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 探究的な学習とするためには,学習過程が以下のようになることが重要である。

【@課題の設定】

 体験活動などを通して,課題を設定し課題意識をもつ

  ↓↓↓

【A情報の収集】

 必要な情報を取り出したり収集したりする

  ↓↓↓

【B整理・分析】

 収集した情報を,整理したり分析したりして思考する

  ↓↓↓

【Cまとめ・表現】

 気付きや発見,自分の考えなどをまとめ,判断し,表現する

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 なお,ここでいう情報とは,判断や意思決定,行動を左右する全ての事柄を指し,広く捉えている。

 言語や数字など記号化されたもの,映像や写真など視覚化されたものによって情報を得ることもできるし,具体物との関わりや体験活動など,事象と直接関わることによって情報を得ることもできる。

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 もちろん,こうした探究の過程は,いつも@〜Cが順序よく繰り返されるわけではなく,順番が前後することもあるし,一つの活動の中に複数のプロセスが一体化して同時に行われる場合もある。

 およその流れのイメージであるが,このイメージを教師がもつことによって,探究的な学習を具現するために必要な教師の指導性を発揮することにつながる。

 また,この探究の過程は何度も繰り返され,高まっていく。

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 例えば,地域に多くの観光客が訪れることから,児童は「地域のよさって何だろう。」と考える(@課題の設定)。

 学級内で「地域のよさ」について話合いをしたり,地域の人や観光客からアンケートを取ったりする(A情報の収集)。

 その収集した情報を仲間分けしていくと,気付いていなかった地域のよさが明らかになってくる(B整理・分析)。

 そのよさを確かめるために,実際に見学に行ったり体験をしたりなどして,「地域のよさ」について新たな情報を集めてくる(A情報の収集)。

 さらに,友達と「本当の地域のよさ」について情報交換し話合いをする(Cまとめ・表現)。

 話し合う中で,「もっと地域の魅力を知りたい。」という,新たな課題が設定され,更なる課題の解決が始まる。

 「地域のよさって何だろう。」という最初の疑問は,児童にとって本気で真剣な「地域の魅力を調べよう。」へと更新されていく。

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 以下に,それぞれのプロセスごとの学習活動のイメージと,そこで行われる具体的な教師の学習指導のポイントを記す。

 
 

 総合的な学習の時間にあっては,児童が実社会や実生活に向き合う中で,自ら課題意識をもち,その意識が連続発展することが欠かせない。

 しかし,児童が自ら課題をもつことが大切だからといって,教師は何もしないでじっと待つのではなく,教師が意図的な働きかけをすることが重要である。

 例えば,
 人,社会,自然に直接関わる体験活動
 においても,
 学習対象との関わり方や出会わせ方
 などを,
 教師が工夫する必要がある。

 

 その際,
 事前に
 児童の発達や興味・関心を
 適切に把握し,

 これまでの児童の考えとの
 「ずれ」や「隔たり」
 を感じさせたり,

 対象への「憧れ」や「可能性」
 を感じさせたりする

 工夫をしなくてはならない。

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 例えば,
 児童は,
 対象やそこに存在する問題事象に
 直接出会い向き合うとき,

 「不思議だ」,「どうしてかな」
 という疑問や,
 「びっくりした」,「知らなかった」
 という驚きなど,
 現実の状況と理想の姿との対比
 などから問題を見いだし,
 課題意識を高めることが多い。

 

 身近な川を対象にし,川の探検をする活動では,川にゴミが落ちていることや川が汚れていることなどに気付く。

 こうした川の現実の姿を知ることで,理想的な川のイメージとのずれなどから,児童は身近な川の環境問題に意識を向ける。

 ここでは,実際の川を目で見て,肌で触れることが効果的である。

 身体全体を通して川と関わり,
 川を理解することが,
 「どうして川が汚れているのだろう」,
 「いつごろから
  川が汚くなったのだろう」,
 「生き物は生息しているのだろうか」
 などといった課題意識を高めていく。

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 課題を設定する場面では,こうした対象に直接触れる体験活動が重要であり,そのことが,その後の息の長い探究的な学習活動の原動力となる。

 
 

