題解決の過程や結果を振り返って,得られた結果を捉え直したり,新たな問題を見いだしたりして,統合的・発展的に考察を進めていくことが大切である。

 この活動の様々な局面で,数学的な見方・考え方が働き,その過程を通して数学的に考える資質・能力の育成を図ることができる。

--------------------------------

 また,今回の改訂では,
 学習指導の過程においては,
 数学的に問題発見・解決する過程を
 重視するものとした。

 算数科においては,

 「日常の事象を数理的に捉え,
  数学的に表現・処理し,
  問題を解決したり,
  解決の過程や結果を
  振り返って考えたりする」ことと,

 「算数の学習場面から問題を見いだし
  解決したり,
  解決の過程や結果を振り返って
  統合的・発展的に考えたりする」こと

 の二つの問題発見・解決の過程が
 相互に関わり合っている。

 これらの基盤として,
 各場面で言語活動を充実させ,
 それぞれの過程や結果を振り返り,
 評価・改善することができるようにする
 ことも大切である。

--------------------------------

 数学的活動は,
 数学を学ぶための方法であるとともに,
 数学的活動をすること自体を学ぶ
 という意味で内容でもある。

 また,
 その後の学習や日常生活などにおいて,
 数学的活動を生かすことができる
 ようにすること
 を目指している
 という意味で,
 数学的活動は
 数学を学ぶ目標でもある。

 それらのバランスを取りつつ,
 各領域の学習やそれらを
 相互に関連付けた学習において,
 数学的活動の楽しさを
 実感できるようにすることで,
 数学的に考える資質・能力を
 確かに育むことが期待される。

 
 

 上述のような趣旨から,数学的な問題発見・解決の過程に位置付く「日常の事象から見いだした問題を解決する活動」,「算数の学習場面から見いだした問題を解決する活動」及び「数学的に表現し伝え合う活動」を中核とした活動をそれぞれ下学年のイ,ウ,エ及び上学年のア,イ,ウとして数学的活動に位置付けた。

 以下に,第6学年の場合を示す。

--------------------------------

◯ 日常の事象を数理的に捉え問題を見いだして解決し,解決過程を振り返り,結果や方法を改善したり,日常生活等に生かしたりする活動(第6学年 ア)

◯ 算数の学習場面から算数の問題を見いだして解決し,解決過程を振り返り統合的・発展的に考察する活動(第6学年 イ)

◯ 問題解決の過程や結果を,目的に応じて図や式などを用いて数学的に表現し伝え合う活動(第6学年 ウ)

--------------------------------

 なお,数学的に表現し伝え合う活動は,言葉や図,数,式,表,グラフなどを適切に用いて,数量や図形などに関する事実や手続き,思考の過程や判断の根拠などを的確に表現したり,考えたことや工夫したことなどを数学的な表現を用いて伝え合い共有したり,見いだしたことや思考の過程,判断の根拠などを数学的に説明したりする活動である。

--------------------------------

 多くの場合,この活動は,指導の過程において,日常の事象から見いだした問題を解決する活動や算数の学習場面から見いだした問題を解決する活動と相互に関連し一連の活動として行われることになる。
(次の左右の図参照)

★↑画像をクリックすると拡大します!

★↑画像をクリックすると拡大します!

--------------------------------

 数学的活動に取り組む機会を設ける際には,活動としての一連の流れを大切にするとともに,どの活動に焦点を当てて指導するのかを明らかにすることが必要である。

--------------------------------

 ここで,児童の発達の段階を踏まえ,算数科と数学科の接続の視点から,第1学年,第2学年と第3学年,第4学年と第5学年,第6学年の四つの段階を設定し,これらの数学的活動を示すこととした。

--------------------------------

 さらに,下学年には,身の回りの事象を観察したり,小学校に固有の具体的な操作をしたりすること等を通して,数量や図形を見いだして,それらに進んで関わって行く活動を明確に位置付けることで,小学校における学習に特徴的な数学的活動を重視することとした。(右の図参照)

★↑画像をクリックすると拡大します!

--------------------------------

◯ 身の回りの事象を観察したり,具体物を操作したりして,数量や図形を見いだす活動(第1学年 ア)

◯ 身の回りの事象を観察したり,具体物を操作したりして,数量や図形に進んで関わる活動(第2学年,第3学年 ア)

--------------------------------

 これは,義務教育段階の算数科・数学科における活動の趣旨をより一貫したものとして,日常の事象の問題解決と振り返りや日常生活への算数の活用,算数の事象の問題解決と振り返りや統合的・発展的考察を重視するものである。

--------------------------------

 次ページの表は,第1学年から中学校第1学年までの数学的活動の類型の一覧である。

 
 

【小学校 第1学年】

 身の回りの事象を観察したり,具体物を操作したりして,数量や形を見いだす活動

--------------------------------

【小学校 第2学年】

 身の回りの事象を観察したり,具体物を操作したりして,数量や図形に進んで関わる活動

--------------------------------

【小学校 第3学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第4学年】

 なし

--------------------------------

【小学校 第5学年】

 なし

--------------------------------

【小学校 第6学年】

 なし

--------------------------------

【中学校 第1学年】

 なし

【小学校 第1学年】

 日常生活の問題を具体物などを用いて解決したり結果を確かめたりする活動

--------------------------------

【小学校 第2学年】

 日常の事象から見いだした算数の問題を,具体物,図,数,式などを用いて解決し,結果を確かめる活動

--------------------------------

【小学校 第3学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第4学年】

 日常の事象から算数の問題を見いだして解決し,結果を確かめたり,日常生活等に生かしたりする活動

--------------------------------

【小学校 第5学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第6学年】

 日常の事象を数理的に捉え問題を見いだして解決し,解決過程を振り返り,結果や方法を改善したり,日常生活等に生かしたりする活動

--------------------------------

【中学校 第1学年】

 日常の事象を数理的に捉え,数学的に表現・処理し,問題を解決したり,解決の過程や結果を振り返って考察したりする活動

【小学校 第1学年】

 算数の問題を具体物など用いて解決したり結果を確かめたりする活動

--------------------------------

【小学校 第2学年】

 算数の学習場面から見いだした算数の問題を,具体物,図,数,式などを用いて解決し,結果を確かめる活動

--------------------------------

【小学校 第3学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第4学年】

 算数の学習場面から算数の問題を見いだして解決し,結果を確かめたり,発展的に考察したりする活動

--------------------------------

【小学校 第5学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第6学年】

 算数の学習場面から算数の問題を見いだして解決し,解決過程を振り返り統合的・発展的に考察する活動

--------------------------------

【中学校 第1学年】

 数学の事象から問題を見いだし解決したり,解決の過程や結果を振り返って統合的・発展的に考察したりする活動

【小学校 第1学年】

 問題解決の過程や結果を,具体物や図などを用いて表現する活動

--------------------------------

【小学校 第2学年】

 問題解決の過程や結果を,具体物,図,数,式などを用いて表現し伝え合う活動

--------------------------------

【小学校 第3学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第4学年】

 問題解決の過程や結果を,図や式などを用いて数学的に表現し伝え合う活動

--------------------------------

【小学校 第5学年】

 同上

--------------------------------

【小学校 第6学年】

 問題解決の過程や結果を,目的に応じて図や式などを用いて数学的に表現し伝え合う活動

--------------------------------

【中学校 第1学年】

 数学的な表現を用いて筋道立てて説明し伝え合う活動

 
 
→ 小学校算数編 目次
→ 中学校数学編 目次
→ 小学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