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 小学校理科の教科の目標は,以下のとおりである。

 自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1) 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。

(2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。

(3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

 この目標は,小学校理科においてどのような資質・能力の育成を目指しているのかを簡潔に示したものである。

 今回の改訂において,各教科等において育成を目指す資質・能力が三つの柱で整理されたことを踏まえ,小学校理科においても,その三つの柱に沿って,育成を目指す資質・能力を整理した。

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 初めに,どのような学習の過程を通して資質・能力を育成するのかを示し,次に(1)には育成を目指す資質・能力のうち「知識及び技能」を,(2)には「思考力,判断力,表現力等」を,(3)には「学びに向かう力,人間性等」を示している。

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 目標の理解を深めるために,目標を構成している文章を文節,又は(1)から(3)の資質・能力に区切り,それぞれの意図するものについて,以下に示すことにする。

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 なお,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力については,相互に関連し合うものであり,資質・能力を(1),(2),(3)の順に育成するものではないことに留意が必要である。

 
 

 理科の学習は,児童が自然に親しむことから始まる。

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 ここで,「自然に親しむ」とは,単に自然に触れたり,慣れ親しんだりするということだけではない。

 児童が関心や意欲をもって対象と関わることにより,自ら問題を見いだし,それを追究していく活動を行うとともに,見いだした問題を追究し,解決していく中で,新たな問題を見いだし,繰り返し自然の事物・現象に関わっていくことを含意している。

 児童に自然の事物・現象を提示したり,自然の中に連れて行ったりする際には,児童が対象である自然の事物・現象に関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追究していくことができるように意図的な活動の場を工夫することが必要である。

 
 

 理科においては,従来,「科学的な見方や考え方」を育成することを重要な目標として位置付け,資質・能力を包括するものとして示してきた。

 「見方や考え方」とは,「問題解決の活動によって児童が身に付ける方法や手続きと,その方法や手続きによって得られた結果及び概念を包含する」という表現で示されてきたところである。

 しかし,今回の改訂では,資質・能力をより具体的なものとして示し,「見方・考え方」は資質・能力を育成する過程で児童が働かせる「物事を捉える視点や考え方」であること,更には教科等ごとの特徴があり,各教科等を学ぶ本質的な意義や中核をなすものとして全教科等を通して整理されたことを踏まえ,理科の特質に応じ,「理科の見方・考え方」として,改めて検討した。

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 問題解決の過程において,自然の事物・現象をどのような視点で捉えるかという「見方」については,理科を構成する領域ごとの特徴から整理を行った。

 自然の事物・現象を,「エネルギー」を柱とする領域では,主として量的・関係的な視点で捉えることが,「粒子」を柱とする領域では,主として質的・実体的な視点で捉えることが,「生命」を柱とする領域では,主として共通性・多様性の視点で捉えることが,「地球」を柱とする領域では,主として時間的・空間的な視点で捉えることが,それぞれの領域における特徴的な視点として整理することができる。

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 ただし,これらの特徴的な視点はそれぞれ領域固有のものではなく,その強弱はあるものの,他の領域においても用いられる視点であることや,これら以外にも,理科だけでなく様々な場面で用いられる原因と結果をはじめとして,部分と全体,定性と定量などといった視点もあることに留意する必要がある。

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 問題解決の過程において,どのような考え方で思考していくかという「考え方」については,これまで理科で育成を目指してきた問題解決の能力を基に整理を行った。

 児童が問題解決の過程の中で用いる,比較,関係付け,条件制御,多面的に考えることなどといった考え方を「考え方」として整理することができる。

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 「比較する」とは,複数の自然の事物・現象を対応させ比べることである。

 比較には,同時に複数の自然の事物・現象を比べたり,ある自然の事物・現象の変化を時間的な前後の関係で比べたりすることなどがある。

 具体的には,問題を見いだす際に,自然の事物・現象を比較し,差異点や共通点を明らかにすることなどが考えられる。

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 「関係付ける」とは,自然の事物・現象を様々な視点から結び付けることである。

