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 道徳科の目標は,

 道徳的諸価値についての理解を基に,
 自己を見つめ,

 物事を多面的・多角的に考え,

 自己の生き方についての考え
 を深める学習を通して,

 道徳的な
 判断力,心情,実践意欲及び態度
 を育てること

 であるが,

 道徳性の諸様相である
 道徳的な
 判断力,心情,実践意欲と態度
 のそれぞれについて分節し,
 学習状況を分析的に捉える
 観点別評価
 を通じて見取ろうとすることは,

 児童の人格そのものに働きかけ,
 道徳性を養うこと
 を目標とする道徳科
 の評価としては妥当ではない。

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 授業において
 児童に考えさせることを明確にして,

 「道徳的諸価値についての理解を基に,
  自己を見つめ,
  物事を多面的・多角的に考え,
  自己の生き方
  についての考えを深める」

 という目標
 に掲げる学習活動における
 児童の具体的な取組状況を,

 一定のまとまりの中で,
 児童が
 学習の見通しを立てたり
 学習したことを振り返ったりする
 活動を適切に設定しつつ,

 学習活動全体を通して見取ること
 が求められる。

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 その際,
 個々の内容項目ごとではなく,
 大くくりなまとまりを踏まえた評価
 とすることや,
 他の児童との比較による評価ではなく,
 児童がいかに成長したかを
 積極的に受け止めて認め,励ます
 個人内評価として
 記述式で行うことが求められる。

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 道徳科の内容項目は,道徳科の指導の内容を構成するものであるが,内容項目について単に知識として観念的に理解させるだけの指導や,特定の考え方に無批判に従わせるような指導であってはならない。

 内容項目は,道徳性を養う手掛かりとなるものであり,内容項目に含まれる道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を通して,「道徳性を養う」ことが道徳科の目標である。

 このため,道徳科の学習状況の評価に当たっては,道徳科の学習活動に着目し,年間や学期といった一定の時間的なまとまりの中で,児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握する必要がある。

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 こうしたことを踏まえ,評価に当たっては,特に,学習活動において児童が道徳的価値やそれらに関わる諸事象について他者の考え方や議論に触れ,自律的に思考する中で,一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか,道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視することが重要である。

 このことは道徳科の目標に明記された学習活動に着目して評価を行うということである。

 道徳科では,児童が「自己を見つめ」「多面的・多角的に」考える学習活動において,「道徳的諸価値についての理解」と「自己の生き方についての考え」を,相互に関連付けることによって,深い理解,深い考えとなっていく。こうした学習における一人一人の児童の姿を把握していくことが児童の学習活動に着目した評価を行うことになる。

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 なお,道徳科においては,児童自身が,真正面から自分のこととして道徳的価値に多面的・多角的に向き合うことが重要である。

 また,道徳科における学習状況や道徳性に係る成長の様子の把握は,児童の人格そのものに働きかけ,道徳性を養うという道徳科の目標に照らし,児童がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め,励ます視点から行うものであり,個人内評価であるとの趣旨がより強く要請されるものである。

 これらを踏まえると,道徳科の評価は,選抜に当たり客観性・公平性が求められる入学者選抜とはなじまないものであり,このため,道徳科の評価は調査書には記載せず,入学者選抜の合否判定に活用することのないようにする必要がある。

 
 

 道徳科において,児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子をどのように見取り,記述するかということについては,学校の実態や児童の実態に応じて,教師の明確な意図の下,学習指導過程や指導方法の工夫と併せて適切に考える必要がある。

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 児童が一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているかどうかという点については,例えば,道徳的価値に関わる問題に対する判断の根拠やそのときの心情を様々な視点から捉え考えようとしていることや,自分と違う立場や感じ方,考え方を理解しようとしていること,複数の道徳的価値の対立が生じる場面において取り得る行動を多面的・多角的に考えようとしていることを発言や感想文,質問紙の記述等から見取るという方法が考えられる。

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 道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかどうかという点についても,例えば,読み物教材の登場人物を自分に置き換えて考え,自分なりに具体的にイメージして理解しようとしていることに着目したり,現在の自分自身を振り返り,自らの行動や考えを見直していることがうかがえる部分に着目したりするという視点も考えられる。

 また,道徳的な問題に対して自己の取り得る行動を他者と議論する中で,道徳的価値の理解を更に深めているかや,道徳的価値を実現することの難しさを自分のこととして捉え,考えようとしているかという視点も考えられる。

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 また,発言が多くない児童や考えたことを文章に記述することが苦手な児童が,教師や他の児童の発言に聞き入ったり,考えを深めようとしたりしている姿に着目するなど,発言や記述ではない形で表出する児童の姿に着目するということも重要である。

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 さらに,年間や学期を通じて,当初は感想文や質問紙に,感想をそのまま書いただけであった児童が,学習を重ねていく中で,読み物教材の登場人物に共感したり,自分なりに考えを深めた内容を書くようになったりすることや,既習の内容と関連付けて考えている場面に着目するなど,1単位時間の授業だけでなく,児童が一定の期間を経て,多面的・多角的な見方へと発展していたり,道徳的価値の理解が深まったりしていることを見取るという視点もある。

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 ここに挙げた視点はいずれについても例示であり,指導する教師一人一人が,質の高い多様な指導方法へと指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにするという道徳科の評価の趣旨を理解した上で,学校の状況や児童一人一人の状況を踏まえた評価を工夫することが求められる。

 
 

 道徳科における学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握するに当たっては,児童が学習活動を通じて多面的・多角的な見方へ発展させていることや,道徳的価値の理解を自分との関わりで深めていることを見取るための様々な工夫が必要である。

