cosnavi.jp

 学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。

 学校における道徳教育は,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した一人の人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする教育活動であり,社会の変化に対応しその形成者として生きていくことができる人間を育成する上で重要な役割をもっている。

--------------------------------

 道徳教育は,学校や児童の実態などを踏まえ設定した目標を達成するために,道徳科はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて行うことを基本として,あらゆる教育活動を通じて,適切に行われなくてはならない。

 その中で,道徳科は,各活動における道徳教育の要として,それらを補ったり,深めたり,相互の関連を考えて発展させたり統合させたりする役割を果たす。いわば,扇の要のように道徳教育の要所を押さえて中心で留めるような役割をもつと言える。

--------------------------------

 したがって,各教育活動での道徳教育がその特質に応じて意図的,計画的に推進され,相互に関連が図られるとともに,道徳科において,各教育活動における道徳教育で養われた道徳性が調和的に生かされ,道徳科としての特質が押さえられた学習が計画的,発展的に行われることによって,児童の道徳性は一層豊かに養われていく。

--------------------------------

 また,学校における道徳教育は,児童の発達の段階を踏まえて行われなければならない。

 その際,多くの児童がその発達の段階に達するとされる年齢は目安として考えられるものであるが,児童一人一人は違う個性をもった個人であるため,それぞれ能力・適性,興味・関心,性格等の特性等は異なっていることにも意を用いる必要がある。

 発達の段階を踏まえると,幼児期の指導から小学校,中学校へと,各学校段階における幼児,児童,生徒が見せる成長発達の様子やそれぞれの段階の実態等を考慮して指導を進めることとなる。

 その際,例えば,小学校の時期においては,6学年間の発達の段階を考慮するとともに,幼児期の発達の段階を踏まえ,中学校の発達の段階への成長の見通しをもって,小学校の時期にふさわしい指導の目標を明確にし,指導内容や指導方法を生かして,計画的に進めることになる。

 しかし,この捉え方だけでは十分とは言えない。

 道徳科においては,発達の段階を前提としつつも,指導内容や指導方法について考える上では,個々人としての特性等から捉えられる個人差に配慮することも重要となる。児童の実態を把握し,指導内容,指導方法を決定してこそ,適切に指導を行うことが可能となる。

 
 

第6節 道徳教育推進上の配慮事項

1 道徳教育の指導体制と全体計画

(4) 各教科等における道徳教育

 各教科等における道徳教育については,第2章各教科,第4章外国語活動,第5章総合的な学習の時間及び第6章特別活動における「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」に,第3章特別の教科道徳の第2に示す内容についてそれぞれの特質に応じて適切に指導することが示されているが,具体的には,次のような配慮をすることが求められる。

ア 国語科

 国語で正確に理解したり適切に表現したりする資質・能力を育成する上で,日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高めることは,学校の教育活動全体で道徳教育を進めていくための基盤となるものである。

 また,思考力や想像力を養うこと及び言語感覚を豊かにすることは,道徳的心情や道徳的判断力を養う基本になる。

 さらに,我が国の言語文化に関わり,国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養うことは,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛することなどにつながるものである。

 教材選定の観点として,第2章第1節国語の第3の3(2)に,道徳性の育成に資する項目を国語科の特質に応じて示している。

イ 社会科

 地域や我が国の歴史や伝統と文化を通して社会生活について理解することや,多角的な思考や理解を通して,地域社会に対する誇りと愛情,我が国の国土と歴史に対する愛情を涵(かん)養することは,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛することなどにつながるものである。

 また,国際社会に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者としての自覚をもち,自他の人格を尊重し,社会的義務や責任を重んじ,公正に判断しようとする態度や能力などの公民としての資質・能力の基礎を養うことは,主として集団や社会との関わりに関する内容などと密接に関係するものである。

 
 

ウ 算数科

 算数科の目標にある「日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力」を育てることは,道徳的な判断力の育成にも資するものである。

 また,「算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度」を育てることは,工夫して生活や学習をしようとする態度を育てることにも資するものである。

エ 理科

 栽培や飼育などの体験活動を通して自然を愛する心情を育てることは,生命を尊重し,自然環境の保全に寄与する態度の育成につながるものである。

 また,見通しをもって観察,実験を行うことや,問題解決の力を育てることは,道徳的判断力や真理を大切にしようとする態度の育成にも資するものである。

 
 

オ 生活科

 自分自身,身近な人々,社会及び自然と直接関わる活動や体験を通して,自然に親しみ,生命を大切にするなど自然との関わりに関心をもつこと,自分のよさや可能性に気付くなど自分自身について考えさせること,生活上のきまり,言葉遣い,振る舞いなど生活上必要な習慣を身に付け,自立し生活を豊かにしていくための資質・能力を育成することなど,いずれも道徳教育と密接な関わりをもつものである。

カ 音楽科

 音楽科の「第1 目標」(3)に,「音楽活動の楽しさを体験することを通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育むともに,音楽に親しむ態度を養い,豊かな情操を培う。」と示している。

 音楽を愛好する心情や音楽に対する感性は,美しいものや崇高なものを尊重する心につながるものであり,また,音楽科の学習指導を通して培われる豊かな情操は,道徳性の基盤を養うものである。

 音楽科で取り扱う共通教材は,我が国の伝統や文化,自然や四季の美しさや,夢や希望をもって生きることの大切さなどを含んでおり,道徳的心情の育成に資するものである。

キ 図画工作科

 図画工作科においては,目標の「学びに向かう力,人間性等」において「つくりだす喜びを味わうとともに,感性を育み,楽しく豊かな生活を創造しようとする態度を養い,豊かな情操を培う」と示している。

