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 中央教育審議会答申では,
 主体的に学ぶこと,
 協働的に学ぶこと
 の意義を説明するに当たり,
 人工知能にない人間の強み
 について以下のように言及している。

「人工知能がいかに進化しようとも,
 それが行っているのは
 与えられた目的の中での処理である。

 一方で人間は,

 感性を豊かに働かせながら,

 どのような未来を創っていくのか,
 どのように社会や人生を
 よりよいものにしていくのか

 という目的を
 自ら考え出すことができる。

 

 多様な文脈が複雑に入り交じった環境
 の中でも,
 場面や状況を理解して
 自ら目的を設定し,
 その目的に応じて
 必要な情報を見いだし,
 情報を基に深く理解して
 自分の考えをまとめたり,

 相手にふさわしい表現を工夫したり,

 答えのない課題に対して,
 多様な他者と協働しながら
 目的に応じた納得解を見いだしたり

 することができる
 という強みを持っている。」

 総合的な学習の時間においては,
 目標にも明示されているように,
 特に,
 異なる多様な他者と協働して
 主体的に課題を解決しようとする
 学習活動
 を重視する
必要がある。

 それは,
 多様な考え方をもつ他者と
 適切に関わり合ったり,
 社会に積極的に参画したり
 貢献したりする資質・能力
 の育成につながるからである。

 また,
 協働的に学ぶことにより,
 探究的な学習として,
 児童の学習の質を高める
 ことにつながるからである。

 そしてその前提として,
 何のために学ぶのか,
 どのように学ぶのか
 ということを児童自身が考え,
 主体的に学ぶ学習が基盤にあること
 が重要である。

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 協働的に学ぶことの意義の一つ目は,
 多様な情報の収集に触れることである。

 同じ課題を追究する学習活動を
 行っていても,
 収集する情報は
 協働的な学習の方が多様であり,
 その量も多い。

 情報の多様さと多さは,
 その後の整理や分析を
 質的に高める
ために
 欠くことのできない重要な要件である。

 

 二つ目は,
 異なる視点から検討ができる
 ことである。

 整理したり分析したりする際には,
 異なる視点や異なる考え方がある
 ことの方が,
 深まりが出てくる。

 一面的な考え方や
 同じ思考の傾向の中では,
 情報の整理や分析も
 画一的になりやすい。

 

 三つ目は,
 地域の人と交流したり
 友達と一緒に学習したりすることが,
 相手意識を生み出したり,
 学習活動のパートナーとしての
 仲間意識
 を生み出したりする
ことである。

 共に学ぶことが
 個人の学習の質を高め,
 同時に集団の学習の質も高めていく。

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 このように
 協働的に取り組む学習活動を
 行うことが,
 児童の学習の質を高め,
 探究的な学習を実現する
 ことにもつながる。

 具体的には,
 以下のような場面と児童の姿が
 想定できる。

 
 

 体験活動では,それぞれの児童が様々な体験を行い多様な情報を手に入れる。

 それらを出し合い,情報交換しながら学級全体で考えたり話し合ったりして,課題が明確になっていく場面が考えられる。

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 例えば,町の様子を探検した後に,発見したことを出し合い,それを黒板に整理し,「みんなが見付けた発見の中で,似ていたり,共通していたりすることはないだろうか」などと発問する。

 このことで児童は,町探検で発見してきた情報を改めて見つめ直し,互いの発見の共通点や相違点に気付いたり,互いの発見の関連性を見付けたりする。

 「ここがもっと知りたくなった,詳しく調べてみたいということはないだろうか」と更に問い掛けることで,「また探検に出かけてみたい」,「今度は詳しく調べてきたい」などと目的や課題を明確にしていくことができる。

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 学級という集団での協働的な学習を有効に機能させ,多様な情報を適切に活用することで,探究的な学習の質を高めることが可能となる。

 
 

 物事の決断や判断を迫られるような話合いや意見交換を行うことは,収集した情報を比較したり,分類したり,関連付けたりして考えることにつながる。

 そのような場面では,異なる視点からの意見交換が行われることで,互いの考えは深まる。

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 例えば,米作りの活動を行う際に,農薬の使用について話し合う場面が考えられる。

 農薬の使用は,米を順調に生育させ,病害虫などから守る役目がある。

 一方で,農薬を使用しないことに価値を見いだしている農家も存在する。

 実際に米作りの体験をしたり,生産者の苦労などを直接聞き取ったり,農作物の成長や農薬の科学的な働きを調べたりした上で話合いを行うと,異なる視点での意見が出され,互いの考えを深めることにつながっていく。

 このことにより,農薬の使用がどのような理由で行われているのか,そのことが食糧生産や農業事情と深く関わっていることなど,児童の幅広い理解と思考の深まりを生む。

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 このように異なる視点を出し合い,検討していくことで,事象に対する認識が深まり,学習活動を更に探究的な学習へと高めていくことが考えられる。

