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 本解説第4章で解説したように,今回の改訂では,「探究的な学習の過程においては,他者と協働して問題を解決しようとする学習活動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにすること。

 その際,例えば,比較する,分類する,関連付けるなどの考えるための技法が活用されるようにすること。」とした。

 本項では,この「考えるための技法」の活用について,その意義と具体的な例を紹介する。



 物事を比較したり分類したりすることや,物事を多面的に捉えたり多角的に考えたりすることは,様々な形で各教科等で育成することを目指す資質・能力やそのための学習の過程に含まれている。

 例えば,理科においては,電気を通す物と通さない物を調べる際に,実験の結果を表などに分類,整理する。

 家庭科においては,食物を私たちの健康における意味・機能に基づいて分類したりする。

 特別活動(学級活動)においては,話合いの中で児童から出てきた意見を基に,記録を担当する児童が賛成意見と反対意見に分けて板書したりする。

 こうした過程においては,対象や活動が異なり,かつそれぞれの教科等に特有の見方・考え方も関わっているが,対象を何らかの性質に基づいて分類し,気付きを得たり理解を深めたりするという思考が行われていることについては共通している。

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 「考えるための技法」とは,
 この例のように,
 考える際に必要になる情報の
 処理方法を,
 「比較する」,
 「分類する」,
 「関連付ける」
 のように具体化し,
 技法として整理したものである。

 

 総合的な学習の時間が,
 各教科等を越えて
 全ての学習における基盤となる
 資質・能力を
 育成することが期待されている中で,

 こうした教科等横断的な
 「考えるための技法」について,
 探究的な過程の中で学び,
 実際に活用すること
 も大切であると考えられる。

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 「考えるための技法」を活用する
 ということは,

 自分が普段無意識のうちに
 立っていた視点を
 明確な目的意識の下で
 自覚的に移動する

 という課題解決の戦略が,
 同じ事物・現象に対して
 別な意味の発見を促し,
 より本質的な理解や洞察を得る
 という学びである。

 

 この共通性に
 児童が気付き,
 対象や活動の違いを超えて,
 視点の移動という
 「考えるための技法」
 を身に付け,
 その有効性を感得し,
 様々な課題解決において
 適切かつ効果的に活用できる
 ようになることが望まれる。

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 とりわけ,
 他教科等と異なり,
 総合的な学習の時間では,
 どのような「考えるための技法」が
 課題解決に有効であるのかが,
 あらかじめ見えていないことが多い。

 

 他教科等の特質に応じて存在している
 「考えるための技法」を
 児童が
 より汎用的なものとして身に付け,

 実社会・実生活の課題解決において
 課題の特質に応じて
 「考えるための技法」を
 自在に活用できるようになるには,

 総合的な学習の時間において,
 どのような対象なり場面の,
 どのような課題解決に,
 どのような理由で,
 どのような「考えるための技法」が
 有効なのか
 を考え,

 実際に試し,
 うまくいったりいかなかったりする
 経験を積むこと
 が大切になってくる。

 

 そのためには,
 他教科等で育成を目指す資質・能力
 を押さえ,
 それらとの関連を意識して,
 総合的な学習の時間の目標及び内容
 の設定を工夫すること
 が重要になってくる。

 こうした形で,
 総合的な学習の時間は,
 教科等横断的な
 カリキュラム・マネジメントにおいて
 重要な役割を果たしていくのである。

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 総合的な学習の時間において,
 「考えるための技法」を活用すること
 の意義については,
 大きく三つの点が考えられる。

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 一つ目は,
 探究の過程のうち特に
 「情報の整理・分析」
 の過程における
 思考力,判断力,表現力等を育てる
 という意義である。

 情報の整理・分析においては,
 集まった情報をどのように処理するか
 という工夫が必要になる。

 「考えるための技法」は,
 こうした分析や工夫を助けるためのもの
 である。

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 二つ目は,
 協働的な学習を充実させる
 という意義である。

 「考えるための技法」を使って
 情報を整理,分析したものを
 黒板や紙などに書くことによって,
 可視化され
 児童間で共有して考えることが
 できるようになる。

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 三つ目は,
 総合的な学習の時間が,

 各教科等を越えた
 全ての学習の基盤となる資質・能力
 を育成すると同時に,

 各教科等で学んだ資質・能力を
 実際の問題解決に活用したりする
 という特質を生かす

 という意義である。

 「考えるための技法」を
 意識的に使えるようにする
 ことによって,

 各教科等と
 総合的な学習の時間の学習を
 相互に往還する意義
 が明確になる。

 
 

 学習指導要領においては,
 「考えるための技法」が
 どのようなものか
 具体的に列挙して示すことは
 していない。

 各学校において,
 総合的な学習の時間だけでなく,
 各教科等において,
 どのような
 「思考力,判断力,表現力等」を
 養いたいか
 ということを踏まえつつ,
 児童の実態に応じて活用を図ること
 が期待される。

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 ここでは,
 学習指導要領において,
 各教科等の目標や内容の中に
 含まれている
 思考力,判断力,表現力等に係る
 「考えるための技法」
 につながるものを分析し,

 概ね小学校段階において活用できる
 と考えられるものを
 例として整理した。

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 これらは
 あくまで例示であると同時に,
 漏れなく重なりなく列挙するもの
 ではなく,
 関わり合うものである。

 例えば,
 複数の対象同士を比較する場合には,
 一旦共通点のあるもの同士を
 分類した上で
 比較することになる。

 また例えば,
 最初は共通点が見いだせなかった
 対象同士について,
 それぞれを「多面的に見て」
 複数の特徴を書き出していく中で,
 関連付けることが可能になる
 ということもある。