 「関係付け」には,変化とそれに関わる要因を結び付けたり,既習の内容や生活経験と結び付けたりすることなどがある。

 具体的には,解決したい問題についての予想や仮説を発想する際に,自然の事物・現象と既習の内容や生活経験とを関係付けたり,自然の事物・現象の変化とそれに関わる要因を関係付けたりすることが考えられる。

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 「条件を制御する」とは,自然の事物・現象に影響を与えると考えられる要因について,どの要因が影響を与えるかを調べる際に,変化させる要因と変化させない要因を区別するということである。

 具体的には,解決したい問題について,解決の方法を発想する際に,制御すべき要因と制御しない要因を区別しながら計画的に観察,実験などを行うことが考えられる。

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 「多面的に考える」とは,自然の事物・現象を複数の側面から考えることである。

 具体的には,問題解決を行う際に,解決したい問題について互いの予想や仮説を尊重しながら追究したり,観察,実験などの結果を基に,予想や仮説,観察,実験などの方法を振り返り,再検討したり,複数の観察,実験などから得た結果を基に考察をしたりすることなどが考えられる。

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 このような「理科の見方・考え方」を自在に働かせ,自然の事物・現象に関わることができる児童は,どのような視点で自然の事物・現象を捉え,どのような考え方で思考すればよいのかを自覚しながら,自然の事物・現象に関わることができるということである。

 それは,自然の事物・現象から問題を見いだし,予想や仮説をもち,その解決方法を考えたり,知識を関連付けてより深く理解したりすることに向かう「深い学び」を実現することになるのである。

 児童自らが「理科の見方・考え方」を意識的に働かせながら,繰り返し自然の事物・現象に関わることで,児童の「見方・考え方」は豊かで確かなものになっていき,それに伴い,育成を目指す資質・能力が更に伸ばされていくのである。

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 なお,「見方・考え方」は,問題解決の活動を通して育成を目指す資質・能力としての「知識」や「思考力,判断力,表現力等」とは異なることに留意が必要である。

 
 

 ここでは,「見通しをもって」,「観察,実験を行うことなど」の二つの部分に分けて考えることにする。

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 「見通しをもつ」とは,児童が自然に親しむことによって見いだした問題に対して,予想や仮説をもち,それらを基にして観察,実験などの解決の方法を発想することである。

 児童が「見通しをもつ」ことには,以下のような意義が考えられる。

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 児童は,既習の内容や生活経験を基にしながら,問題の解決を図るための根拠のある予想や仮説,さらには,それを確かめるための観察,実験の方法を発想することになる。

 これは,児童が自分で発想した予想や仮説,そして,それらを確かめるために発想した解決の方法で観察,実験などを行うということであり,このようにして得られた観察,実験の結果においても,自らの活動としての認識をもつことになる。

 このことにより,観察,実験は児童自らの主体的な問題解決の活動となるのである。

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 また,児童が見通しをもつことにより,予想や仮説と観察,実験の結果の一致,不一致が明確になる。

 両者が一致した場合には,児童は予想や仮説を確認したことになる。

 一方,両者が一致しない場合には,児童は予想や仮説,又はそれらを基にして発想した解決の方法を振り返り,それらを見直し,再検討を加えることになる。

 いずれの場合でも,予想や仮説又は解決の方法の妥当性を検討したという意味において意義があり,価値があるものである。

 このような過程を通して,児童は,自らの考えを大切にしながらも,他者の考えや意見を受け入れ,様々な視点から自らの考えを柔軟に見直し,その妥当性を検討する態度を身に付けることになると考えられる。

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 なお,児童がもつ見通しは一律ではなく,児童の発達や状況によってその精緻さなどが異なるものであることから,十分配慮する必要がある。

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 「観察,実験を行うことなど」については,以下のような意義が考えられる。