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 そのために,
 それぞれ異なる個性,
 興味関心をもっている児童同士で
 学ぶことには大きな意義がある。

 

 家業が農業であったり
 親戚に農業従事者がいたりする児童,

 食についての安全性に
 関心がある児童,

 食について深く考えたことはないが
 スポーツを通して
 健康に関心のある児童,

 外国での生活経験がある児童など,

 異なる興味関心や経験がある児童同士
 が学ぶことに
 より異なる視点からの考えを
 出し合いやすくなる
 ことが考えられる。

 

 またそうした学習を通して,
 互いのよさや可能性を尊重し合う態度
 の育成にもつながっていく。

 
 

 一人でできないことも集団で実現できることは多い。

 児童同士で解決できないことも地域の人や専門家などとの交流を通じて学んだことを手掛かりに学ぶこともできる。

 また,地域の大人などとの交流は,児童の社会参画の意識を目覚めさせる。

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 例えば,自分たちの生活する地域のよさを学び,その地域のよさを特産品として開発する学習活動が考えられる。

 児童は特産品を開発し,地域の人や専門家に提案しようとする。

 その際,学級の友達と力を合わせたり分担したりして特産品を作り,一人ではできなかったことも,仲間がいることで成し遂げられることを実感する。

 また,そこでは,開発した特産品のよさを地域の人に伝えようとしたり,特産品の特徴を分かりやすく伝えようとしたりして,真剣に活動に取り組む。

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 こうした製作や交流の場面では,友達や専門家からの助言,地域の大人からの激励を受ける場面を設定することができる。

 児童は特産品を開発する活動を通して,力を合わせて取り組むことの大切さや地域社会に関わる喜びなどを実感していく。

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 こうした探究的な学習に協働的に取り組むことを通して,児童は協働的な学習のよさや意義を学ぶことができる。

 協働的に学ぶことは総合的な学習の時間だけでなく,学校教育全体で進めていくものであるが,あらかじめ一つの決まった答えのない探究的な学習だからこそ協働的な学習のよさが見えやすいという面がある。

 
 

 本章の(1)から(3)までに示したように,
 協働的に取り組む学習活動
 においては,

 「なぜその課題を追究してきたのか
   (目的)」,

 「これを追究して
  何を明らかにしようとしているのか
   (内容)」,

 「どのような方法で追究すべきなのか
   (方法)」

 などの点が
 児童の中で
 繰り返し問われることになる。

 

 このことは,
 児童が自らの学習活動を振り返り,
 その価値を確認することにもつながる。

 協働して学習活動に取り組むことが,
 児童の探究的な学習を
 持続させ発展させるとともに,
 一人一人の児童の考えを深め,
 自らの学習に対する自信と
 自らの考えに対する確信を
 もたせることにもつながる。

 学級集団や学年集団を生かすことで,
 個の学習と集団の学習が
 互いに響き合うことに
 十分配慮し,
 質の高い学習を成立させる
 ことが求められる。

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 児童が社会に出たときに直面する
 様々な問題
 のほとんどは,
 一人の力だけでは解決できないもの,
 協働することでよりよく解決できるもの
 である。

 しかし,
 問題を自分のこととして受け止め,
 よりよく解決するために
 自分が取り組もうとする
 主体性
 がなければ,
 協働は成り立たない。

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 総合的な学習の時間は,
 協働的な学習を基盤とする

 しかし,
 その目指すところは,
 目標に明示したように
 一人一人が
 よりよく課題を解決し,
 自己の生き方を考えていくための
 資質・能力
 を養うことにある。

 指導計画の作成の段階,
 学習活動を行う段階,
 学習評価を行う段階
 のいずれにおいても,
 このことを意識しておきたい。

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 協働的に学ぶということは
 それぞれの個性を生かすということ
 でもある。

 学級の中では,
 全ての児童が
 社交的,開放的である
 とは考えられないし,
 内省を好む児童もいれば,
 他者との関わりに困難さを感じる
 児童もいて当然である。

 全ての児童を同じ方向に導く
 ということではなく,
 それぞれの児童なりに
 主体的に学ぶこと,
 協働的に学ぶこと
 のよさを実感できるように
 工夫することが必要である。

 そのためにも,
 協働性と主体性の両方を
 バランスよく意識したい。

 

 第1の目標の中に
 探究的な学習に
 主体的・協働的に取り組むこと
 が明示されたこと,

 各学校が
 育成を目指す資質・能力を
 設定するに当たり
 「学びに向かう力,
  人間性等については,
  自分自身に関すること及び
  他者や社会との関わりに関すること
  の両方の視点を踏まえること。」

 とされた趣旨は,
 こうした

 主体的であることと
 協働的であることの
 両方が重要である

 としたことによるものである。

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 なお,
 従来「協同的」としてきたものを
 今回の改訂で
 「協働的」と改めた趣旨は,
 意図するところは同じであるが,

 ここまで述べたような,
 異なる個性をもつ者同士で
 問題の解決に向かうことの
 意義を強調するため
のものである。

 
 
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