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 例えば,児童の学習の過程や成果などの記録を計画的にファイルに蓄積したものや児童が道徳性を養っていく過程での児童自身のエピソードを累積したものを評価に活用すること,作文やレポート,スピーチやプレゼンテーションなど具体的な学習の過程を通じて児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握することが考えられる。

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 なお,こうした評価に当たっては,記録物や実演自体を評価するのではなく,学習過程を通じていかに道徳的価値の理解を深めようとしていたか,自分との関わりで考えたかなどの成長の様子を見取るためのものであることに留意が必要である。

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 また,児童が行う自己評価や相互評価について,これら自体は児童の学習活動であり,教師が行う評価活動ではないが,児童が自身のよい点や可能性に気付くことを通じ,主体的に学ぶ意欲を高めることなど,学習の在り方を改善していくことに役立つものであり,これらを効果的に活用し学習活動を深めていくことも重要である。

 発達の段階に応じて,年度当初に自らの課題や目標を捉えるための学習を行ったり,年度途中や年度末に自分自身を振り返る学習を工夫したりすることも考えられる。

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 さらに,指導のねらいに即して,校長や教頭などの参加,他の教師と協力的に授業を行うといった取組も効果的である。

 管理職をはじめ,複数の教師が一つの学級の授業を参観することが可能となり,学級担任は,普段の授業とは違う角度から児童の新たな一面を発見することができるなど,児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子をより多面的・多角的に把握することができるといった評価の改善の観点からも有効であると考えられる。

 
 

 道徳科の評価を推進するに当たっては,学習評価の妥当性,信頼性等を担保することが重要である。

 そのためには,評価は個々の教師が個人として行うのではなく,学校として組織的・計画的に行われることが重要である。

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 例えば,学年ごとに評価のために集める資料や評価方法等を明確にしておくことや,評価結果について教師間で検討し評価の視点などについて共通理解を図ること,評価に関する実践事例を蓄積し共有することなどが重要であり,これらについて,校長及び道徳教育推進教師のリーダーシップの下に学校として組織的・計画的に取り組むことが必要である。

 校務分掌の道徳部会や学年会あるいは校内研修会等で,道徳科の指導記録を分析し検討するなどして指導の改善に生かすとともに,日常的に授業を交流し合い,全教師の共通理解のもとに評価を行うことが大切である。

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 また,校長や教頭などの授業参加や他の教師との協力的な指導,保護者や地域の人々,各分野の専門家等の授業参加などに際して,学級担任以外からの児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子について意見や所感を得るなどして,学級担任が児童を多面的・多角的に評価したり,教師自身の評価に関わる力量を高めたりすることも大切である。

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 なお,先に述べた,校長や教頭などの参加,他の教師と協力的に授業を行うといった取組は,児童の変容を複数の目で見取り,評価に対して共通認識をもつ機会となるものであり,評価を組織的に進めるための一つの方法として効果的であると考えられる。

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 このような,組織的・計画的な取組の蓄積と定着が,道徳科の評価の妥当性,信頼性等の担保につながる。

 また,こうしたことが,教師が道徳科の評価に対して自信をもって取り組み,負担感を軽減することにもつながるものと考えられる。

 
 

 発達障害等のある児童に対する指導や評価を行う上では,それぞれの学習の過程で考えられる「困難さの状態」をしっかりと把握した上で必要な配慮が求められる。

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 例えば,他者との社会的関係の形成に困難がある児童の場合であれば,相手の気持ちを想像することが苦手で字義通りの解釈をしてしまうことがあることや,暗黙のルールや一般的な常識が理解できないことがあることなど困難さの状況を十分に理解した上で,例えば,他者の心情を理解するために役割を交代して動作化,劇化したり,ルールを明文化したりするなど,学習過程において想定される困難さとそれに対する指導上の工夫が必要である。

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 そして,評価を行うに当たっても,困難さの状況ごとの配慮を踏まえることが必要である。前述のような配慮を伴った指導を行った結果として,相手の意見を取り入れつつ自分の考えを深めているかなど,児童が多面的・多角的な見方へ発展させていたり道徳的価値を自分のこととして捉えていたりしているかといったことを丁寧に見取る必要がある。

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 発達障害等のある児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握するため,道徳的価値の理解を深めていることをどのように見取るのかという評価資料を集めたり,集めた資料を検討したりするに当たっては,相手の気持ちを想像することが苦手であることや,望ましいと分かっていてもそのとおりにできないことがあるなど,一人一人の障害により学習上の困難さの状況をしっかりと踏まえた上で行い,評価することが重要である。

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 道徳科の評価は他の児童との比較による評価や目標への到達度を測る評価ではなく,一人一人の児童がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め,励ます個人内評価として行うことから,このような道徳科の評価本来の在り方を追究していくことが,一人一人の学習上の困難さに応じた評価につながるものと考えられる。

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 なお,こうした考え方は,海外から帰国した児童や外国人の児童,両親が国際結婚であるなどのいわゆる外国につながる児童について,一人一人の児童の状況に応じた指導と評価を行う上でも重要である。これらの児童の多くは,外国での生活や異文化に触れてきた経験などを通して,我が国の社会とは異なる言語や生活習慣,行動様式を身に付けていると考えられる。

 また,日本語の理解が不十分なために,他の児童と意見を伝え合うことなどが難しかったりすることも考えられる。

 それぞれの児童の置かれている状況に配慮した指導を行いつつ,その結果として,児童が多面的・多角的な見方へと発展させていたり道徳的価値を自分のこととして捉えていたりしているかといったことを,丁寧に見取ることが求められる。

 その際,日本語を使って十分に表現することが困難な児童については,発言や記述以外の形で見られる様々な姿に着目するなど,より配慮した対応が求められる。

 
 
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