 課題意識や設定した課題を基に,児童は,観察,実験,見学,調査,探索,追体験などを行う。こうした学習活動によって,児童は課題の解決に必要な情報を収集する。

 情報を収集する活動は,そのことを児童が自覚的に行う場合と無自覚的に行っている場合とがある。

 目的を明確にして調査したりインタビューしたりするような活動では,自覚的に情報を収集していることになる。

 一方,体験活動に没頭したり,体験活動を繰り返したりしている時には,無自覚のうちに情報を収集していることが多い。

 そうした自覚的な場と無自覚的な場とは常に混在している。

 意図や目的をもって栽培活動を繰り返す活動では,育てている作物に関する様々な情報を収集しているのだが,同時にその中で無自覚的な情報の収集も行われている。

 このように,情報を収集することにおいても,体験活動は重要である。

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 例えば,川に生息する水生生物を調べたり,パックテストなどで水質調査をしたりする。

 実際に川に入って生き物を探したり,水質を調べたりする。

 また,川の周辺の植生などを観察することも考えられる。

 その他にも,川の昔と今の様子を図書館の文献で調べたり,川の近くの住民にインタビューしたりすることも考えられる。

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 こうした場面では,いくつかの配慮すべき事項がある。

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 一つ目は,収集する情報は多様であり,それは学習活動によって変わるということである。

 例えば,パックテストを使えば数値化した情報を収集することができる。

 文献を調べたり,インタビューをしたりすれば言語化した情報を手に入れることができる。

 実際に体験活動を行えば「汚い」,「くさい」といった感覚的な情報の獲得が考えられる。

 どのような学習活動を行うかによって収集する情報の種類が違うということであり,その点を十分に意識した学習活動が行われることが求められる。

 特に,総合的な学習の時間では,体験を通した感覚的な情報の収集が大切であり,そうした情報こそが児童の真剣な探究的な学習活動を支える。

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 二つ目は,課題解決のための情報収集を自覚的に行うことである。

 具体的な体験活動が何のための学習活動であるのかを自覚して行うことが望ましい。

 体験活動自体の目的を明確にし,そこで獲得される情報を意識的に収集し蓄積することが大切である。

 そのことによって,
 どのような情報を収集するのか,
 どのような方法で収集するのか,
 どのようにして蓄積するのか,
 などの準備が整うことになる。

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 三つ目は,収集した情報を適切な方法で蓄積することである。

 数値化した情報,言語化した情報などは,デジタルデータをはじめ様々な形のデータとして蓄積することが大切である。

 その情報がその後の探究的な学習活動を深める役割を果たすからである。

 収集した場所や相手,期日などを明示して,ポートフォリオやファイルボックス,コンピュータのフォルダなどに蓄積していく。

 その際,個別の蓄積を基本とし,必要に応じて学級やグループによる共同の蓄積方法を用意することが考えられる。

 一方,適切な方法で蓄積することが難しいのは感覚的な情報である。

 体験活動を行ったときの感覚,そのときの思いなどは,時間の経過とともに薄れていき,忘れ去られる。

 しかし,そうした情報は貴重なものであり,その後の課題解決に生かしたい情報である。

 したがって,体験活動を適切に位置付けていくだけではなく,体験で獲得した情報をレポートなどで言語化して,対象として扱える形で蓄積することにも配慮が必要である。

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 また,こうした情報の収集場面では,各教科等で身に付けた資質・能力を発揮することで,より多くの情報,より確かな情報が収集できる。

 例えば,理科で身に付けた観察する技能や動植物に対する知識は,河川の周辺の情報を豊かに集めることにつながる。

 また,国語科で身に付けた話すこと・聞くことに関する思考力,判断力,表現力等を生かし,周辺の住民にインタビューをしてたくさんの情報を入手することも可能になる。

 社会科の資料活用の学習を生かして,多様な文献を探し出し,資料を比較することも考えられる。

 なお,情報の収集に際しては,必要に応じて教師が意図的に資料等を提示することも考えられる。

 
 

 Aの学習活動によって収集した多様な情報を整理したり分析したりして,思考する活動へと高めていく。

 収集した情報は,それ自体はつながりのない個別なものである。

 それらを種類ごとに分けるなどして整理したり,細分化して因果関係を導き出したりして分析する。

 それが思考することであり,そうした学習活動を位置付けることが重要である。

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 例えば,水生生物の分布の様子を地図上に整理したり,水質の変化をグラフ化したりすることが考えられる。

 また,文献から得た情報を年代ごとに表にまとめたり,インタビューから得た情報をカードにして整理したりすることも考えられる。

 あるいは,論点を明確にして決断を迫るような討論を行うことなども考えられる。

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 このような学習活動を通して,児童は収集した情報を比較したり,分類したり,関連付けたりして情報内の整理を行う。

