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 探究的な見方・考え方を働かせるということを目標の冒頭に置いたのは,探究的な学習の重要性に鑑み,探究的な学習の過程を総合的な学習の時間の本質と捉え,中心に据えることを意味している。

 総合的な学習の時間における学習では,問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく。

 これを探究的な学習と呼び,平成20年の「小学校学習指導要領解説総合的な学習の時間編」において,「探究的な学習における児童の学習の姿」として,図のような一連の学習過程を示した。

 

探究的な学習における児童の学習の姿

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 児童は,

@ 日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて,自ら課題を見付け,

A そこにある具体的な問題について情報を収集し,

B その情報を整理・分析したり,知識や技能に結び付けたり,考えを出し合ったりしながら問題の解決に取り組み,

C 明らかになった考えや意見などをまとめ・表現し,そこからまた新たな課題を見付け,更なる問題の解決を始める

 といった学習活動を発展的に繰り返していく。

 要するに探究的な学習とは,物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みのことである。

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 探究的な学習では,次のような児童の姿を見いだすことができる。

 事象を捉える感性や問題意識が揺さぶられて,学習活動への取組が真剣になる。

 身に付けた知識及び技能を活用し,その有用性を実感する。

 見方が広がったことを喜び,更なる学習への意欲を高める。

 概念が具体性を増して理解が深まる。

 学んだことを自己と結び付けて,自分の成長を自覚したり自己の生き方を考えたりする。

 このように,探究的な学習においては,児童の豊かな学習の姿が現れる。

 ただし,この@ABCの過程を固定的に捉える必要はない。

 物事の本質を探って見極めようとするとき,活動の順序が入れ替わったり,ある活動が重点的に行われたりすることは,当然起こり得ることだからである。

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 この探究のプロセスを支えるのが探究的な見方・考え方である。

 探究的な見方・考え方には,二つの要素が含まれる。

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 一つは,
 各教科等における見方・考え方を
 総合的に働かせるということである。

 各教科等の学習においては,
 その教科等の特質に応じた
 見方・考え方を働かせながら,
 教科等の目標に示す資質・能力の
 育成を目指すが,

 総合的な学習の時間における
 学習では,
 各教科等の特質に応じた
 見方・考え方を,
 探究的な学習の過程において,
 適宜必要に応じて総合的に活用する。

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 例えば,

 実社会・実生活の中の課題の探究
 において,

 言葉による見方・考え方を働かせること
(対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めること)や,

 数学的な見方・考え方を働かせること
(事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考えること)や,

 理科の見方・考え方を働かせること
(自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること)

 などの教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方が,繰り返し活用されることが考えられる。

 

 実社会・実生活における問題は,そもそもどの教科等の特質に応じた視点や捉え方で考えればよいか決まっていない。

 扱う対象や解決しようとする方向性などに応じて,児童が意識的に活用できるようになることが大事である。

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 二つは,
 総合的な学習の時間に固有な
 見方・考え方を働かせることである。

 それは,特定の教科等の視点だけで捉えきれない広範な事象を,多様な角度から俯瞰(ふかん)して捉えることであり,また,課題の探究を通して自己の生き方を問い続けるという,総合的な学習の時間に特有の物事を捉える視点や考え方である。

 本解説第3章で説明するように,探究課題は,一つの決まった正しい答えがあるわけでなく,様々な教科等で学んだ見方・考え方を総合的に活用しながら,様々な角度から捉え,考えることができるものであることが求められる。

 そして,課題の解決により,また新たな課題を見付けるということを繰り返していく中で,自分の生き方も問い続けていくことになる。

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 このように,各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,広範な事象を多様な角度から俯瞰(ふかん)して捉え,実社会・実生活の課題を探究し,自己の生き方を問い続けるという総合的な学習の時間の特質に応じた見方・考え方を,探究的な見方・考え方と呼ぶ。

 それは総合的な学習の時間の中で,児童が探究的な見方・考え方を働かせながら横断的・総合的な学習に取り組むことにより,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することにつながるのである。

 そして,学校教育のみならず,大人になった後に,実社会・実生活の中でも重要な役割を果たしていくのである。

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 なお,総合的な学習の時間において,各教科等における見方・考え方を総合的に活用するということは,社会で生きて働く資質・能力を育成する上で,教科等の学習と教科等横断的な学習を往還することが重要であることを意味している。

 系統的に構造化された内容を,それぞれの特質に応じた見方・考え方を働かせて学ぶ教科等の学習と,総合的な学習の時間において,各教科等で育成された見方・考え方を,実社会・実生活における問題において総合的に活用する教科等横断的な学習の両方が重要であるということを意味している。

 このような教科等の学習と教科等横断的な学習の両方が示されていることは我が国の教育課程の大きな特色であり,今回の改訂では改めてその趣旨を明示している。

 
 