 なお,
 ここでいう対象は,
 具体的な物や事象であったり,
 知識や情報であったり,
 探究の過程の中で出てくる考えである
 こともある。

○ 順序付ける

・ 複数の対象について,ある視点や条件に沿って対象を並び替える。

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○ 比較する

・ 複数の対象について,ある視点から共通点や相違点を明らかにする。

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○ 分類する

・ 複数の対象について,ある視点から共通点のあるもの同士をまとめる。

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○ 関連付ける

・ 複数の対象がどのような関係にあるかを見付ける。

・ ある対象に関係するものを見付けて増やしていく。

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○ 多面的に見る・多角的に見る

・ 対象のもつ複数の性質に着目したり,対象を異なる複数の角度から捉えたりする。

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○ 理由付ける(原因や根拠を見付ける)

・ 対象の理由や原因,根拠を見付けたり予想したりする。

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○ 見通す(結果を予想する)

・ 見通しを立てる。
  物事の結果を予想する。

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○ 具体化する(個別化する,分解する)

・ 対象に関する上位概念・規則に当てはまる具体例を挙げたり,対象を構成する下位概念や要素に分けたりする。

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○ 抽象化する(一般化する,統合する)

・ 対象に関する上位概念や法則を挙げたり,複数の対象を一つにまとめたりする。

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○ 構造化する

・ 考えを構造的(網構造・層構造など)に整理する。

 これらの「考えるための技法」により
 思考が深まる中で,
 児童は,例えば

 複数の軸で順序付け,
 比較,分類ができるようになったり,

 より多様な関連や様々な性質に
 着目できるようになったり,

 対象がもつ
 本質的な共通点や固有の性質
 に気付いたりできるようになるなど,

 「考えるための技法」を用いて
 効果的に思考することが
 できるようになっていく
 と考えられる。

 

 特に,
 比較したり分類したりする際に,
 どのような性質等に着目するか
 という,
 視点の設定ができるようになることが
 一つのポイントである
 と考えられる。

 最初は教師が
 視点の例
 (例えば,
  地域の文化財を
  「有形のもの」,「無形のもの」
  で分類するという視点)
 を示しつつ,

 児童の習熟の状況に応じて,
 児童自身が試行錯誤しながら
 視点を考えるようにしていく
 ということが考えられる。

 

 このように,
 どのような視点に着目して
 比較したり分類したりするかを
 児童が自在に考えることが
 できるようになる
 ということは,

 総合的な学習の時間が,
 各教科等の見方・考え方を
 総合的に活用するものであること
 と深く関わっていると言える。

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 これらの「考えるための技法」を
 意識的に使えるようにするためには,
 児童の習熟の状況等を踏まえながら,
 教師が声掛けをしたり,
 紙などに書いて
 可視化したりするような活動
 を取り入れることが有効である。

 例えば,
 「比較する」や「分類する」を
 可視化する方法としては,
 例えば,
 事柄を一つずつ
 カードや付箋紙に書き出し,
 性質の近いものを一カ所に集める
 という手法などがある。

 共通する性質を見いだすことは
 「抽象化する」ことにつながる。

 「分類する」については,
 児童の発達の段階や習熟の状況
 に応じて,
 縦軸と横軸を設定して
 4象限に書き込んだりすること
 も考えられる。

 また,
 関連付けるを可視化する方法として,
 例えば,
 ある事柄を中央に置き,
 関連のある言葉を次々に書き出し,
 線でつないでいく
 という方法
 (いわゆるウェビング)など
 が考えられる。

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 このように
 「考えるための技法」を
 紙の上などで可視化することで,
 いわば道具のように
 意図的に使えるようになる。

 児童の思考を助けるために
 あらかじめワークシートの形で
 用意しておくことも考えられる。

 「考えるための技法」を
 可視化して使うことには
 次のような意義があると考えられる。

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 一つには,
 教科等を越えて,
 児童の思考を助けることである。

 抽象的な情報を扱うことが
 苦手な児童にとっては,
 それを書き出すことで
 思考がしやすくなる。

 各学校の中で,
 例えば「○○小学校思考ツール」として
 共通のワークシート等を
 活用することが,
 各教科等における
 思考力,判断力,表現力等を
 育成する上でも
 有効であると考えられる。

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 二つには,
 協働的な学習,
 対話的な学習
 がしやすくなるということである。

 紙などで可視化することにより,
 複数の児童で
 情報の整理,分析を
 協働して行いやすくなる。

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 三つには,
 学習の振り返りや
 指導の改善に
 活用できるということである。

 一人一人の児童の思考の過程を
 可視化することにより,
 その場で教師が助言を行ったり,
 児童自身が単元の終わりに
 探究の過程を振り返ったりすること
 に活用できる。

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 あわせて,
 こうしたツールを活用すること自体が
 目的化しないようにする
 ということも重要である。

 「考えるための技法」を使うことを
 児童に促すことは,
 学習の援助になる一方で,
 授業が書く作業を行うことに終始
 してしまったり,
 児童の自由な発想を妨げるもの
 になってしまったりすることもある。

 活用の目的を意識しなければ,
 かえってねらいを達成できない
 ことも考えられる。

 学習の過程において,
 どのような意図で,
 どのように使用するかを
 計画的に考える必要がある。

 「考えるための技法」を用いて
 思考を可視化するということは,
 言語活動の一つの形態であり,
 言語活動の様々な工夫とあわせて
 効果的に活用することが望まれる。

 
 
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