 理科の観察,実験などの活動は,児童が自ら目的,問題意識をもって意図的に自然の事物・現象に働きかけていく活動である。

 そこでは,児童は自らの予想や仮説に基づいて,観察,実験などの計画や方法を工夫して考えることになる。

 観察,実験などの計画や方法は,予想や仮説を自然の事物・現象で検討するための手続き・手段であり,理科における重要な検討の形式として考えることができる。

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 ここで,観察は,実際の時間,空間の中で具体的な自然の事物・現象の存在や変化を捉えることである。

 視点を明確にもち,周辺の状況にも意識を払いつつ,その様相を自らの諸感覚を通して捉えようとする活動である。

 一方,実験は,人為的に整えられた条件の下で,装置を用いるなどしながら,自然の事物・現象の存在や変化を捉えることである。

 自然の事物・現象からいくつかの変数を抽出し,それらを組み合わせ,意図的な操作を加える中で,結果を得ようとする活動である。

 観察,実験は明確に切り分けられない部分もあるが,それぞれの活動の特徴を意識しながら指導することが大切である。

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 なお,「観察,実験を行うことなど」の「など」には,自然の事物・現象から問題を見いだす活動,観察,実験の結果を基に考察する活動,結論を導きだす活動が含まれる。

 
 

 児童が見いだした問題を解決していく際,理科では,「科学的に解決する」ということが重要である。

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 科学とは,人間が長い時間をかけて構築してきたものであり,一つの文化として考えることができる。

 科学は,その扱う対象や方法論などの違いにより,専門的に分化して存在し,それぞれ体系として緻密で一貫した構造をもっている。

 また,最近では専門的な科学の分野が融合して,新たな科学の分野が生まれている。

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 科学が,それ以外の文化と区別される基本的な条件としては,実証性,再現性,客観性などが考えられる。

 実証性とは,考えられた仮説が観察,実験などによって検討することができるという条件である。

 再現性とは,仮説を観察,実験などを通して実証するとき,人や時間や場所を変えて複数回行っても同一の実験条件下では,同一の結果が得られるという条件である。

 客観性とは,実証性や再現性という条件を満足することにより,多くの人々によって承認され,公認されるという条件である。

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 「科学的」ということは,これらの条件を検討する手続きを重視するという側面から捉えることができる。

 つまり,「問題を科学的に解決する」ということは,自然の事物・現象についての問題を,実証性,再現性,客観性などといった条件を検討する手続きを重視しながら解決していくということと考えられる。

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 このような手続きを重視するためには,主体的で対話的な学びが欠かせない。

 児童は,問題解決の活動の中で,互いの考えを尊重しながら話し合い,既にもっている自然の事物・現象についての考えを,少しずつ科学的なものに変容させていくのである。

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 さらに,児童は,問題を科学的に解決することによって,一つの問題を解決するだけに留まらず,獲得した知識を適用して,「理科の見方・考え方」を働かせ,新たな問題を見いだし,その問題の解決に向かおうとする。

 この営みこそが問い続けることであり,自ら自然の事物・現象についての考えを少しずつ科学的なものに変容させることにつながるのである。

 そのためには,問題を解決することに喜びを感じるとともに,「知らないことがあることに気付く」ことにも価値を見いだすことができる児童を育成していくことが重要であると考えられる。

 
 

 児童は,自ら自然の事物・現象に働きかけ,問題を解決していくことにより,自然の事物・現象の性質や規則性などを把握する。

 その際,児童は,問題解決の過程を通して,あらかじめもっている自然の事物・現象についてのイメージや素朴な概念などを,既習の内容や生活経験,観察,実験などの結果から導きだした結論と意味付けたり,関係付けたりして,より妥当性の高いものに更新していく。

 このことは,自然の事物・現象について,より深く理解することにつながっていくのである。

 このような理解は,その段階での児童の発達や経験に依存したものであるが,自然の事物・現象についての科学的な理解の一つと考えることができる。

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 観察,実験などに関する技能については,器具や機器などを目的に応じて工夫して扱うとともに,観察,実験の過程やそこから得られた結果を適切に記録することが求められる。