 横断的・総合的な学習を行うというのは,この時間の学習の対象や領域が,特定の教科等に留まらず,横断的・総合的でなければならないことを表している。

 言い換えれば,この時間に行われる学習では,教科等の枠を超えて探究する価値のある課題について,各教科等で身に付けた資質・能力を活用・発揮しながら解決に向けて取り組んでいくことでもある。

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 総合的な学習の時間では,
 各学校が
 目標を実現するにふさわしい探究課題
 を設定することになる。

 それは,例えば,
 国際理解,情報,環境,福祉・健康
 などの現代的な諸課題
 に対応する課題,

 地域や学校の特色に応じた課題,

 児童の興味・関心に基づく課題

 などである。

 

 具体的には,
 「身近な自然環境と
  そこで起きている環境問題」,

 「地域の伝統や文化と
  その継承に力を注ぐ人々」,

 「実社会で働く人々の姿と自己の将来」

 などを探究課題とすることが考えられる。

 

 こうした探究課題は,特定の教科等の枠組みの中だけで完結するものではない。

 実社会・実生活の中から見いだされた探究課題に教科等の枠組みを当てはめるのは困難であり,探究課題の解決においては,各教科等の資質・能力が繰り返し何度となく活用・発揮されることが容易に想像できる。

 
 

 総合的な学習の時間に育成する
 資質・能力については,
 よりよく課題を解決し,
 自己の生き方を考えていくため
 と示されている。

 このことは,
 この時間における資質・能力は,
 探究課題を解決するためのもの
 であり,
 またそれを通して,
 自己の生き方を考えることに
 つながるもの
 でなければならない
こと
 を明示している。

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 ここに見られるのは,
 課題を解決する中で
 資質・能力を育成する一方,
 課題の解決には
 一定の資質・能力が必要となる
 という双方向的な関係
である。

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 課題についての一定の知識や,
 活動を支える一定の技能がなければ,
 課題の解決には向かわない。

 解決を方向付ける,
 「考えるための技法」や
 情報活用能力,
 問題発見・解決能力
 を持ち合わせていなければ,
 探究のプロセスは進まない。

 その一方で,
 探究を進める中で,
 知識及び技能は
 増大し,洗練され,精緻(ち)化される。

 言語能力や
 情報活用能力,
 問題発見・解決能力も,
 より高度なものになっていく。

 つまり,
 既有の資質・能力を用いて
 課題の解決に向かい,
 課題の解決を通して,
 より高度な資質・能力が育成されていく

 のである。

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 このような関係を
 教師が意識しておくことが,
 よりよい課題の解決につながっていく。

 つまり,
 この時間の学習に必要な資質・能力
 とは何か
 を見極め,

 他教科等や
 それまでの総合的な学習の時間
 の学習において,
 意図的・計画的に育成すると同時に,

 総合的な学習の時間における
 探究的な学習の中で
 その資質・能力が高まるようにする

 ということである。

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 よりよく課題を解決するとは,
 解決の道筋が
 すぐには明らかにならない課題や,
 唯一の正解が存在しない課題
 などについても,

 自らの知識や技能等を
 総合的に働かせて,
 目前の具体的な課題を
 粘り強く対処し解決しようとすること
 である。

 

 身近な社会や人々,自然に
 直接関わる学習活動の中で,
 課題を解決する力を育てていくこと
 が必要になる。

 こうした
 よりよく課題を解決する資質・能力は,
 試行錯誤しながらも
 新しい未知の課題に対応することが
 求められる時代において,
 欠かすことのできない資質・能力である。

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 自己の生き方を考えることは,
 次の三つで考えることができる。

 一つは,
 人や社会,自然との関わりにおいて,
 自らの生活や行動について
 考えていくことである。

 社会や自然の一員として,
 何をすべきか,
 どのようにすべきか
 などを考えることである。

 また,
 これは低学年における
 生活科の学習の特質から
 つながってくる部分でもある。

 

 二つは,
 自分にとっての
 学ぶことの意味や価値
 を考えていくことである。

 取り組んだ学習活動を通して,
 自分の考えや意見を深めることであり,
 また,
 学習の有用感を味わうなどして
 学ぶことの意味を自覚することである。

 

 そして,
 これら二つを生かしながら,
 学んだことを
 現在及び将来の自己の生き方に
 つなげて考えること
 が三つ目である。

 学習の成果から
 達成感や自信をもち,
 自分のよさや可能性に気付き,
 自分の人生や将来について
 考えていくことである。

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 総合的な学習の時間においては,
 こうした形で
 自己の生き方を考えること
 が大切である。

 その際,
 具体的な活動や事象との関わりを
 よりどころとし,
 また身に付けた資質・能力を用いて,
 よりよく課題を解決する中で
 多様な視点から考えること
 が大切である。

 また,
 その考えを深める中で,
 更に考えるべきことが
 見いだされるなど,
 常に自己との関係で見つめ,
 振り返り,問い続けていこうとすること
 が重要である。

 
 
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