 このことこそ,情報を活用した活発な思考の場面であり,こうした学習活動を適切に位置付けることが重要である。

 その際には,以下の点に配慮したい。

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 一つは,児童自身が情報を吟味することである。

 自分が見たこと,人から聞いたこと,図書やインターネット等で調べたことなど様々な情報が集まる。

 特に情報通信技術の発達により,インターネット等で大量の情報に接することが容易となった今日においては,どのように入手した情報なのか,どのような性格の情報なのかということを踏まえて整理を行うことが必要である。

 特に児童は,図書やインターネット等で示されている情報をそのまま客観的な事実として捉えがちである。

 しかし実際には,統計などの客観的なデータや当事者が公式に発表している一次情報だけでなく,誰かの個人的な意見であったり,他所からの転用であったりする情報も多い。

 一旦収集した情報を整理する段階で吟味することの必要性について考えさせることが重要である。

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 二つは,どのような方法で情報の整理や分析を行うのかを決定することである。

 情報の整理の仕方は数値化された情報と,言語化した情報とでは扱い方が違ってくる。

 また情報の分量が多いか少ないかによっても扱い方は変わってくる。

 数値化された情報であれば,統計的な手法でグラフにすることが考えられる。

 グラフの中にも,折れ線グラフ,棒グラフ,円グラフなど様々な方法が考えられる。

 言語化された情報であれば,カードにして整理する方法,出来事を時間軸で並べる方法,調査した結果をマップなどの空間軸に整理する方法などが考えられる。

 情報に応じて適切な整理や分析の方法が考えられるとともに,その学習活動によって,どのように考えさせたいのかが問われる。

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 ここでは,
 情報を整理・分析することを
 意識的に行うために,

 比較して考える,
 分類して考える,
 序列化して考える,
 類推して考える,
 関連付けして考える,
 原因や結果に着目して考える,

 などの「考えるための技法」を
 意識することがポイントとなる。

 

 何を,どのように考えさせたいのか
 を意識し,
 「考えるための技法」を用いた思考
 を可視化する思考ツールを
 活用することで,
 整理・分析場面の学習活動の
 質を高め,
 全ての児童に資質・能力を
 確かに育成していくことが
 求められている。

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 なお,ここでも,先の事例でも明らかなように,国語科の「情報の扱い方」や算数科の「データの活用」をはじめ様々な教科での学習成果が生かされる。

 
 

 情報の整理・分析を行った後,それを他者に伝えたり,自分自身の考えとしてまとめたりする学習活動を行う。

 そうすることで,それぞれの児童の既存の経験や知識と,学習活動により整理・分析された情報とがつながり,一人一人の児童の考えが明らかになったり,課題がより一層鮮明になったり,新たな課題が生まれたりしてくる。

 このことが学習として質的に高まっていくことであり,表面的ではない深まりのある探究的な学習活動を実現することにつながる。

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 例えば,調査結果をレポートや新聞,ポスターにまとめたり,写真やグラフ,図などを使ってプレゼンテーションとして表現したりすることなどが考えられる。

 相手を意識して,伝えたいことを論理的に表現することで,自分の考えは一層確かになっていく。

 身近な川における環境の問題を考えながら,自らの日頃の行動の在り方,身近な環境と共生する方法について考えることになる。

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 こうした場面では,次の点に配慮したい。

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 一つは,相手意識や目的意識を明確にしてまとめたり,表現したりすることである。

 誰に伝え,何のためにまとめるのかによって,まとめや表現の手法は変わり,児童の思考の方向性も変わるからである。

 二つは,まとめたり表現したりすることが,情報を再構成し,自分自身の考えや新たな課題を自覚することにつながるということである。

 三つは,伝えるための具体的な方法を身に付けるとともに,それを目的に応じて選択して使えるようにすることである。

 例えば,様々な手法を使って,探究的な学習活動によって分かったことや考えたことを,学級の友達や保護者,地域の人々などに分かりやすく伝える,といったことである。

 ここでは,各教科等で獲得した表現方法を積極的に活用することが考えられる。

 文章表現はもちろん,図表やグラフ,絵,音楽などを使い,それらを組み合わせて表現することなども考えられる。

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 このように,表現するに当たっては国語科,音楽科,図画工作科などの教科で身に付けた力が発揮されることが予想できる。

 なお,ここでの学習活動は,それ自体がABCの学習活動を同時に行っていると考えることができる場合もある。

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 ここまで,

 @【課題の設定】,
 A【情報の収集】,
 B【整理・分析】,
 C【まとめ・表現】

 の探究的な学習の過程に沿って
 学習活動を具体的にイメージしてきた。

 こうした学習活動を
 繰り返していくことが
 探究的な学習を実現することに
 つながる。

 
 
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