 つくりだす喜びを味わうようにすることは,美しいものや崇高なものを尊重する心につながるものである。

 また,造形的な創造による豊かな情操は,道徳性の基盤を養うものである。

 
 

ク 家庭科

 日常生活に必要な基礎的な知識や技能を身に付け,生活をよりよくしようと工夫する資質・能力を育てることは,生活習慣の大切さを知り,自分の生活を見直すことにつながるものである。

 また,家庭生活を大切にする心情を育むことは,家族を敬愛し,楽しい家庭をつくり,家族の役に立つことをしようとすることにつながるものである。

ケ 体育科

 自己の課題の解決に向けて運動したり,集団で楽しくゲームを行ったりすることを通して,最後まで粘り強く取り組む,気持ちのよい挨拶をする,仲間と協力する,勝敗を受け入れる,フェアなプレイを大切にする,仲間の考えや取組を理解するなどの態度が養われる。

 健康・安全についての理解は,生活習慣の大切さを知り,自己の生活を見直すことにつながるものである。

 
 

コ 外国語科

 外国語科においては,第1の目標(3)として「外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」と示している。

 「外国語の背景にある文化に対する理解を深め」ることは,世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸福に貢献することにつながるものである。

 また,「他者に配慮」することは,外国語の学習を通して,他者を配慮し受け入れる寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得し,多面的思考ができるような人材を育てることにつながる。

サ 外国語活動

 外国語活動においては,第1の目標(3)として「外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」と示している。

 「外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め」ることは,世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸福に貢献することにつながるものである。

 また,「相手に配慮」することは,外国語の学習を通して,相手に配慮し受け入れる寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得し,多面的思考ができるような人材を育てることにつながる。

 
 

シ 総合的な学習の時間

 総合的な学習の時間においては,目標を「探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成する」とし,育成を目指す資質・能力の三つの柱を示している。

--------------------------------

 総合的な学習の時間の内容は,各学校で定めるものであるが,目標を実現するにふさわしい探究課題については,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題,児童の興味・関心に基づく課題などを踏まえて設定することが考えられる。

 児童が,横断的・総合的な学習を探究的な見方・考え方を働かせて行うことを通して,このような現代社会の課題などに取り組み,これらの学習が自己の生き方を考えることにつながっていくことになる。

--------------------------------

 また,探究課題の解決を通して育成を目指す資質・能力については,主体的に判断して学習活動を進めたり,粘り強く考え解決しようとしたり,自己の目標を実現しようとしたり,他者と協調して生活しようとしたりする資質・能力を育てることも重要であり,このような資質・能力の育成は道徳教育につながるものである。

 
 

ス 特別活動

 特別活動における学級や学校生活における集団活動や体験的な活動は,日常生活における道徳的な実践の指導を行う重要な機会と場であり,道徳教育において果たす役割は大きい。

 特別活動の目標には,「集団活動に自主的,実践的に取り組み」「互いのよさや可能性を発揮」「集団や自己の生活上の課題を解決」など,道徳教育でもねらいとする内容が含まれている。

 また,目指す資質・能力には,「多様な他者との協働」「人間関係」「自己の生き方」「自己実現」など,道徳教育がねらいとする内容と共通している面が多く含まれており,道徳教育において果たすべき役割は極めて大きい。

--------------------------------

 具体的には,例えば,多様な他者の意見を尊重しようとする態度,自己の役割や責任を果たして生活しようとする態度,よりよい人間関係を形成しようとする態度,みんなのために進んで働こうとする態度,自分たちできまりや約束をつくって守ろうとする態度,目標をもって諸問題を解決しようとする態度,自己のよさや可能性を大切にして集団活動を行おうとする態度などは,集団活動を通して身に付けたい道徳性である。

--------------------------------

 特に,学級活動については,道徳教育の各学年段階における配慮事項を踏まえて,学級活動における各学年段階の指導における配慮事項を示している。

 また,学級活動の「(1)学級や学校における生活づくりへの参画」は,学級や学校の生活上の諸課題を見いだし,これを自主的に取り上げ,協力して解決していく自発的,自治的な活動である。

 このような児童による自発的,自治的な活動によって,望ましい人間関係の形成やよりよい生活づくりに参画する態度などに関わる道徳性を身に付けることができる。

 学級活動の「(2)日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全」では,基本的な生活習慣の形成やよりよい人間関係の形成,心身ともに健康で安全な生活態度の形成,食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成を示している。

 また学級活動の「(3)一人一人のキャリア形成と自己実現」では,現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成,社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解,主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用を示している。

 これらについて,自らの生活を振り返り,自己の目標を定め,粘り強く取り組み,よりよい生活態度を身に付けようとすることは,道徳性を養うことと密接に関わるものである。

--------------------------------

 児童会活動においては,異年齢の児童が学校におけるよりよい生活を築くために,諸問題を見いだし,これを自主的に取り上げ,協力して解決していく自発的,自治的な活動を通して,異年齢によるよりよい人間関係の形成やよりよい学校生活づくりに参画する態度などに関わる道徳性を養うことができる。

--------------------------------

 クラブ活動においては,異年齢によるよりよい人間関係の形成や個性の伸長,よりよいクラブ活動づくりに参画する態度などに関わる道徳性を養うことができる。

--------------------------------

 学校行事においては,特に,自然の中での集団宿泊活動やボランティア精神を養う活動,幼児,高齢者や障害のある人々などとの触れ合いや文化や芸術に親しむ体験を通して,よりよい人間関係の形成,自律的態度,心身の健康,協力,責任,公徳心,勤労,社会奉仕などに関わる道徳性を養うことができる。

 
 
→ 小学校道徳編 目次
→ 中学校道徳編 目次
→ 小学校学習指導要領(2017)目次
→ 学習指導要領ナビ
トップページ