 児童が問題解決の過程において,解決したい問題に対する結論を導きだす際,重要になるのは,観察,実験の結果である。

 観察,実験などに関する技能を身に付けることは,自然の事物・現象についての理解や問題解決の力の育成に関わる重要な資質・能力の一つである。

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 なお,「観察,実験など」の「など」には,自然の性質や規則性を適用したものづくりや,栽培,飼育の活動が含まれる。

 
 

 児童が自然の事物・現象に親しむ中で興味・関心をもち,そこから問題を見いだし,予想や仮説を基に観察,実験などを行い,結果を整理し,その結果を基に結論を導きだすといった問題解決の過程の中で,問題解決の力が育成される。

 小学校では,学年を通して育成を目指す問題解決の力を示している。

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 第3学年では,主に差異点や共通点を基に,問題を見いだすといった問題解決の力の育成を目指している。

 この力を育成するためには,複数の自然の事物・現象を比較し,その差異点や共通点を捉えることが大切である。

 第4学年では,主に既習の内容や生活経験を基に,根拠のある予想や仮説を発想するといった問題解決の力の育成を目指している。

 この力を育成するためには,自然の事物・現象同士を関係付けたり,自然の事物・現象と既習の内容や生活経験と関係付けたりすることが大切である。

 第5学年では,主に予想や仮説を基に,解決の方法を発想するといった問題解決の力の育成を目指している。

 この力を育成するためには,自然の事物・現象に影響を与えると考える要因を予想し,どの要因が影響を与えるかを調べる際に,これらの条件を制御するといった考え方を用いることが大切である。

 第6学年では,主により妥当な考えをつくりだすといった問題解決の力の育成を目指している。

 より妥当な考えをつくりだすとは,自分が既にもっている考えを検討し,より科学的なものに変容させることである。

 この力を育成するためには,自然の事物・現象を多面的に考えることが大切である。

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 これらの問題解決の力は,その学年で中心的に育成するものであるが,実際の指導に当たっては,他の学年で掲げている問題解決の力の育成についても十分に配慮することや,内容区分や単元の特性によって扱い方が異なること,中学校における学習につなげていくことにも留意する必要がある。

 
 

 児童は,植物の栽培や昆虫の飼育という体験活動を通して,その成長を喜んだり,昆虫の活動の不思議さや面白さを感じたりする。

 また,植物や昆虫を大切に育てていたにもかかわらず枯れてしまったり,死んでしまったりするような体験をすることもあり,植物の栽培や昆虫の飼育などの意義を児童に振り返らせることにより,生物を愛護しようとする態度が育まれてくる。

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 また,植物の結実の過程や動物の発生や成長について観察したり,調べたりする中で,生命の連続性や神秘性に思いをはせたり,自分自身を含む動植物は,互いにつながっており,周囲の環境との関係の中で生きていることを考えたりすることを通して,生命を尊重しようとする態度が育まれてくる。

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 理科では,このような体験を通して,自然を愛する心情を育てることが大切であることは言うまでもない。

 ただし,その際,人間を含めた生物が生きていくためには,水や空気,食べ物,太陽のエネルギーなどが必要なことなどの理解も同時に大切にする必要がある。

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 さらに,自然環境と人間との共生の手立てを考えながら自然を見直すことや実験などを通して自然の秩序や規則性などに気付くことも,自然を愛する心情を育てることにつながると考えられる。

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 主体的に問題解決しようとする態度とは,一連の問題解決の活動を,児童自らが行おうとすることによって表出された姿である。

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 児童は,自然の事物・現象に進んで関わり,問題を見いだし,見通しをもって追究していく。

 追究の過程では,自分の学習活動を振り返り,意味付けをしたり,身に付けた資質・能力を自覚したりするとともに,再度自然の事物・現象や日常生活を見直し,学習内容を深く理解したり,新しい問題を見いだしたりする。

 このような姿には,意欲的に自然の事物・現象に関わろうとする態度,粘り強く問題解決しようとする態度,他者と関わりながら問題解決しようとする態度,学んだことを自然の事物・現象や日常生活に当てはめてみようとする態度などが表れている。

 小学校理科では,このような態度の育成を目指していくことが大切である。

 
 
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